裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

土曜日

にし松くん

シェー、献金がバレたざんす。

※コア石響『猫三味線』公演。

朝また6時ころからゼイゼイゴホゴホが始まる。
これで最近の私の体力はかなり消耗している。
困ったことだ。
しかしながら、喉の奥でヒュー、と音がする、この音自体は
何だか人間の肉体が立てる音とは思えなくて、何か聞いていて
面白い。

起きて企画書書きに入る。
考えてみれば、昔オノプロでまず、書かされたのが
こういう企画書であった。
一日数本も書かされたことがあり、こういうハッパかける
ような文章は私の資質にあっていたのかもしれない、と
思うことがある。

10時、朝食。バナナリンゴジュース、アオマメスープ。
外は昨日とは打って変わった好天。
三寒四温というがまさに。
母はやはり昨日の疲れで、朝食がすんだらしばらく昼寝するという。

息苦しさと胸苦しさ、非常に軽度だがずっと肋骨のあたりにあり。
ゼイゼイ言いながら日記つけていたら、もう12時を回っていた。
あわててシャワーのみ浴びて、家を出て四谷までタクシー。
途中大渋滞あり、何かと思ったら労組のデモであった。
迷惑この上なし。もちろん、派遣法廃止だとかの趣旨は理解するが
デモという行動が果たしてお上に自分たちの意見を到達せしめる
手段としてどれくらいの有効性を持つか、を考えてみるといい。

タクシーの中でスズくんから電話。
今日の石響の『猫三味線』口演、最初に一言、何か挨拶して
ほしいと石響の方から言ってきたとか。
いきなりで驚くが、まあいいですよ、と引き受ける。

それでも何とか1時5分過ぎくらいに四谷到着。
タクシー、支払った金の一部を
「障割を忘れていたので、お返しします」
と渡してくる。最初、“障割(障害者割引)”の意味がわからず、
思わず受け取ってしまった。降りてから、そうか、私が乗るとき
足を引きずっていたのを見て、障害者と思ったのだな、とわかる。
しかし、障害者手帳など見せてもいないし、一応、まだ二十代の
頃、何かのときのためにと親に言われて収得してはいるが、
K子に預けっぱなしだし、これを使って交通費とかを割り引いて
もらったこと一度もなし。
年齢からそう思い込まれたか。

そこから歩いて、直線距離にすれば3分もかからぬ場所なのだが
入り組んだ路地をあっちに曲がりこっちに曲りして、
コア石響。途中で、公園で日向ぼっこしているんだと思った
老人の方から、
「唐沢先生ですね? 私も後で石響に参ります」
と声をかけられた。

石響に行く。会場に入ると、“唐沢さんですね、本日は、すいませんが
冒頭での挨拶をお願いします”と企画者の方に改めて依頼された。
楽屋代わりになっている一階の石響サロンを訪ねる。
佳声先生、奥様、かずおさんがいらしていた。
佳声先生、久しぶりの『猫三味線』通し(短縮版であるが)で
ちょっと落ち着かなさそう。
寿司折をいただいて、昼食代わりにする。
いかにも江戸っ子の佳声先生が食べる寿司折らしく、濃いめに煮付けた
揚げの稲荷寿司と、干瓢の海苔巻きというクラシックなもの。

今日の伴奏を担当してくれる木村俊介さんにも紹介される。
和楽器演奏者として有数の人で、今日はこの伴奏の方がアタシの
語りより価値がある、などと佳声先生、おっしゃっていた。

ちょっと外の空気を吸いに出ていたら、私と同年配くらいの
(まあ、私は年齢不詳ではあるが)男性から、
「唐沢さんですか」
と声をかけられた。以前から、佳江さんなどより
「伊勢に凄い父のファンがいる」
と聞かされていた、H川さんだった。こういうときは、目立つ
顔格好なのも悪くはない。

会場の席に座って、いろいろH川さんと話す。
私の『猫三味線』のDVDを見て佳声先生の芸に惚れ込み、
伊勢から佳声先生の会があるたびに新幹線で上京する、とか
話を聞いていたので、もっとエキセントリックなマニアの人か、
と思っていたら、非常に真面目で、紙芝居のことも真剣に
考えていらっしゃる方だった。
さすが、伊勢神宮のお膝元に住いしていると心もまっすぐに
なってくるか。

鈴木スズくんなども来て、さて、開演。
紹介されて前に出、佳声先生の『猫三味線』との出会い、
紙芝居という芸の位置づけ、その中での梅田佳声という
人物の芸がいかに突出した、紙芝居の伝統を受けつぐというよりは
革新的なものであったか、ということなどを話す。
「幸いにも、佳声さんの代表作、猫三味線はDVDに残すことが
出来ました。しかし、まだまだ梅田佳声の魅力は伝えきっては
おりません。今後とも佳声芸の魅力を広めていく努力を続けて
まいりますので、よろしくお願い申し上げます」
と、何だか選挙応援演説みたいな感じだな、と自分で苦笑。
ただ、石響には大変後で感謝された。

で、いよいよ佳声先生の登場。
今日は通し口演とはいえ、一時間ちょっとの短縮版なので
冒頭の、高大之進の喜助殺しの一段などがだいぶ飛ばされて
しまっている。その分スピーディになってはいるが、
冒頭のピカレスクなムード、殺人のあとの
「喉頚絞めるは鵜飼いの商売、情けがあっては勤まらぬ」
などというふてぶてしい大之進のつぶやきなどがカットされるのは残念。

終ったあと、佳声夫人がケイ・タジミ(『猫三味線』の画家)
氏手作りの芝居看板のミニチュアなどを持ってきて、K川さんに
見せていた。石響のスタッフたちとみんなで記念撮影など。
佳江さんも駆けつけていた。
かずおさん、
「猫三味線には実は時間経過で凄いウソがあるんです」
と。ああ、あの場面か、と思う。

その後、近くのルノアールで、H川さん、スズくんと
しばらく紙芝居談義。紙芝居と伊勢という土地柄をどう結びつけるか、
というH川さんの案件などを聴く。
私も、佳声先生の演目を可能な限り記録・商品化するという
企画のことを話す。

6時まで話して、H川さんと別れ、その後、スズくんと、
近くのシャモ料理屋に行き、いろいろと話す。
要は、われわれは紙芝居ファンというよりは梅田佳声ファン、
佳声マニアなのではないか、梅田佳声の芸に出会わなければ
ここまで紙芝居にハマりこみはしなかったのではないか、と
いうようなこと。

9時、いい機嫌で帰宅。
酔いを醒すためにちょっと横になるか、と思ってベッドに
入ったら、朝までグーと寝っぱなし。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa