裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

金曜日

話がもこみちにそれる

AV女優の話をしていたら、いつの間にか速水もこみちの話に(あ、それは別にそれていないか)。

朝8時起床、これまたはっきりしない天気。実際、原稿が遅れっぱなし。困る。入浴洗顔、9時朝食。卵入り味噌汁一杯、アメリカンチェリー十数粒、小オレンジ一顆。母は『東京人』の私の写真が気にいって3部も買ったそうだ。K子はまだゴホゴホ咳をしながら、それでも9時にはもう出かける。

午前中、例によりトイレに頻繁に通う。昨日のように午前中に出かける仕事があって困るのはそれ。七〜八回は行ったり来たり。まあ、酒で腹がユルくなっているせいであるが、おかげでトイレ読書ははかどる。『ウォーホル日記』、相変わらずセレブ人脈(乱脈)図鑑の態。ライザ・ミネリはマーティン・スコセッシと不倫していながらミハイル・バリシニコフとも寝て、それをスコセッシに道端でなじられてケンカしているその脇で夫のジャック・ヘイリー・ジュニアが突っ立って見ている、というのだから乱れている(1978年1月3日の記)。

後にミネリはこの夫とは別れるが(まあ当然だが)、ジャック・ヘイリーと言えばミネリの母親、ジュディ・ガーランドの代表作だった『オズの魔法使い』でブリキのきこりをやった俳優。その息子と、ドロシーの娘が結婚というのもなかなかに凄い関係である。ジャック・ヘイリー・ジュニアにとってはミネリと結婚した1974年はプロデューサーとして生涯最大のヒット作『ザッツ・エンタテインメント』が公開された年でもあり、人生で最もドラマティックな年であったろう。01年、呼吸器不全で死去、67歳。ミネリの方は同じ年にウィルス性脳炎になって歌手生命が絶たれたと報道されたが奇跡の復活を遂げ、60歳のいまもなお活躍中である。女性は強い。

原稿書き、電話連絡いろいろ。弁当時に、昨日酒田で買ってきた『だだ茶納豆』というものを試みるが、だだ茶豆の味はするものの、納豆独特の風味に欠けて、あまり大したことなし。製作委員会から送られてきた猫三味線DVDジャケデザインを見て、意見を送り返す。デザインは文句ないが、コピー、“実現不可能と思われた伝説の紙芝居が遂に映像化!”では、このDVDが紙芝居の実写映像化と勘違いされる危険性がある。“実現不可能”というのもよくわからない言い回し。“紙芝居のイメージを塗りかえたあの名口演が遂に完全DVD化!”というのを考えて送る。

3時、事務所。オノから、11月に仙台での講演が決まったとの報せ。ギャラがこれまでよりちょっとアップしていた。そのアップ分で一泊して一乃谷でクジラを食おうと計画。

今日の『ポケット!』収録のネタをいろいろメモ。電話あり、いずれも催促なれど書けず。5時半になり、家を出る。まぎわに携帯に電話、瀧川鯉朝から。いま、新文芸座に来ていて、ちょっと変わりますと、N支配人。頼まれ事ひとつ。いや、かなり面白そうな企画なので、ぜひぜひ乗らせてくださいと頼んでおく。

TBSに15分遅れで到着。いつもは収録前に何か腹に仕込んでおくのだが、今日は時間がなくて駄目。こういうときに限り(時にはサンドイッチや稲荷寿司などが用意されているのに)何もなし。柿ピーをつまみにI井くんと海保さんが雑談していた。今日は実はある用事でマドが来るので、何か腹にたまるものを買ってきてもらうことにする。

開始前に、I井くんが買ってきたケーキで誕生日を祝ってもらう。海保アナもお菓子をお祝いにくれた。偶然、どちらも赤坂のala bonne heureのもの。こないだのしろたえのシュークリームもそうだったが、赤坂で仕事するとお菓子には詳しくなるかも。こっちは忙しくてI井くんの快気祝いを用意するのを忘れた。

お題は『ガム(口中清涼剤)』と『指輪』。ガムのときに、寺田寅彦の随筆『チューインガム』(チューインガムが流行って日本がアメリカ化されたら俳諧は滅ぶ、と論じた奇文)を紹介しようとしたら、海保さんが寺田寅彦の名を知らなかった。ちょっと愕然。ほら、『帝都物語』で加藤保憲と戦った……と説明しかけてイヤ、これは正しい説明の仕方ではあるまい、とやめる。

指輪の回ではI井くんのリクエストでドラキュラ映画の話をする。ドラキュラ伯爵のアイデンティティは実はマントではなく指輪なのだ。『吸血鬼ドラキュラ』では最後にドラキュラが灰になったあと指輪だけが残り、『ドラキュラ72』ではドラキュラの従者がドラキュラの遺灰と指輪に血をたらして彼を甦らせ、ひどい映画であったが『新ドラキュラ/悪魔の儀式』ではラスト、ドラキュラが滅んだ灰の中からとり出した指輪を、ピーター・カッシングのヘルシングがフッと息を吹きかけて灰を飛ばし、
「これでドラキュラの指輪はヘルシング(の子孫)の手に戻った。もうドラキュラは復活はしない」
ということを示して(実際、これでリーがドラキュラ役者引退を宣言してしまうので現実になったのだが)エンド。ちゃんと第一作から指輪つながりで話が通っているんである。このときも、I井くんも海保さんもクリストファー・リーの名は『ロード・オブ・ザ・リング』で知っていても、ドラキュラ役者だとは知らなかった。これは私などの世代に言わせると勝新太郎って座頭市やっていたんだ、とか立川談志って落語家だったんだね、とか言われたようなショックである。

私のオープニングジョーク、今回から始めたがまだイマイチ。ラストコントでの海保さん、かなりキワドイネタも怖めず臆せずやってくれて毎回大感心。マド、チャイカのピロシキを買ってきてくれる。あっさり味で海保さんたちにも大好評。収録終わったあと、スタジオを変えて、ちょっと局の私物化をお願いし、15分ほど使わせてもらう。有難し。

終わって、局近くの居酒屋ビルの中にある『すっとこどっこい』で打ち上げ、I井、イニャハラ、オノ、マド。生ビールを自分でサーブできる仕掛けに、オノが大喜び。昔、早稲田近くの居酒屋でバイトしていたそうである。確かにサーブしてすぐ飲む生ビールはうまい。

古代マヤ部族のゴムの使用法とか、なぜ飲食店は盛り塩をするのか、とか、そういう雑学ばなしも感心されたが、やがて、何故か
「既婚男子も家でオナニーする」
という話で大盛り上がり、それからどんどんエロばなしとなる。最近にないエロ盛り上がりで1時半までワイワイやった。いやー、誰に遠慮することもなくエロばなしに興じられるのはいいなあ。酒の席での猥談は、実は最も罪のない、そういう場に適した話題なのである。タクシー、マド・オノと乗り合わせて帰宅。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa