裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

土曜日

禁じられたアトピー

かゆくない アアア かゆくない

※帰京 『アストロ劇団』昼夜二回 『トンデモ映画会』 HBCラジオ電話インタビュー

朝6時起床、入浴。ネット巡回していたら湯があふれて(湯抜き口から外に流れでる仕組みなのだが、排水管が細いので、床にある排水口からあふれでた)マットタオルがびしょびしょになってしまった。

7時半ロビーに降りて精算し、オノを待つ。予約しておいたタクシーで新大阪駅へ。どたばたでホテルを出るのが15分遅れだったが充分間に合うのでオノは拍子抜けしていた。おみやげコーナーを眺めるが、さして買いたいものなし。オノは今日友人と昼酒を飲むそうだが、551蓬莱の肉まんとユーチューしゅうまいを買ってつまみにするそうな。

エビカツサンドを朝食代わりに買ったが新幹線が動き出してすぐ、グーと寝てしまい、新横浜まで起きず。起きて品川までの区間で、あわただしく食べる。しかしここで2時間寝られたので体力はだいぶ回復。

オノと別れて品川で降り、駅から渋谷までタクシー。渋谷仕事場でメール、ゲラチェック等いくつか。11時、タントンマッサージに行き、ちょっと強く揉んでもらう。幸い、この店で一番キツく揉む若乃花似の先生に当たったが、その彼が“凄いですね、首”と呆れるほど
凝っていた。

そこから下北沢。12時半入り、男女楽屋におみやげ。ハッシーが
「きっとセリフ忘れているだろうから」
と一回、登場とラストのところ壇上で演技見てくれるが、バッチリ。
「覚えてるじゃないですか」
「一日じゃ忘れませんよ」
「ゼンゼンオッケーです。テンポもそれで最高です」
と言われいい気になる。ところが、本番でタイミング2個所もハズす。つくづく役者じゃない。とはいえ、一番の難所である(はずの)後半再登場してからはもう手に入った感じ。出来れば退場時に手が欲しいところだ。

大和さんの美輪明宏、回を重ねるごとにフリが大きくなって、ウケも倍増している。あと、岡っちこと岡田くんの
「ケーケーケー!」
も。これまで雌伏していた感のある岡っちだったが、『トンデモホラー』の好演を経て、今回の無七志役でブレイクした感じ。しかも、それが出演場面の少ない(それをギャグにもされているが、しかし実際のところは今回、舞台監督がいないので、それも兼務しながらの出演なのだ)役だということで、出演シーンで徹底してハジケられるのかもしれない。

昼公演終わり(そろそろ終わりが惜しくなってくる。せめて10日間くらいはやっていたい)、昼飯を食いに出る。橋沢さんと一緒に。途中、笹公人さんとバッタリ。昨日笹さんは来たので、私の演技は観ていない。京楽というラーメン屋に入る。名のあるラーメン屋ではなく、いかにもこういう街のラーメン屋という感じ。見ると、蛇口のひとつが壊れていて、ジャブジャブ水が出っぱなし。どうやって止めるんだろう、と気になった。塩バターラーメンを頼む。とにかく好天に恵まれたのが嬉しいですね、と言うとハッシー、
「基本的に晴れ男なんですよ」
と。そう言えば太秦で撮影したときも、前日まで強い雨だったのが橋沢さん到着の日になって晴れたのだった。ロケハンのときは澄んでいてちょっと迫力不足だった落合渓谷が水量が増えたのと、水がかき回されて濁って、後で取るオープンセットの水の色と同じになり絵がつながってホッとしたのももう2年も前のことか。

コンビニに寄ってATMで現金下ろし(下阪で手持ちの金が乏しくなった)、小屋に戻る。鶴ちゃん、相変わらず舞台上で細かな動きの稽古。渡辺シヴヲさん、渡辺一哉さんなどと、動きの確認しながら雑談。渡辺克美さんとも話す。この年齢になって、ここ数年でこんなに一度に渡辺という名の知りあいが増えるというのも珍しいことなのではないか。恵理さんが、ケッサクな理由で夜の部ダメ出しに遅刻。優等生でないところがいいなあ、彼女。惚れ直す。

さて、夜の部。なんと満席。宣伝などの不足に比して、本当に入りのいい公演である。
「警察はいけませんな」
というセリフでの出がだいぶイタについてきた。恵理さんの姫川あゆみとのカラミ、終わって袖に戻ったら助くんが
「今回のはバッチリでしたね!」
と嬉しそうに言ってくれる。それにしても、どうしてこんなとこで頭白くなるかな、と思うところでセリフ抜けたりして。ま、大過なく終演まで演じられた。橋沢さんの拾い芸(他の役者のアドリブを完璧なまでに拾って受ける)にも感心。時間もそう延びず、9時10分には終わり。

さて、ここからが今日のクライマックスである。お客の送り出しをすませ、オノ・マドを待たせて急いで着替え、みんなに挨拶して、茶沢通りまで出てタクシー拾い、三人で池袋まで。文芸坐に到着。ちょうど鯉朝さんの落語をやっているところで、時間には余裕もって間に合う。客も前回の倍近く入っているらしく、IPPANさん上機嫌である。

中野監督、連れのゴッホ今泉さんに挨拶。そこに談之助さんも来て、ブラックばなし。やがて鯉朝さん高座終えて上がってくる。休憩時間に下に降りてみると、と学会関係者や知人(I井くんはじめ)たくさん来ていた。

そうこうするうち、時間になって中野監督とトーク。『ポケット!』のノリで、上映作品の話をするはずがどんどん脱線。脱線が面白いのでもう、どんどん焚きつけて、元に戻ること放棄。
「『サザエさん』を黒沢明に撮らせたらよかった。お魚くわえた野良猫を3000の武田騎馬隊が追いかけるという」
「小津でもいいねえ。笠智衆の波平に東山千栄子のフネが“あなた、猫がお魚をくわえて……”“そりゃあ、よかった”“それが、サザエ(原節子)がそれを追いかけて、裸足で……”“そりゃあ、よかった”」
声がひどいことになっていたが、トーク面白く、45分の予定を10分ほどオシた。

廊下に出たところでrikiさんに会い、『匠』の生ちらし差し入れいただく。タクシー内でオノと
「メシはどうしようか?」
「rikiさんが日記で匠寄ってから来る、と書いてましたから、きっと差し入れ持ってきてくれるんじゃないですか」
とトラタヌの会話をしていたのだが、ビンゴ。具と飯が別々に盛られている、変わった寿司箱だった。楽屋でみんなで分け合っていただく。大変に美味。

で、食べている最中にHBCから電話取材。声がひどいのと、いいかげん疲れているので、面白いこと何も言えず。向うも呆れたのではあるまいか。時間的に、これを受けていると『アマゾン無宿』の冒頭部分を見逃してしまうな、と思っていたのだが、『ヅラ刑事』の予告編が流れたので、充分に間に合った。

最初は『アマゾン無宿』。ストーリィはもういろいろ紹介したのではぶく。気になる人は↓ここらで確認のこと。
http://www.geocities.jp/bqaga/mv/hog5.html
中野監督が三島雅夫に“髪がありますね!”と驚いていた。カツラではあろうが。あと、感想を書いてくれていたブログの指摘でなるほどと思ったが、三島雅夫は第一回トンデモ映画会の『黒蜥蜴』にも重要な役で出てきており、これで二回目。しかし深みと響きのあるいい声である。アニメファンには『太陽の王子・ホルスの大冒険』の村長の声で知られている人だが、他にも『安寿と厨子王丸』、『ちびっ子レミと名犬カピ』など、案外東映動画に声優で出ているのだな。全体を見た感想は、初観のときに何たるトンデモ、と驚いたものの、改めて観てみると映画としての構築がキチッとしていて、ギャグや設定のトンデモの割にちゃんと観られる。中盤の増沢病院のシーンは凄いけど。あと、久保菜穂子のチャイナ服姿の色っぽさにちょっとクラッときた。シャワーシーンもあり、別のシーンでまたシャワー室のシーンになって、観客がそれを期待すると月形龍之介がシャワーを浴びている、という傑作な肩透かしもあり。

続いて『華魁』。さきほどのトークのときに
「とにかく前半は堪えてください。後半にご褒美があります」
とフっておいた。前半の長崎遊廓のシーン、親王塚貴子のセリフが始まったとたん、オノが咳き込んでいた。そして、長々続く“早送りできないAV”状態の憤懣のあとの、人面疽シーンで観客、爆笑、拍手の嵐。まさにこれこそ本当の意味でのトンデモ映画。いや、もちろんわれわれの理性を越えた大傑作という意味で、である。

場内、終ってもしばらく興奮状態。灯がついてもなお、笑い続けているお客もあり。プロデューサーのIPPANさんも笑い続けている。しら〜さんがIPPANさんの肩をつかまえて
「グッドジョブだよ!」
と絶賛していた。中野監督曰く
「われわれがカルトなんぞと名乗っては申し訳ないですね」
と。同感。ストーリィのレビューはここで↓。この人はマジに怒ってるが。
http://www.enpitu.ne.jp/usr3/bin/day?id=38400&pg=20040904

ここで、北海道からアストロとこの映画会のために上京してきたでんたるさんとそのお友だちと一緒に、しら〜、オノ&マド夫妻と辞去。さすがに三本続けて観ると明日の楽日に差し障る。近くの焼き肉屋に入って、今日の感想などしばし。ノドの痛みも忘れて、ビールと真露で心地よい疲れに酔い(それにしても、よくあの二本の上映の間、オチなかったものだ。疲労が極に達して裏返ったか)、ややハイになってよくしゃべる。

忙しさによる疲労はある一定のレベルを越すと脳内麻薬がそれを緩和するために分泌され、快感になる。それだから、タレントは仕事が忙しい者ほど仕事を欲しがり、不倫や不祥事を繰り返し、仕事がなくなることを恐れ、暇になるとそのテンションを忘れられず、ドラッグに走ったりするのだな、と思う。でんたるさんもちょっとハイで、今日の『アストロ劇団』を
「生れてから観た芝居のうちで最高に面白い一本だった」
と大絶賛。

4時半、閉店で追い出される。すでに始発は走っているのでそれで帰るというみんなと別れ、タクシーで新中野へ。就寝5時。やり通したという満足感あり。スケジュールをひとつも狂わせなかったという達成感もある。アドレナリンハッピーの中、こんな楽しいことばかりやっててバチは当たらないかな、とも思う。楽日のあとは原稿書きに邁進しよう。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa