裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

月曜日

ラジオ・ゾンデ夢は枯れ野を駆けめぐる

 リオ・グランデとかカミオ・カンデとかでも可。可って何が。朝、7時半起き。8時、朝食。チキンとウズラ卵の目玉焼。K子に光熱費と炊飯器の代金渡す。長谷邦夫評原稿のゲラ校正。少し書き足し。昨日買った『実践カルチュラル・スタディーズ』にざっと目を通す。訳者あとがきから最初に読んだが、カルチュラル・スタディーズの基本的役割を“アカデミズムの蛸壷へと押し込められていた諸々の概念を、現実社会の消費分析へと再構成”すること、と定義しているのが非常にスッキリした説明たり得ていた。と、いうより、それ以外のところの、まさに蛸壷の中の蛸のようにうねくる文章のイラつくこと。

 久しぶりにK子に弁当作り。オカズはつくね煮。11時15分、どどいつ文庫伊藤氏来。恒例のトンデモ洋書行商。“さっき、この近くの小学校の校庭に年期の入った感じの変質者がいました!”と開口一番にうれしそうに報告してくる。やはりこういう人はそういうものによく出くわす運命を背負っているように思う。今回もイギリス大衆芸能ポスター集、ホモSF小説集、獣姦研究本、デブ女趣味ミニコミ、馬との性交で麻薬中毒を克服した男の自伝など、濃い々々。ウン万円。いろいろと古書関係貧乏ばなし。古書関係者にはホントウにディープな人生を送っている人物が多いが、凄いのは一般から見たその人生のディープさではなく、それを当然のことと思って不思議にも思わぬ、こちらとの常識の地平の落差であろう。1時、伊藤氏帰ったあとで昼飯。カツオ刺身にミョウガの味噌汁。

 KKベストからDちゃんの画集『ファンタスティック・サイレント』届く。宮崎駿がオビを描いていたのに驚いた。ここと約束している社会論書き下ろしもそろそろ手をつけないとなあ。鶴岡からトピックス的電話。ここには書けないこといろいろ。家を出て銀行で金をおろし、渋谷古書センター等散策。一旦マンションに帰るが、廊下の壁紙替えでシンナーぷんぷんのありさま、すぐに出て4時に、神南デンタルオフィス。奥歯をガリガリやられている最中にカミナリが響き、外は大雨。気圧の急低下にいきなり眠くなり、歯を削られながら何回か、ストンと落ちるように眠ってしまい、医者に注意された。帰り、雨やどりのつもりでパルコ2の喫茶店に入り、本読みながら時間つぶす。さっさと読み終わってしまい、詮方なく出たら、雨はひどくなっている。本降りになって出ていく〜という川柳を地でいって、ズブ濡れになって帰る。

 大和書房、海拓舎、ハルキ文庫、メディアワークス諸社から電話。あっという間に今週の打ち合わせスケジュールが埋まってしまう。まあ、連休前だしな。今年の連休は家にこもり、ひたすら仕事の予定。つまらぬ人生か? いやいや、ボブ・ホープいわく“私は釣をしない、魚は拍手してくれないから”。しかしホープはゴルフはやるんだよなあ。ボールも拍手してくれないのに。

 7時半、渋谷ブックファーストの棚をチェック。昨日ドカ買いのことを書いたが、今日ははやる心を抑えつけて一冊のみ。クアトロ通りの南仏・イタリア料理店『ラ・クッチーナ』。数カ月に一度、ここのブイヤベースが食べたくなる。スープ鍋に山盛りのオマール海老、車海老、ワタリガニ、アサリ、タラ、ムール貝などをタンノウした後、そのスープでリゾットを作ってくれるのだが、これがまた絶品。何のことはない南欧ちり鍋と雑炊。食べ方が慣れてますね、と感心された。要するに、指を使って殻を剥き、むしゃぶりついてチュウチュウ汁まで吸い、あたりをハネで汚しまくるのである。美味くエビカニを食う秘訣はカッコつけないこと。満腹になったのでデザートのタルトなどは遠慮し、代わりにコアントロー酒とエスプレッソコーヒー。エスプレッソは啜るとコメカミがキリキリと痛むほどの濃さで結構だった。

 アサリやムール貝をしこたま食べて、またジンマシンが出るかな、と心配していたら、左手の小指の先〜比喩ではなく、本当に小指の第一関節部だけがカユくなり、往生した。こないだの貝柱のときは右手の中指の第二関節部。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa