裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

金曜日

シオン運動会

かたく秘密を守らんと イエスの血筋を伝えんと日ごろ鍛えし性秘義の 腕前みするは今日なるぞ

朝4時に目を覚ましてしまう。再度寝て8時45分起床。今朝も雨もよい。どうなっているのか、この5月は。入浴、9時45分朝食。この時間になるとテレビもロクなのをやっておらず。家庭にいる主婦向けの、家庭崩壊再現ドラマなどの類になる。青汁、コーンスープ、夏みかんぽいオレンジ一顆、イチゴ数粒。

日記つけながら、ひとつアイデアを思いつく。本の企画ではなく、別企画。モデルがどうしようもないところなのは腹立たしいが、自分でやればもっといい風に出来る、と判断したことはどんどん取り入れるべし。

日記つけ忘れ補遺。日高トモキチさんの新刊『みぞれの教室』(角川書店)のオビに他の人たちと混じって推薦コメントを寄せることになった。これが思春期のイカ臭い性をイカ臭いままにさわやかに描ききったファンタジーの佳作。

最近寝坊なので午前中がすぐ過ぎる。来週の山形県の高校での講演のレジュメ作り。

こないだのロフトでの平山ナイト、画面で怪人の写真などを見せながら話したのが好評だったので、今度の講演は高校生相手だし、やはりビジュアルを多用するのが吉ならんと思い、そのためのレジュメである。そう言えば平山ナイトに来てくれたファンの日記で
「今回のトークの為に、きっと、かなりの事前準備もし、作戦を練っていたのだと思います。聞き手のお二人は、事前に聞くべき内容を完全に頭に入れた上でトークに臨まれたのだと思います」
と書かれていた方がいて恐縮したのだが、実のところ、それをやったのは(この人が“いつもより少し勢いが足りない”と評していた)一回目で、あの二回目は“役者と怪人の話に”とさいとうさんから指示があっただけで、実際は何ひとつ決めずに壇上に上がったのだった。

弁当はホタテのクリーム煮が菜。ほとんどダイエットという意味なし。うまいので困るが。味噌汁も、限定醸造味噌の最高級品『蓬莱』なのでしみじみうまし。

2時、事務所出勤。今日トテカワYさんに渡す原稿(漫画版『神聖喜劇』解説原稿)を書き出す。すでに頭の中に書くことはすっかりまとまっていたので簡単、と思っていたが、書き出して見ると案外つまらない。文体、というか、資料引用を原作の『神聖喜劇』のパロディみたいにして、その部分をふくらます。まずこの作品を(原作であれマンガであれ)評論する人は、ほぼ全てが軍隊と主人公の対立のことを書くのでそれは脇において、“記憶力と記録願望”に焦点を合わせたものになる。

バーバラは今日出社していないが、昨日、一人でコタツを粗大ゴミに出してくれたようだ。「きょーはく状」冷蔵庫のドアに貼られていて曰く
「コタツは粗大ゴミに出した。チケット代600円を支払え。さもないと電車賃が払えないので明日から出社できないぞ。 怪人 ただのすけより」
マヌケなミスひとつ。劇団新☆感線の舞台に月末、行くので花を贈ったんだが、今回は古田さん出ていないのに古田さん宛にしてしまっていた。オノから聞いてあちゃあと顔が赤くなる。あとNHKのYくんから電話、ペンディングになっていた某イベントの件、また動き出したとのこと。

5時、時間割でトテカワYさんに原稿渡し。『猟奇の社怪史』、贈ったのを読んだということで、
「高校時代、女子大生時代にはまっていたカラサワさんが帰ってきた、という感じで嬉しかったです」
と感想もらう。来週末こそは原稿渡したあと、酒に誘おうと決心。事務所に帰って支度し、オノと出る。渋谷駅前の『西村』で差し入れの果物買って。

吉祥寺まで井の頭線。吉祥寺大通りから向こうが、三越が撤退してやたら寂しくなっている。と、いうか、私が吉祥寺に頻繁に通っていたのはこのビルが三越になる前、近鉄デパート時代の古書市があったときと、ジャブ50でソビエトアニメ観るときくらいだったな。

会場のスターパインズ・カフェに到着、もうかなりの入り。ちょうどぎじんさんの隣の席が空いていたので座るが、かなり端である。母は知人たちと早めに来て、真ん中のいい席に座っていた。あと、“あれ、開田さんが来ている”と思って見たらいしかわじゅんだった。開田さんには悪いが、顔の形が違うだけで、目鼻ヒゲの作りが本当に相似なのである。

ジェオのMさんいて、御招待扱いにしていただく。申し訳なし。ぎじんさんはN美術印刷さんと連れだって。彼、Mさんの学校時代の同級生だとか。杉&鉄のフライヤーがコピーなのを見て
「これじゃいかんね」
と商売柄怒っていた。私たちの後ろの席には杉浦くんの奥さんとその友人たちが座ったが、ちょうどピアニストの見えない位置。
開演7時半、最初は『だるま食堂』。
http://hw001.gate01.com/darumashokudou/
太め女性三人組のコーラストリオ。その衣装と体形、こっちを引かせる一歩手前のギリギリの線だが、歌はうまい。うまいだけに、ギャグがちょっと小粒すぎるのが気になる。全部ダジャレとかの小ネタで落とさずに、歌唱そのものとギャグを直結させる工夫があればと思う。
次が寒空はだか。ひさしぶりにステージを見る。
http://www.geocities.jp/hadasamu/
自分で三割打者と言っていたが、マニアックギャグが多く、そもそも理解できなかった客も多かったのでは。私が笑うギャグと他の客が笑うギャグが正反対だったような感じだが、おたくギャグが多かったせいだろう。これも歌がうまいだけにもっと正攻法で笑える歌ネタをやってほしい。キャラクターや間は大変にいい。

出演者が下がるときに次の出演者を紹介するという形式でやっていて、次が寒空はだかの最後のネタでも特出した杉ちゃん&鉄平。例によって例の如くの鉄平くんの超絶技巧ネタ次々に。別の生き物の如くに動く鉄平くんの左手の指の動きに感服。25年以上やっていて、彼の左手の指には指紋がなくなってしまっており、カーナビなど左手では感知しないというのもむべなるかな。

杉ちゃんが解説役をつとめているが、しかし、お笑いに純化するなら、影マイクで誰か解説役は別個につけた方がいいのではと思う。野暮かもしれないが、こういう芸を一般に認知させるには、“これはどこが面白いかというと”と、一々解説する役が必要なのだ。例えばテアトル・エコーなどと組ませたいなあ、とオノと会話。

次がなんと浪曲の玉川美穂子。と、いうよりちくまの編集のNさんである。以前、快楽亭の会で、五月小一朗が『一発のおまんこ』を浪曲に仕立てて演じたとき、三味線を担当したのが彼女だった。音曲だけでは飽き足らず自分でうなるところまで行ってしまった。ネタがなんと『シンデレラ』。
「果たしてライブハウスで浪曲が受け入れられるか」
と心配げだったが、ツボ、ツボで大拍手、“ニッポンイチ!”の掛け声もあり。後で母が言っていたが、連れの女性たちには一番これが受けていたとのこと。

やはり頭がいいな、と思うのは、浪曲を聞くのが初めてという人が多いところで演じるストーリィが誰にもわかる話で、かつ最も浪曲のイメージとの間に距離があるネタを持ってきて、それを“浪曲でやったらどうなるか”という実験の面白さを伝えるというのがベストな方法である。いや、浪曲に限らず落語でも講談でも、初めて聞く人はその技術の巧拙はもとより、ストーリィを追うなどという余裕はまず、なし。ひたすら、自分に理解できるギャグなどを拾うので精いっぱい。そこに、頭を使わずにただ聞いていれば笑えるという入門偏として、また浪曲という芸のフレキシブル性を見せるネタとしても、シンデレラというチョイスはgood、である。こういうネタにもちゃんと三味線を合わせる沢村豊子師匠がまたいい。ある意味、本日最も印象的な出演者だった。

そして本日のトリがポカスカジャン。前の出演者がみな熱演で時間がオシてしまい、トリなのに持ち時間が一番短いという仕儀になってしまったという。ここらへんライブハウスらしい。省吾さん、今日はほとんどセンターで活躍、五木ひろしから江原啓之から、物まねも含めてとにかく熱演。このあいだのライブで見たネタも多いが、表情とアクション、そして体形で笑わせられるのが強い。

音楽ネタで杉&鉄や寒空はだかとかぶるものもあるのだが、やはり“わかりやすい”という一事でポカスカジャンの方がドッと受ける。ここに徹するということの大事さを改めて考える。“アリスの少女ハイジ(アリスが歌う『アルプスの少女ハイジ』。♪立ち上がれ、立つんだ、クララ……に爆笑)”や金正日(これも省吾さん)の歌う『韓国ロック』など、短い時間にギュッとネタを詰め込んでいて、かえっておトク感はあったのではないか。

オノはタマちゃんの『津軽ボサ』に身をよじって笑っていて、
「青森でも“ちょす”って言うんですね」
というので(北海道弁でも“ちょす”は定番)、青森から伝わって来た方言なんじゃねえかと答えておく。終わったあと、やはりやり足りないのか、これから路上演奏をしてきます! と、省吾、タマの2人、出ていく。本気か。

終わって知りあいなどに挨拶、出る。途中で大きな声で
「カラサワシュンイチが」
と言っているグループがあり、ちょっと驚いて振り向いたら、
「カラサワシュンイチさんが」
と、急に敬称つけになったのは苦笑。

驚いたことに外は雨。路上演奏すると言っていた2人もあきらめたらしい。タマさん

「やらないんですか?」
と声をかけたら
「やったら怒られました」
と。省吾さんに次回こそアリ酒を、と約して。

ここらがホームグラウンドのオノの案内でいつも空いているという焼肉屋へ、ぎじんさん、N美術出版さんと。本当に空いていた。サシの綺麗に入ったロースとカルビ、ハラミなどの他、ケジャン、豚足、ラムなども。私は食べるより飲む方専科で。今日の件、映画の件など、いろいろ話ながら生ビールにマッコリ、真露(鏡月)までフルコースで飲んだ。今日は荒れもせず楽しい話題に終始、実に気持良い。12時まで飲んでタクシーで帰る。すでに雨はやんでいた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa