裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

土曜日

そんなことは知れたこと旅情よ!

 おまえさん、ほんとに加藤登紀子のレコードを買うのかい? 朝、7時半起床。雨である。朝食、発芽玄米粥と梅干。果物はスイカ。台風だそうで、シャワーの如く大粒の雨が降り注ぐ。脳が硬直したようになり、複雑な思考が出来なくなる。今日の夜 の虎の子の集合時刻も、何度もK子に訊きなおして嫌がられる。

 ゆうべの日記書き落とし。声ちゃんに郵便を出す帰り、特に名は秘すが某国営放送局勤務の某氏に会う。顔を合わせたとたんに、“いやあ、昨日は××組でヤクザでした”と楽しそうに言う。組といっても暴力団ではなく、映画撮影のクルーを、監督の名前をつけて何とか組、という映画業界の符丁。彼は国営放送局員のくせに映画出演マニアで、どこそこでエキストラを募集している、とか聞けばすぐ、仕事をほっぽりだして飛んでいって出演する。“ヤクザでした”てのはヤクザ映画で組員のエキストラで出演してきた、ということ。あと、タクシーで幸永に行く道すがら、大久保の職 安通りで見つけた焼肉屋の店名『紅の牛』。笑った。

 あ、あと、このあいだの日記に書痙を“ドピルバン症候群”とか不正確なことを書いたら、一行知識掲示板で訂正が入った。ドケルバン病が正しい名称で、狭窄性腱鞘炎のことだそうである。S井さんから訊いたときはすっかり酔っていたので、ウロおぼえでいいかげんな記述をしてしまった。ご指摘に感謝。

 なんとか仕事に齧りつこうとするが全然ダメ。同じくダレているネコとじゃれあったり。と学会関係のメール、いくつかやりとりする。SF大会実行委員会から、トンデモ本大賞のときにチラシを挟み込ませてくれと依頼がくる。それはもう、どうぞどうぞという感じで事務局はOK出したのだが、どうも当日チラシのみ送るから折り込みはそっちでお願いします、ということらしい。常識がないことである。要はタダで宣伝してくれということなのだから、本来ならスタッフが持参して、折り込みの手伝いくらいするのがスジというものだろう。劇団とかの場合、それが出来ない場合は直接担当者が会場入り口で来場者にチラシを配っている。地方在住のハンデがあるというなら、在東京の知人か関係者に頼んで、せめて朝イチで直接手渡すくらいが最低限の礼儀ではないか。飛び火的な小言になるが、こんなこったからSFが衰退するので ある。

 5時半、家を出て銀座線で上野広小路まで。広小路亭で開催の『うわの空ライブ』(藤志郎一座のコントライブ)に、ちょいとだけ顔を出す。今日はベギラマが初出演なので、その視察、でもある。なかなかの入り。こないだの『落語秘密倶楽部』を上回っている。村木さんが私を見つけて、ベギラマを呼んでくれた。“中野さんに借りた衣装を着ます”とのこと。私は7時半くらいまでしかいられないので、そのコントが見られるかどうか心配だったが、幸運にも、配役の関係上か、そのコント上演が早 まって、出演作品の両方とも見られた。

 一応前半の三本と、座長の藤志郎さんと高橋奈緒美さんの漫才だけ見たわけだが、公演であれだけアドリブがポンポン出る劇団にしては、ちょっとオトナシめ、という感じがして、笑いも平均的にはとれていたものの、客席の反応が煮詰まる前にみな終わってしまう、という印象だった。なんでかな、と不思議だったが、要は、コントということで、逆に、公演時のような“ワク”がガッチリ出来ているわけでないので、それをギャグで壊していく、という作業にインパクトが生まれてこないのだろう。二本目の『立川くん』というのは、医者になぜか海賊(『ワンピース』のアレ)が受診に来て、その海賊がなぜか立川談志である、というアホネタなのだが、藤志郎さんの談志コピーはさすがとして、それを受ける境野和正を、ただ単に“どこがお悪いんですか”と繰り返し訊くだけでなく、もう少し、きちんと医者の職務に忠実に、診察をしようとしたり、さまざまな相手の行動に病気を読みとったりしようとするキャラにして、双方の食い違いをもっとはっきり見せていけば、ギャグの破壊力がもっと増したような、そんな気がする。あらゆるギャグ、いや、ドラマの基本は“対立”なのだから。女優陣総出演の『メガネ戦隊メガネンジャー』(ベギラマがギャルショッカーのモスキュートの扮装で登場)でも、せっかく持ちキャラである、“状況がわからずひたすらとまどう一般人”役で島優子を出すんだから、そっちの方の描き方にもっと重点を置いて、早く一般常識世界に戻りたいとあせる彼女と、異常世界の住人であるメガネンジャーの対立をクッキリ出せば、笑いが先鋭化していくのに、と歯がゆく思うのである。例えば、彼女がどうしても急いでその場を立ち去りたい理由(デートに遅れるとか)を設定するとか、一人足りないメガネンジャーの一員に無理矢理させられてしまう、というからみ方の強調を入れることで、異常な世界からなかなか抜け出られず、次第にそっちの方に取り込まれていくというあせりが、観客の方に伝わって 笑いに転化されていくのではないだろうか。

 ベギラマはまだ最初の舞台で、どう動いていいかとまどっているところがあったけれども、背も高いし、舞台映えはする。今後、どうこの劇団の中に溶け込んでいくかが楽しみではある。似たタイプとしては島優子だが、ぐっと変化をつけて、小栗由加のセンをねらってもいいかもしれない。しかし、『立川くん』での小栗由加の、ラス トの“わしゃもう知らんわ”という表情、決まってたなあ。

 7時40分、中座。出ようとしたら、ついさっき壇上で村木さんがネタにしていた小林三十郎さんがいた。オメデトウゴザイマスと(お子さん誕生)挨拶して、地下鉄で渋谷まで。そこからタクシーで下北沢へ急ぐ。20分遅刻で『虎の子』。仙台のあのつくんから送られた野菜を食べる会。キャベツの挽肉詰め煮、カブの生ハム巻、コマツナとジャコ炒め、ホウレンソウと豚肉の常夜鍋などなどなど。大根を大ぶりにザクザク切ったスティックに仙台味噌をつけて食べると、これが甘い。傍見頼路氏、みなみさん、開田あやさんと雑談いろいろ交わしながら。10時過ぎ帰宅。タクシーの中の電光掲示板で、阪神が巨人に一挙11点の大量得点で13対5で大勝、という結果を知る。どうかしちゃったのか、いや、巨人も阪神も。

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