裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

ちと馬鹿

 すでに元本は持っているのに、復刻版も“一応押さえておかんとな”などと言って買う書籍マニア。朝、7時50分起床。夢でずうっと、K子にチャイナハウスの料理の作り方を説明するということを繰り返していた。生麩と白滝を擂り鉢で摺って団子にし、炒めてからレタスの葉で巻いて天ぷらのように揚げて食す、というもの。こんな夢で、目が覚めたときハアハア息をつくほどくたびれていた。朝食、ミートパイとアップルパイを半分づつ。昨日あたりからやっとテレビで千乃正法という名称が出てきた。と学会のMLでも、その件でやりとりさかん。女性問題などでヌルいレスがえんえんつくことで有名なサイト『大手小町WOMAN』でも、スカラー波というのは本当にあるのでしょうか? タマちゃんがやって来たのも小渕首相が死んだのもスカラー波のせいだそうですが、という質問自体が、パナウェーブ研の自作自演ではないのか、とかで盛り上がっていた。やはりみんな、ワクワクするのである。興奮するのである。非日常が自分の生活範囲の近くに存在することを待ち望んでいるのである。神という存在がこちらの世界に降臨するとき、地上でわれわれを縛りつけている規制はその効力を無くす(祭の晩の無礼講や夜這い公認など)。神は古来、われわれにとり、日常のストレスを発散させてくれる超規範のシステムであった。土着の神々が力を失い、祭祀による非日常実現の役割は、こういう、新顔の神サマに託されるようになったのかもしれない。何にせよ、人間にはまだまだ、神サマが必要である。

 11時半、開拓者H社長来宅。行数調整で赤を入れたゲラ原稿を手渡す。『と学会年鑑BLUE』を進呈。書店などでの扱いをやはり観察しているらしく、やはりと学会はまだまだ大したものですねえ、と感心したように言っていた。K子がちょうど仕事場に出かけるところで、Hさんが挨拶すると、いきなり“いつ出るの? 印税が入るのはいつ?”とやらかして、こっちがドギマギする。“社長にとって気になるのはそのことだけなの!”と。

 2時、『時間割』にてマイクロフィッシュに図版用の本を何冊か手渡す。この日記を読んでいるライターさんから、社名が出たということで電話が入ったりしたそうである。相変わらず業界人の読者は多いようだ。打ち合わせ終えて、青山まで行き、資料本をあたり、紀ノ国屋で買い物して帰宅。家で、賞味期限切れかけだったパックの赤飯と、とんかつでカツめし。『創』Sさんから電話、さっぱり原稿を送ってこないから、何かトラブルかと思ったと言われる。GW開けには、と言い訳。

 マイクロフィッシュの書き足し分原稿をやらねば、とやりかけるが、その前に、今日午前中〆切だった『クルー』を片付けねばならん、とあわててやる。ネタが前に書いた回とダブらないか、連載を頭から読み直す。これでだいぶ時間とられた。で、やり始めると、これがどんどん長くなり、縮めるのにこれまた時間かかる。結局、送ったのが5時ちょっと前。河出Sくんから電話、明日、井上デザインで表紙打ち合わせの件。結局マイクロフィッシュは明日になる。すみませぬ。

 6時、家を出て、中野へ。アニドウ月例上映会。植木氏を誘っていたのだが、昼間電話で加藤礼次朗夫妻も来るとのこと、早めに行って入場の際に受付に口をきかねばならない。なみきたかしもこの日記の愛読者で、マツダ映画社の件でまたからかわれる。いや、弁士が美人なのだ、と言うと、ソレナラ許ス、と。12歳以上の美人はオレが担当だからね。以下は杉本顧問に回して……と、不謹慎な話二人でゲラゲラ笑いながら。佐々木さんは安達祐実似だから杉本さんも気にいったかも知れん、てなことを話しているうちに加藤夫妻来。礼ちゃんをなみきに紹介。礼ちゃん、
「『FILM1/24』の頃から愛読してます」
 と。奥さんのオタク教育のことなど話す。『ディープインパクト』を奥さんが観たい、と言うのに、“絶対こっちの方が面白いから”と『妖星ゴラス』を見せたりしているが、まだなかなか慣れていないようだ、とか。

 植木不等式氏も来る。やはり昨日はあれから閉店までずっとねばっていたそうで、ちと元気ない模様。植木氏の知人が礼ちゃんの小学校時代からの友人だという話などいろいろしているうちに、上映時刻。本日も補助席が出る満員。なみき、“30年前にこれだったらねえ!”と。あの頃は100人入った上映会の次が25人だったりと か、そういうものだったからねえ。

 本日の上映は基本的に地味め。とはいえ、植木氏を誘ったのは、私のお気に入りであるスタレヴィッチの『マスコット(悪魔の舞踏会)』をやるから。私がなみきにこれやってくれとしつこく言ったからだが、30分もあるので、なかなか上映の機会がなかった。最初は礼によってB級連続活劇予告編、それからマッケイ『ルシタニア号の沈没』。煙の描写に植木さんが感心していた。そのあと恒例日本のアニメ、今日は『リボンの騎士』第一話。さらにポール・テリーのヌルい作品二本。ヌルいのが最近好きと言っても、これはヌルすぎ。トムとジェリーまがいやドナルドダックまがいのキャラを臆面もなく出して、しかもその可愛くないこと。

 休息挟んで、アレクセイエフ『展覧会の絵』上映、となるはずがちと映写機トラブル。十分ほど待つ。これも何か懐かしい体験である。無事、上映は再開されたが『展覧会の絵』はやはり退屈。次の『ベティの白雪姫』に期待……と思ったら、なんと、白雪姫は白雪姫でも、ロッテ・ライニガーの『スノー・ホワイト・アンド・ローズ・レッド』がかかった。シャレかな、と思ったが、後でなみきが出てきて弁解したところによると、本当に間違ったらしい。たぶん、スノー・ホワイトと書かれたケースをこれだこれだ、と引っぱり出して、内容を確認せずにつないでしまったのであろう。いや、ライニガーのものの方が見る機会から言えば珍品なのかもしれないが、なみきも言う通り、盛り上がる作品じゃあない。

 で、やっとお待ちかね、『マスコット』。何度見ても怪作。以前、なみきにこれをリクエストしたとき、“杉本五郎が好きな作品だったなあ”と言っていたが、今回観て、アニメが好きだったんじゃなくて、出てくる女の子が可愛いから好きだったんではないか、と思った。なみき“あの(悪魔の)アッハッハア、という笑いをマスターしようと思ってねえ”。私“誰もわかんないよ、それ”。とにかく、エログロナンセンスという言葉は何処にあるか、と言われれば此処にある、と、まあ、そういう感じ の作品である。

 で、その後、時間が押しているので少し上映予定作品をはしょる、となみきが壇上で言うと、エエー、という声。それに押されて、結局、全部上映することに。片岡芳太郎『塙団右衛門/化物退治の巻』(ビデオで見られるものより長尺なバージョンなのがうれしい。女性の緊縛姿の色っぽいこと! 『奇譚クラブ』の読者が見たらさぞ喜んだろう)、『ハシモトさん/お花見の巻』(やはり受ける)、DのS・Sの中の一本(Dは嫌いなのだがポール・テリーなど見た後ではやはり上手いわ、と感心)、ジョージ・パルの『ジャスパーのお使い』、そしてチャック・ジョーンズ『不思議なカエル』。これはやはり、上映してよかった。完成度といいギャグの現代性といい、〆メにふさわしい一本。尻上がりに面白くなっていった上映会であった。出てきた加藤礼次朗が開口一番、
「スタレビッチって何物? 面白かったねえ!」
 と。偶然来ていたFKJ氏と、スタレビッチについて説明。開場におかべりかさんがいらしていたとかで、ファンとして挨拶したかったが、なみきがフィルムの片付け で出てこなかったので、諦める。

 K子に連絡、トラジで食事。植木氏は昨日の酒の疲れがまだ残っているようで、今日は帰ります、と。礼ちゃん夫妻、FKJ氏と五人で焼肉食いながら、アニメばなしさんざん。中野貴雄監督がいまチェコアニメにハマっている話とか、今日の『リボンの騎士』はつらかったねえ、という話など。虫プロ作品は編集が昔ッから拙劣であった。FKJ氏によれば、京都駅で上映されている新・鉄腕アトム第ゼロ話は出崎統が演出していて、今のアトムスタッフはこれを百回見て勉強しなおせと言いたくなる出来なのだそうな。氏は今回のGWも、日本各地飛び回ってのアニメ行脚らしい。もっとも、明日のくすぐリングスにも来るそうだが。しかし、こういう会話をゴッチさん(礼次朗夫人)、どれだけ理解しているのか。

 店を出たところでなんと安斎レオ氏に会う。ついさっきまでそこで実相寺監督と飲み会だったそうで、礼ちゃん“行けなくてゴメン!”と謝っていた。監督が“なんで礼次朗は来ない”と言ったらレオさん、“今日はカラサワさんと飲むそうです”とか言ったらしいので、こっちも謝らないといけない。レオ氏、“カラサワさん、日記凄いですねえ、毎日書きすぎですよ”と言う。マイクロフィッシュ、なみきたかし、安斎レオと、日記読者に三連チャンで感想言われるというのもなかなか。新宿まで行きタクシーで宇田川町。焼肉の匂いをプンプンさせたまま1時、就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa