裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

土曜日

ドールショーもない寂しさに

 包まれたときにオタクは酒を飲むのでしょう。朝、7時15分起床。狼男になってしまい、月が出ると俺は狼になるんだ、と恐怖してみんなに言って回り、いざ月が出たら筆箱(だったか犬小屋だったか)に変身して、とても恥ずかしく思う夢を見る。朝食、アスパラガスを茹でて7〜8本。果物は昨日下北沢で買った桃。ずいぶん小さ い桃だが、ちゃんと熟していて極めて甘い。

『本当は恐ろしいグリム童話』の作者、桐生操の片割れ、堤幸子さん死去。70歳、というのに驚く。私などよりずっと若い人かと思っていた。日記とりあえず1日分つけ、入浴、歯磨き等やって12時15分、家を出る。地下鉄で上野広小路まで。広小路亭『落語秘密倶楽部』出演。楽屋で快楽亭、ウツギさんと挨拶。と学会東京大会のチラシを前座さん(ブラ房、ブラ汁)に入れてもらうよう頼む。例の前座昇進試験の 話などさんざん。

 腹になんか入れておこうと、近くのうどん屋に飛び込み、昼定食。これが、とろろぶっかけうどんに鮭ご飯という組み合わせ。うどんと飯の組み合わせは、うどんをお椀代わりにして飯を食うことが眼目で、こういう組み合わせでは飯を持て余す。せめ てお茶でもあればいが、お冷やで飯を流し込むのはどうも。

 楽屋に戻り、談之助、昇輔などとも話す。昇輔さん、風邪でかなりノドをやられている。やがて開場。お誘いのメールを出した弁士の佐々木さんも来てくれた。客席、7分の入り。こういう会は夜の方が集まりがいのではないかと思う。それぞれのネタは楽屋にいたのでよく聞けなかった。昇輔は風邪声をカバーしようとやたら高座で大声を出していて、かえってひどいことになりはしないかと心配になる。談之助はピンクの高座着にピンクのマスク、ピンクの頭巾をかぶってパナウェーブのマネをいろいろ楽屋で工夫。50になってこういうアホなことをやれるのは実にエライ。

 佳声先生とは例により紙芝居談義。私のこないだ持ってきた紙芝居はいくらで買いました? というような話から、紙芝居の値段の話。最近は高いねえ、というような話で、先日池袋の骨董市で見た、小平事件をかけたドサ芝居のポスターが4万円の値がついていた、という話をしたら、“古いねえ、小平事件!”と、その芝居の話をしてくれたのには驚いた。大衆芸能の生き字引みたいな人である。“舞台に障子があってネ、そこに大きなハサミの影が映って、それが「チョッキン」てやるんだよ”には爆笑。これが大衆演劇のナンセンスのセンスというもの。ううむ、紙芝居をCDにす るより先に、梅田佳声の語り本を一冊、作らなきゃならないな。

 やがて仲入り、それから私の出番。朗読で、最初に境田昭造の『落語裏のウラ』から、若き志ん朝師匠が三笑亭夢楽にオカマをねらわれた話。それからオカマつながりで『ホモタイム』。さらに法律判例集からいくつか。オタアミとかでやると判例集のライダーマンやサザエさんの定義はウケるのだが、ここではやはりホモネタの方がウ ケよし。順番をあやまった。まあ、まず無難に。

 その後が佳声先生、最初にポンチものをいくつかやって、その後が怪作『妖魂まだら狐』。似顔絵紙芝居というか、主人公が旗本退屈男の市川右太衛門の似顔絵で、つまり植木金矢の似顔劇画の世界なのである。と、いうか、作には確か“てつや”とかあったが、これ、植木金矢ではないのか? ワイズ出版の『植木金矢の世界』は買っているがまだ読んでなかった。調べてみなくては。……ともかくこの紙芝居は、右太衛門の早乙女主水介が不動明王から授かった魔法の仮面とマント、スーツにブーツを身に着けて、ナショナルキッドみたいなスーパーヒーローとなり、城を乗っ取ろうとする悪家老のあやつるまだら狐と対決するという荒唐無稽の見本のような話なのである。それをまた、佳声先生調のツッコミ入り(来年のと学会には佳声先生を呼ぼう)でやるもんだから、もう爆笑。さらに今回はオマケでこれまた珍作『怪天鬼』。ゾンビをあやつる怪外人一味に、黄金バットが白馬童子の格好になったようなヒーロー、怪天鬼が戦いを挑むという話。裸体の美女(さすがに見せてはいないが)の死体を刀で刺し貫く残虐シーンや、その美女がみるみるミイラに変化するグロシーンなど山盛りで、こういうものを子供に見せておったのか、という、呆れ返りながら拍手したくなるシロモノであった。あんなソックリの黄金バットキャラを出して、加太こうじがよく怒りませんでしたね、と訊いたら、これは加太センセイのペンネームによる作品だ、とのことでまた驚く。内緒にしてても、加太センセイのタッチは独特なんで、す ぐわかるんだよ、とのこと。

 堪能して、終演。昇輔さんと並び佐々木さんや常連のHさんなどに挨拶。開田さん夫妻には二次会を誘う。今日は週刊大衆の取材が入っているので、大木の予定が浅草のちゃんこ屋三七三(みなみ)になる。広小路亭前のバス停から、バスで浅草へ。打ち上げの席にバスで赴く会も初めてである。あやさんは昇輔さんのノドを心配して、スプレー式ののど薬を買ってあげていた。佳声先生のファンで、なんと名古屋から来て、日帰りで今日、名古屋まで帰るという熱心な人もいた。K子も“なんでこんな早 くから打ち上げやるの!?”とわめきながら入来。

 前半は主に開田夫妻たちと、後半は佳声先生と語る。快楽亭はついに佳声先生に弟子入りして、芳慶(だか、邦景だか)を名乗るという。カセイ、ホウケイというシャレ。カラサワ先生も弟子になりましょうよ、と快楽亭が誘うのでその気になりかけると、あやさんがじゃあ神声がいい、と言う。カセイにシンセイ。やれやれ。マンセイてのはいいかもしれん、などと。佳声先生、じゃア今度カラサワさんのために『γ彗星団』を通しでやってみたい、とうれしいことをおっしゃってくれる。これは『禁断の惑星』のロビーそっくりのロボット(?)たちが海底島に秘密基地を作り、世界征服をたくらむ(海底人なのになんで彗星団なのか)というSF大戦争もの。ウツギさんに、大阪から旭堂南湖さんを呼んで、海野十三プラスγ彗星団で会を大々的にやりましょうよ、と持ちかける。こっちから大阪に佳声先生連れて乗り込んで、というテ もあるかもしれない。

 7時から、佳声先生がテレビに出演する、というのでみんな見る。『初めてのおつかい』特集のバラエティーで、先生はその案内役として登場、とのことだったが、スタジオで最初にカチカチ、と拍子木を叩き、“さて、××ちゃんはじめてのおつかいはいかなることになりますか……”と幕をあげる、という場面だけの登場。これで一日拘束、しかもガヤ扱いだったそうな。みんなでテレビというものは何であるか、と 糾弾する。

 ちゃんこ鍋食って飲んで話して、今日のギャラをいただく。これだけ楽しんでお金を払うのではなく、いただくんだからやめられない。解散は7時ころ。快楽亭は近くの店に、佳声先生を引き連れていった。いつの間にか合流していたブラ談次に、例の件の首尾を訊く。まだ、スレ違いらしい。週刊大衆のNさん(以前会ってる)が、上司のSさんを紹介してくれる。双葉社とはなぜかピンポイントのお仕事しかしていないんで、一度長期のおつきあいを、と。地下鉄で開田夫妻と。新宿からタクシー。少し早めだがマアいいや、と寝てしまう。

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