裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

月曜日

首筋にJISマーク

 あなた、ゆうべ日本工業規格事務所の女と! 朝、7時起き。半、朝食。バタロールとソーセージ、チーズ。週末に原稿まとめてやったせいか、なんとなくゆったりとしたいい気分で、寝転がって本など読みながらウトウト。快楽亭の師匠から電話。このひとも芸人のくせに朝型。映画館に朝イチで出かけるからではあるまいか。仕事に使いたいが○○という本を持っているか、という問い合わせ。持っているどころか、こっちもつい数日前原稿の資料に使って、目の前の棚に、まだしまわずに放り出してあったところである。すぐ送る、と言って切る。こういうこともあるんだねえ。そのあと鶴岡から電話。あれこれの話題でいひひひひひ、と水木しげるマンガの如き人の悪い笑い。やな師弟だね。電話しながら実録猟奇原作書く。青林堂K氏から電話、今日6時に打ち合わせすることにする。次回のロフト、6月13日に決まりそう。詳細はまたイベント欄に。

 2時、六本木まで出かける。うららかな陽射し。トツゲキラーメン食べて、ABCでいろいろ本を立ち読み。5000円分。明治屋で買い物して、5時近く帰宅。また原稿書き。6時時間割で大和堂K氏。『ガロ』連載の件。無理でしょう、今はぁ。山中潤のこと、福井のことなどいろいろ聞く。7時、SFマガジンS編集長に電話。図版受渡しの件、なかなかつかまらず。

 ガロと言えばこないだ東浩紀氏がインタビュー受けていて、TINAMIXでオタクをリスペクトする、と言っていた。マルチ萌え〜みたいな連中ばかりだからオタクはナメられるのであり、硬質な文章でオタクを語ることでオタクは変えていけるのだそうである。オタクは未だ低級な存在だから私がムヅカシイ言葉を使ってハイソなものにしてあげよう、というそのお心使いにはかたじけなさに涙がコボレる。

 今のオタクが“マルチ萌え〜”みたいな文章しか書けない、という認識は萌え系がほとんどの構成要因であるTINAMIから得たものだろう。ヨシのズイから、というやつである。ほぼ半数以上がオタクのSF・ホラー作家たちがそんな文章能力しか持っていないかどうか。マンガ家の表現力は視野に入ってないのか。批評不在どころか、これまで日本のアニメやゲームがその質を驚異的に上げていったのは、ユーザーたちの無茶苦茶にシビアかつダイレクトな批評眼によるものだった。小説や映画のように批評空間がメインユーザーたちの声とは別個に存在するのではなく(だから東氏の目にはとまらなかったのだろうが)、最も鋭い目をユーザーたちが持ち、その意見がほとんどタイムラグなしに次の作品に反映していっていた業界だったのだ。オタクたちは批評に耳を貸さない、と憤慨するバカがときどきいるが、それはしょせん“批評のための批評”である彼らの意見など、制作者側にとっても、そこと密着しているオタクたちにとっても、カッたるくてどうしようもないものだからなのである。

 オタク業界の持つ問題も実はそこにあり、批評があまりに有効性を持ちすぎたが故に、制作側の遊びや無謀な実験が許されなくなった状況が短期間に到来してしまったことによる閉塞感が現在、業界を覆っている。そこを東氏たちの活動が打ち破ってくれるのであるなら、これは反発どころか、全てのオタクが諸手をあげて迎えることに躊躇しないだろう。だが、どうもTINAMIXでの“批評というのはいまは、硬直して活力がなくなったジャンルを、言葉で根拠づけ権威づける役割を果たしている。(中略)アニメ批評はアニメを権威づけるものだし、マンガ批評はマンガを権威づけている”などという発言を見ていると、ホンマに分かっているんかいな、という不安を感じざるを得ない。今、オタク業界に必要なのはこのような権威的アプローチではなく、むしろ批評の無効化、権威の破壊なのである。

 S編集長、やっとつかまる。今回のブツは本なので、明日午前中届けでOKとのこと。8時から夕食作りにかかり、半にK子と。タケノコご飯、そぼろ金時、キンキ蒸し。食べてる最中に電話。札幌の母からで、親父が緊急入院したとか。喉のタンが吐き出せなくて、酸欠になったらしい。夜中にもう一度電話あり、予断を許さぬというほどではないが、さしていいとも言えぬ状態らしい。なをきにすぐ電話。まあ、あれだけの病状だったんだから仕方ないよなあ、という感じ。親父より母の方が自分のせいにしてそれを責めないか、の方が心配である。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa