裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

土曜日

ボンドにボンドにご苦労さん

♪いやじゃありませんか諜報員 針金時計に毒の靴 仏様でもあるまいに 金粉死体は情けなや

※朝日新聞書評原稿 新宿武蔵野館トーク

朝8時起床。昨日は寝たのがまだ10時だったから、10時間近く
寝ていたことになる。寝坊になったというか、疲れて病んだ体が睡眠を欲するというか。そのせいでもなかろうが、病院に入院している夢をいくつも見た。お見舞いに美女(知人とかでない、まったくの想像上の美女)がきて、これとイチャつくのだが、イヤこれは夢だろう、と思って目をあけてみると、その美女の姿がCGであるかのようにサーッと消える、というもの。もちろん、目をあけてみたところも夢である。

入浴して、9時朝食。野菜のコンソメに、果物多々。豪華である。土曜日なので当然『ぶらり途中下車の旅』見るが、心なしか滝口順平の声に元気がないような。今年76歳、まだ頑張ってほしい。そう言えば新しい『ゲゲゲの鬼太郎』でも、まだ目玉親父は田の中勇なのだねえ。あの人も滝口さんの一つ下。

朝日新聞書評用読書しばし。椎根和『平凡パンチの三島由紀夫』読む。三島由紀夫はあれだけの高踏的文学で業績を残しながら、本人は若者向け雑誌の特集記事などに気軽に寄稿(文化人謝礼の相場の1000円ぽっきりで)してくれる貴重な存在で、ビートルズ来日からゴーゴークラブ、全学連デモまで好奇心のかたまりのように取材におもむくミーハー的感性の持ち主でもあった(この本には書かれていないが、空飛ぶ円盤研究会にも所属して、円盤観測会などに参加してもいたのである)。

最初は三島の“本体”であったミーハーが、やがて政治思想家という虚像の方に侵食されていく。ビートルズ来日の騒ぎを見て
「虚像というものはおそろしい」
という感想を抱いた三島自身が、次第に虚像化していく過程の一部を、この本は伝えてくれている。惜しむらくは材料が足りないせいか、変な学術的な三島分析をしている部分の説得力があきらかに落ちる。

ところで、著者名の椎根和は“しいね・やまと”と読む。名前として“和”と書いて“やまと”は珍しい読みだろう。日本精神思想に傾斜していく三島に、この名前はどう映っただろうか。

読了して、書評原稿書く。もちろん、上記のものとは異なった切り口で。昼は、サントクでスルメイカの刺身を買ってきて、わさび醤油と昆布ダシを混ぜた皿にしばし漬け込み、レンジで暖めた飯の上にぶっかけてイカ丼。食べながらネットニュース回っていたら、英知出版倒産、の報が入ってきた。

ライター駆け出しのころ、英知出版の仕事でAVのプロダクションに行ったら、ふてくされたようなスタッフが
「取材〜? あ〜、どこの?」
と聞いてきて、英知出版です、と答えたら
「あ、英知さんですか! どもども、お世話になってます!」
と扱いが急に変わったことがあった。あの頃の英知の男性雑誌は本当にイキオイがあったなあ。数回お仕事して、マンガ関係のかなり力入れた原稿に、
「手違いで執筆者名入れ忘れました、すいませーん」
という仕打ち受けてから、あまり付き合わなくなってしまった。それでも、それから数年して、変なエロ雑誌コレクションの紹介って仕事をもらったっけ。あれ、あれはその前だっけか。最後はあれだ、岡田さんがやったエヴァ特集の『デラべっぴん』だったな。表紙のモデルの子が初々しくて可愛いなあ、と思ってたらすぐAVになってしまった。往時茫々……。男性雑誌は去年、ジーオーティーが引き取っていたようだが、発売元は英知。どうなるか。

5時、新宿に出る。武蔵野館で6時45分から『鉄人28号・白昼の残月』封切り記念トークを行うのである。

新宿東口から出て、武蔵野館前。オノとマドに合流。二人とも花見帰りだそうである。メガネスーパーの前で日活の人が待っているというので、一旦そっちの方へ回る。例の、ラップ呼び込みのお兄ちゃん、今日も立っていた。初めて見るオノは驚愕していた模様。
http://netafull.net/video/016427.html

無事日活メディア・スーツ事業部のH氏と合流できて、武蔵野館事務所へ。狭いところで、出会った武蔵野館の人が、マドの昔なじみ。世間というのは狭いなあ、と実感。

キングレコードの大月さんにも久しぶりに。何か隅の方に小さくなっていたが、
「昔、いわき市のリカちゃんキャッスルに行ったら、売店で鉄人28号LDボックスの“2”が7割引って値段であって……」
という話をしたら、ウレシそうに
「あれ、タカラが出していたんですよね!」
と会話に割り込んできてくれた。

Hさんは、初日、初回からずっと満席という好調な入りに興奮気味だった。夕刊フジに見開きで載せた広告(私の推薦コピーが使われている)見せていただく。で、トークもこのH氏の司会で。柵みたいなものが何故かスクリーン手前にあり、その柵の中で立ってしゃべるのはちょっと落ち着かないが、満員のお客さんの前で鉄人のことを話せるのは嬉しい。15分はあまりに短いので、“ロフトプラスワンでリベンジを!”と叫んでおく。

終って、オノマド夫妻、それから観に来てくれていたjyamaさん、FKJさん誘って『チャイナハウス』へ。植木不等式さんから、今日は音楽評論家の安倍寧氏と食事をするので一緒にどうか、とお誘いがあったのだった。何故音楽評論家の先生と私を引き合わせたいのか、よくわからなかったが、とにかく伺って挨拶だけでも、と。

満席に近い状態だったが運良く5人座れた。奥の席にいた植木氏と安倍氏、安倍氏の奥様(お若い!)に挨拶に行き、ちょっとお話を伺う。なるほど、植木氏が私に引き合わせたいと言った意味がよくわかった。ミュージカル史、音楽史に非常におくわしく、伊福部昭から宇野誠一郎、黛敏郎などの映画音楽についての歴史的なエピソードをやまほど伺う。古川ロッパ、榎本健一などの話も聞けたのは収穫だった。三木鶏郎をもっと日本人は再評価すべきだ、とか、某氏のものも含め、日本にはオペラは根付かないのではないか、とか、意見を一にするところも多々。短い時間だったが有益な時間を過ごせた。植木氏に感謝、である。

席に戻って、こっちでも雑談。アニドウで発売される、『DVD世界アニメーション映画史』の話など。1集2集合わせて40数万円。うーむ。料理は煮こごりから始まって、炙り鶏、鹿肉のナッツ揚げ、ジュンサイのスープ、トウミョウ、腸詰めなど。それにマスターからの特別プレゼントでスッポンのスープ。リーメンはちょっと余ったのでマドがおみやげに持っていく。お値段、いつものチャイナよりやや高め。蟻酒飲みすぎのせいか? 帰宅、またマドがごきげんでいろいろと奇矯な言動。大笑い。朝日書評用本読みながら寝る。どれも面白いなあ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa