裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

日曜日

君はドゥルーズ、君はドゥルーズか君は

 仏の天才が時に野心をいだき 思考不可能な思考を夢見たときに〜(わかりにくいと思いますが『マッハバロン』の替え歌です)。朝、7時起床。明け方の夢で、女性の胸を評するのに、AカップとBカップのどっちが小さいのかを間違えて言ってしまい、その女に笑われて腹が立った。もっとも、その後彼女が胸をはだけて、“これがBカップよ、これが!”と、顔に押しつけてきた。内心の意識としては、このシチュエーションを希望し、それへと持っていくためにわざと(実際は知っている)知識を 間違えさせたのだろうか。

 朝食、クコの実入り粥。K子にはセロリとモヤシ炒め。ただし、熟睡していたせいか、私がいつものように“出来たよ”と台所から呼んでも起きて来ず、目が覚めてもまだ呼ばれていないと思って、長いこと階下で掃除機などをかけていた。テレビで渡辺文雄の『遠くへ行きたい』を見る。書き忘れていたが、一昨日、青山の紀ノ国屋前 でこの渡辺氏とスレ違っている。

 10時45分、K子と家を出て、地下鉄半蔵門線にて神保町、そこで都営三田線に乗り換えて千石。生涯学習館二階でと学会例会。今回はゲストも多く、会場がほぼ、満席の状態となる。盛会は結構だが、この会場は使用時間厳守なので、発表者が多い場合はサクサクとダンドリよく進める必要性がある。しかし会員にとり、数ヶ月に一回のこの会は一種のオマツリであり、どうしてもドガチャカになりがちで、進行に不安がよぎる。大阪から上京の会長が電車を一本乗り遅れて10分ほど遅刻。MC役の永瀬さんがそれをキツくたしなめる一幕があったが、しかし始まってみると、今日はやたらハイになっている永瀬さんが発表者にいちいち脇でツッコミを入れ、それが一番の時間延引の原因となった。そもそも、永瀬さんには昔、宜保愛子の霊視ビデオを検証する“ギボギボ90分”という発表ネタで、会場の時間丸々使い、会長はじめ他の者の発表全部を不能にした前科がある。彼が時間厳守を人にお達しするのは、ジャバ・ザ・ハットが人に太りすぎてはいけない、と忠告するようなものなのであった。

 私の発表も、時間を気にしながらのもので不発。一般会員のものとしては、青井邦男さんが持ってきた、水木しげるのマガジングラビアの名作SFイラスト大特集(ああ、懐かしい)、原田実さんの陽気婢作品『義母・愛子』という追悼一発ネタ、それからIPPANさんの格闘麻雀マンガ(主人公の雀士が白牌にこだわるのは、初体験だった高校の時の家庭教師が無毛症だったからという設定)、さらに名古屋の明木さんの、中国の猛烈にイラストの下手なUFO本、などが面白かった。しかし、半分も発表がいかないうちにもう会場の撤収時間。1.5次会にまで発表を持ち越し。開田あやさんのガンダム・コンドーム、談之助さんの小倉ヅラ疑惑画像、本郷さんの昭和33年の若い女性のための手紙の書き方例文、Mikipooさんの犬用超高級グッズなど、いいネタもあったのだが、やはりマイクと手元カメラのない発表はハンデであり、こっちにまで発表が持ち越されるのは極力避けたい。結局、最後に司会進行の永瀬さんの発表があったところで1.5次会の時間も丸々使い切り、撤収、ということになる。ここで予定していた東京大会に向けての打ち合わせが出来ずにしまった。

 どんなときにもマイペースというか、集団行動の能率より自分の興味や嗜好を優先させる人がいて、そういう人は決まり・規則を逸脱すること(それを周囲が容認すること)で自己のある種の特権を確認して快感を得るのであろうし、またモノカキとか役者とかは、そういう強烈な自己主張あればこそいい仕事が出来るという面もあるだろうが、私は小商人のセガレであって、そういう“公”をないがしろにするタイプにはイラつく。世間体とか、それからものごとの進行とかを気にする方なのである。とはいえ、そういう行動の気持ちよさも十分に意識しているので、その快感を堪能している人間に横やりを入れることがどうにもしにくい。K子に何度も“あれ、注意してやってよ”と注文する。彼女もやはり同じことを考えているらしく、次会から会の進行チェックを自分がやる、と言う。こないだの日記に、なんでこんな口の悪い女性とまた結婚したのか、と書いたが、K子のような進行の権化かと思える女性が脇にいるということは、私にとって安らぎなのかもしれない、と思えてきた。

 2次会はこの間と同じイタリア料理店二階。東京大会実行委員には固まって座ってもらい、ここで東京大会についてのチェック。植木不等式さんの必要事項チェックリスト詳細を究め、非常に助かる。補助椅子のこと、看板依頼のこと、音響・照明のこと、入り時間のこと、女性出演者の着替えスペースのこと、大賞発表時の小道具のことなど。今回はこういうイベント事務に長けた植木さんと、会場を熟知している談之助さんがいるのでなんとかモノゴトが前に進むようなものである。それでなければただの素人集団であり、不安でこっちは夜も寝られなかったろう。SF大会に参加する藤倉珊さんからは、そこでの企画である授賞式報告ビデオのことで、意見が出た。これの編集等をどうするか、も大会後の課題。火曜に実行委員有志で、もう一度会場見学に行くことを決める。

 IPPANさんが乾杯の前に、ワインだとかその他の飲み物だとか、個人々々の注文をとっていたら、K子が“そんなことしてたらいつまでたっても乾杯出来ないじゃない! 最初はビールとウーロン茶オンリーって言ったでしょ!”とIPPANさんをケットバス。みんな爆笑。私も苦笑しながら、そういう乱暴な進行により会が順調に進んでいくのを見ると、今日などは特に、うん、うん、そうだ、いいぞいいぞ、とうなづいてしまうのである。

 乾杯の音頭は植木不等式さんにお願いする。ひえだオンまゆらさんの誕生日(心はいつも23歳)のお祝いもかねて。ここのイタリア料理、前回は量・質ともにやや、不満があったが、今回はかなり改善されたという印象。皿数がこないだより多いね、とK子に言うと、スタンプがたまると一皿サービス、というシステムがあり、大人数なのでこないだだいぶたまったスタンプの御利益だとのことであった。チェック打ち合わせ終えた植木さんは、サア、終わったから酔っぱらいましょう、と飲み始める。今回ゲスト参加で発表もしてくれたとみさわ昭仁さんとも挨拶。下北に勤め先のみんなとしょっちゅう歩いて、虎の子の前も通るとかで、今度一緒に行きましょう、と。K子は青井さんが持ってきた折り畳み式キーボードを見て、大喜びしていた。007の小道具みたいである。

 酒が回るにつれてみな、例によって狂騒的になってきて、ひえださんが皆神さんの頭に黒の増毛スプレーを吹き付ける。皆神さんは今日は帽子ナシで、このまま帰るのか、とやや心配になった。桐生祐狩さんには照明に関することで、ちょっとサジェスチョンをしてもらう。10時過ぎ、頭を黒くした皆神さんに一本締めをしてもらい、お開き。巣鴨駅からJRで新宿まで。談之助さんとちょっと打ち合わせ。タクシーで帰宅、体中のエネルギーを全部使い果たした、という感じでバッタリ。

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