裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

火曜日

あの人は水木しげるの片腕と呼ばれている人だ。

 つまり、いなくても別に困らないってことでは? 朝7時起床。朝食、ペーストみたいなサツマイモにトマトのポタ。天気予報は台風のニュース。しかし今年は台風が多い。台風が多いということは気圧が乱れるということであり、私の体調が悪化するということであり、仕事がはかどらぬということであり、収入が減るということであ る。困ったもんだ。

 25分のバス。やはり仕事はかどらず、気ばかりイラつく。日記も遅れがちで、8月分をやっとまとめ、9月日記アップ。12時、時間割で竹書房(フリー)Nさんとアンソロのゲラチェック。15分ほど遅れるとの電話あったのでズラして行く。昨日出してもう上がった解説文ゲラをその場でチェックの赤入れ。思えばNさんと初めて組んで仕事をしたのがぶんか社(思い出すのもイヤだが)の『お父さんたちの好色広告博覧会』。あのときもNさんにゲラを持ってきてもらい、その場で赤を入れたり、ツッコミ文を書き入れたりした。また同じ担当で同じことをしているのが一奇。

 30分ほどで作業終わって、しばらく雑談。Nさんのもうひとつの仕事であるウェブ関連のことで、少し話を聞く。ひとつ企画アイデアを出すと、それもオモシロソウだとのノリ。今度具体的にカタチにして試しに営業してみよう。このあいだの例の企画の件も、これが終わったらいくつか動いてみますから、とNさん元気な言葉。そもそも、このアンソロの仕事ひきうけるときにも、ひとつこっちの方でつきあってもら う件を呈示していたのだった。それはどうか?

 終わって出ると、なんと雨のあと。路上がキラキラ濡れて光っている。雨が、それもかなりの量降ったらしい。チャーリーハウスに立ち寄り、雪菜のトンミンで昼食。お母さんに“雨がさっき降ったんですね”“ええ、ひどい降りでしたこと”“ボク、喫茶店で打ち合わせしてたんで全然知らなかったンですよ”“おや、それはまた運のいいことですわねえ”などと会話し、外へ出る。と、とたんにボツ、ボツ、とまた降りはじめて、あっという間にザーッという大雨。アタマからグショ濡れになる。運のよさをヘンに誇ると、こういう目にあいます。

 パンツまで着替えて、原稿書き。『Memo・男の部屋』コラム書き上げ、それからFRIDAYのゲラチェック。日本テレビから電話、『世界一受けたい授業』の撮り、11月上旬とやら。6時半まで仕事続け、さすがに気圧で体がパンクしそうにむくんで来たので、タントンマッサージに行く。その前にパルコブックセンターに寄ったら、名前がリブロブックセンターに変わっていた。DVD、雑誌、単行本等数万円衝動買いしてしまう。マッサージ、初めての先生。私はしょっちゅう顔を出すので覚えられているらしく、“早く揉んでみたいと思ってました”と言われる。妙てけれん な凝りの客は控室で話題になるらしい。

 8時まで一時間揉んでもらい、タクシーで半に帰宅。すでにS山編集長と植木不等式氏、QPハニー氏、揃っている。K子と合わせ5人で恒例食事会。S山さん持参のピルスナービール(ただし“ドイツ・クラシック”と缶には銘打ってある。みんなで「ズテーテン併合ビールだ」とかなんとかワイワイやりながら)で乾杯、それにQPさん持参のワイン“二重橋”。二重橋の上に鳳凰が舞っているというキッチュなラベル絵だが、中身はドイツワインらしい。味わってみるに、ワインというよりも“葡萄酒”と古風に呼びたい懐かしい味の酒。K子は甘いとおかんむりだったが、氷を浮かして飲むとなかなかいい。日曜日のロフトプラスワンでの村木さんとのトークのことなども話す。
http://www.tobunken.com/news/news.html

 植木さん、ここに来る前に紀伊國屋で、外人の青年が“戦前のアクション漫画”を店員に質問していた、という話。戦前を舞台にしたアクション漫画か、戦前に刊行されたアクション漫画か、よくわからないが、後者だとしたら、織田小星・作、東風人(樺島勝一)・画の『正チヤンの冒険』ではないか、と推理する。これ、去年の暮れに小学館から復刻されてあちこちで評判になったので、たぶん、その外国青年はそれを聞いて手に入れようとしていたのではないか? まあ、アクション漫画というのが ちょっと引っかかるが、冒険とアクションは同類項だろうし。
http://www.shogakukan-cr.co.jp/topics/shochan/

 今日の母の料理、いずれおとらぬ大食漢が揃ったというのでボリュームが凄い。まずオードブルは生春巻きの皮に北京ダック風に巻いた鴨肉、それからすぐ最近おなじみ鶏の丸煮。それから塩豚の焼いたものに朝も食べたサツマイモのペースト風、これは母が宅配便のお兄ちゃんの“なんか買ってくれませんか”というセールスに乗せられて買ったものらしい。そのお兄ちゃんがイケメンだったようだ(母はイケメン好きなのである)。それからさっきの鴨肉で使った味噌をドレッシングに使ったサラダ、チダイのグリル、あと“植木さんが来るから……”と揚げたメンチカツ。最後はコンカサバ、ニシンと昆布の煮物、野菜の麹醤油漬けなどでご飯。コンカサバ食べつつ、“ウルトラ・コンカサバティブ”などと口走る。さすがに諸氏の食欲にはついて行け ず、デザートのコーヒーゼリー生クリーム乗せは眺めたのみ。

 植木さんがインド研究の先生に貰ったという、インドの神様映画をDVDで見せていただく。インド映画の例に漏れず長いので、飛ばし見。貧しい村にやってきた女神が、自分をもてなしてくれた少女が自殺したのに(女神は自分が家に帰るのを待っているから、自分が永久に帰らなければ女神は永久にこの村にいてくれるだろうと思い池に身を投げる)、感じて、石像と化し(この石像がヘン)村の守り神となる。それから十数年(?)村に悪い妖術使いがやってきて、村の若くて美人の人妻に惚れこんで、彼女を妖術で自分のものにしようとする。夫をまず病気にし、子供を罠にかけて母の見ている前で池に落として殺す(ひどい)。そして、妻に自分のものになれ、と迫る。妻はその女神像のある寺院だか祠だかに逃げ込んで助けを求めるが、石像黙して動かず、ついにキレた妻は神様をののしり、側にあった槍に自分の手を刺す(ここらへん、どういう流れなんだか、よくわからず)。すると、CG処理でその手から流れ出た血がビューッと飛んで、石像にかかり、ハニワが大魔神に変化する如く、石像が女神様に化す! さあ、自分の信者をひどい目にあわせた悪妖術師覚悟せよ、とばかりに女神の怒り爆発、この妖術師を凄まじい目にあわせてめでたしめでたし。どう いうカラミか忘れたが子役の女の子が神様の化身だか使いだかで出てきて、
「ちゃんと助けて預かっておいたのよ」
 と、池に落ちた赤ちゃんも無事、夫婦のもとに帰ってくる(なら、最初に池に落ちた少女をなんで助けないのか?)。タイトルが『アムール(愛)』というのがまた。

 いいものを見せていただいたのでお返しに、と、『世界のCM』のDVDなども見せる。ヒュンダイ自動車のアメリカ向けCMで、助手席のシートが自動的にフラットになる仕様を、不倫隠し(妻が若いツバメを乗せて運転しており、夫の車が見えたので、急いで助手席を倒して男を隠す)に使えるという風に宣伝しているのがなかなか凄い。で、夫も……という展開はみんな読んだようだったが、実はこのCM、それをさらにひとひねりしたけしからんオチがついており、見ているみんな、アッと歓声をあげる。10時半、解散。シャワー浴びて寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa