裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

火曜日

癒し中華はじめました

 この酸味スープが僕の心を慰めてくれるんだ。朝7時起床。入浴し、ミクシィなどのぞいて朝食のベル待つ、が、いっかな鳴らない。30分待ってさすがに心配になり母の室へ。すっかり寝過ごしていたとか。バナナとイチゴ、リンゴ。ブロッコリの冷 スープ。

 今日の衣装、選んで二、三パターンを衣装カバンにつめる。10時半、出勤。出か ける前にK子に
「『男の部屋』よ!」
 とクギを刺される。今日はスケジュールぎっちりなので、書き仕事は明日回しにしようかと思っていたが無理か。12時に迎えのハイヤーが事務所に来るので、執筆時間は1時間あるかないか。『男の部屋』コラムは400字詰めだいたい4枚の文字数である。普通なら1時間半、という執筆時間だが、仕事場に着いてすぐとりかかり、 超特急でやる。

 おお、やれば出来る。書き上がった。テンション高いから出来がどうかはわからないが読んで面白い! と今は思える。書き終えたとたんに快楽亭から電話、6月11 日浅草木馬亭出演の件。ライブは大事。引き受ける。

 12時きっかりに仕度して階下へ。スケマネの六花さんと、待っていたハイヤーに乗り込み赤坂のTBSへ。玄関で出迎えのADに案内されて控室へ。控室が化粧部屋への入れ込みなのでずいぶん軽い扱いだと思っていたが、個室を与えられているのは伊東四朗さんのみで、あとは佐藤隆太もフットボールアワーも同じ化粧室、女性陣は 小池栄子もユンソナもひとつの化粧室入れ込み。

 トイレ行ったときに見たら、今日はまあ連休明けの収録ラッシュらしく、ほとんど全ての控室が満室で、SMAPの中居リーダーまで個室とはいえトイレわきの部屋であった。これじゃ無理ない。弁当食べつつ、Kプロデューサー、構成作家の人などと打ち合わせ。コメンテーターのみ別席かと思ったら、他の出演者と同じパネラー席に つくのだった。

 これはどういうことかというと、きちんとしゃべり時間を奪わないと壁の花になってしまうということである。サアドウゾの解説役でなく、バラエティ番組の一員になれ、ということ。うまく出来るのか? やや頭の中がこんがらかり、自信なくなる。口が渇いてきた。私だってアガるのである。Kプロデューサーはよほど私を信頼して いるのかノンキなのか、忙しい中で雑談してくる。

 うわの空の紀伊國屋公演には奥さんと二人で来てくれたというから驚いた。前知識なしで見て
「あそこの芝居というのはひょっとして台本がないんじゃないですか? セッション で出てきたようなセリフでつないでますよね」
 と看破したのは凄い。
「お客さんも入っていたし、いい劇団ですねえ。伸びるんじゃないですか。もっともお客より演じていた人たちの方が楽しそうでしたが」
 とのこと。これもスルドい、ような……。

 時間になり、スタジオ入り。女性陣に挨拶。高畑淳子さんが“私、先生の授業日テレで受けましたよ!”という。あれ、そうだったっけ。申し訳ないが記憶なし。小池栄子さんとこの高畑さん、それにMCの藤井隆の三人だけが私を認識している模様。他の人たちは“誰だこれ”である。しかも、収録始まってみると、藤井隆以外はみんな、奇跡的感動ばなしはあえて分析・解明させずにそっとしておけ派であり、伊東四朗など
「こんな番組作っちゃいけないよ」
 とまで。藤井隆、
「頼りはカラサワ先生だけです」
 などと言う。これでまた緊張。

 人名で間違えたくないものなどをこっそりカンペに作ってポケットにいれておいたのだが、どこに入っているのだかも忘れてしまった。最初のエピソード、無理にしゃべるが声がうわずり、しかも相手の発言にかぶるかぶる。何度も姿勢を変える。手の位置、足の位置が決まらぬ。コレハイカン、と体勢を次のネタから立て直す。これで大分よろしくなり、三番目の“高いところから落下”ネタで、ちょっと前フリでフッ た雑学を解説VTRで駄目押ししてくれたので、伊東さん、小池さんが
「あー、本当だー!」
 と驚いてこっちを振り向いてくれる。これは進行としてはネタがカブるので放映ではカットされるかもしれないが、現場では大きな風向きの変化で、これ以降、全出演 者が、話の中で何か疑問があると
「これ、どうなんですか?」
 と私の方を振り向く、というカタチができあがる。高畑さんが
「なんて聡明な方なのかしら」
 とかワケわかんないこと言ってくれたりする。

 そうなると元気になって説教とかしはじめ、(しかし調子に乗ると急に仕切りたがるというのはヤな性格だな)乙葉ネタまで入れて笑いも取り、番組最後の〆まで引き受ける(順番的には〆は伊東さんだけど)。途中15分の休息挟んだだけで、収録は サクサクすすみ、終了予定の5時半より15分も早く終わった。

 六花マネに
「前半と後半であきらかに声のトーンが違ってました」
 といわれたのはまず反省点、それから番組の方で図版まで用意した(私が言って用意させた)補足ネタを、こっちの進行に対するカン違いで抜かしてしまった。いろい ろあってまず100点満点で68点。

 それでもスタジオから退けるとき構成作家さんが
「あの最後の言葉で番組が締まりましたよ!」
 と言ってくれたのでホッと。あと、藤井隆が廊下で
「今回はありがとうございました!」
 と言ってくれたので
「お幸せに」
 と言っておく。

 やはり昨日の今日でテンション上がりまくっているせいか、今日の番組はほぼ、藤井さん一人でもっていた感すらある大奮闘だった。私はお笑い系のバラエティ人間というものをずっとバカにしてきた。蓄積もない、知性もない、その場のアドリブの反射神経のみで低レベルな笑いをとって、視聴者の愚かさにおもねってアブク銭を得て いる連中と思っていたし、基本的には今でもそう思っている。

 とはいえ、アドリブがきいてレベルを低くしさえすれば受ける、というものではない。ここしばらく連続でバラエティ系番組に出てみて、ここはここで、数少ない出演者席を争う、シレツな競争社会なのだな、と実感した。私のように先生役としてある種の特別席に座れるわけではない、小池栄子やユンソナのようにお色気担当でいればいいというわけでもない、にぎやかしに徹して番組を盛り上げなくてはならないという現場での役割認識をきちんと果たさねばならないのである。少なくとも今日の藤井隆からはひとつの番組を自分の顔で切り回す地位にまでのぼっている者のオーラを感 じた。

 着替えてタクシー。
「出演者の中で私が一番派手な服装ってどうよ」
 と気恥ずかしばなし。六花マネ、TBSはやはりバラエティの作りが丁寧ですね、と感心していた。ドリフターズの番組をずっと作ってきたノウハウがあるらしい。

 ちょっとクタビレ。中野までタクシー行ってもらい、銀だこでたこ焼き買って、アニドウ『初夏の海賊アニメーション特集』に。例により詳細はNGなので、会長のサ イトを見てほしい(書いてるではないか)。
http://www.anido.com/blog/

 個人的には『フェリックスの海底探訪』で海神ネプチューンの情婦(?)のミニ人魚がエロくてよかった。あと、『マー坊の大陸宣撫』は今の目で見てのインパクトやはり強し。まるさん、Kさん、植木さんたちと“宣撫”というコトバの意味について あれやこれや。

 終わって、今日は夜勤でこれから出社というまるさんと別れ、Kさん、植木さん、六花マネと、以前『裕香園』だったジンギスカン屋『ふくずみ』へ。二階席に案内されるが、以前私が愛着していたこの店の昭和風ステンドグラスや木製飾り柱、半分が座敷半分がテーブルという作りなどはそのまま最低限の改装で踏襲されていてホッと する。

 で、ジンギスカン。私と六花マネは北海道出身なので、いわゆる札幌ビール園式の山賊メシとしてのジンギスカンが正当、と主張、どんどんとこの店のオサレなジンギスカンにダメ出しをして九州出身のKさん、東京出身の植木さんに呆れられる。もやしが山盛りになって来るのはいいが、それに添えられた小さいトングで植木さんが鍋 に移そうとする。私ら二人が
「もやしは手づかみで入れるもの!」
 とグワシとつかんでどっとのっける。
「ダメだな、鍋に脂落としの溝が空いてる。脂と肉汁が鍋のフチに溜まって、それで野菜が煮えるくらいでないと」
「だいたい、タレがスカしすぎですよ。おろしニンニクはディフォルトでついてこなくては!」
「そもそも肉から脂を削ぎすぎ。ラムの旨みはあの脂にあるのだ」
 などなどと。植木さんが
「しかし、そんなに脂を摂取して胸が悪くならんですか」
 と質問してきたのに対し
「ジンギスカンは山のように食って“うー、苦しい、食い過ぎて脂にアタったー”と帰り道でもだえるところまで含めてジンギスカンなのですよ」
 などとムチャクチャを言う。確かに皿はかなり変えた。お値段はと見ると、スカしているだけに高いがそれでも牛の焼肉などに比べるとやはり安い。タクシーに植木さんと便乗で帰る。便乗と言っても植木さんは私をおろしたあとUターンするわけで申し訳ない。いや、普通の日記の三日分くらいのことはした日であった。時間はまだ、 12時になるかならんかだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa