裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

日曜日

よく食う不満

 ストレスをバカ食いで解消させてます。夜中にあまり喉が乾いて目が覚め、冷蔵庫のジュースを飲んで、かつ部屋が乾燥していて鼻も何もヒリついていたので、浴槽にお湯を溜めて、浴室のドアを開け放して寝る。再び眼が覚めたのは、8時半。かなり酔っていても、7時には私は眼が覚める体質なのだが、8時半までピクリともせずに 寝入っていた。

 夜中に起きたときはまだ強烈な酔いが残っていて、明日、こんなんでトークライブが出来るか、と不安だったが、二度目の目覚めのときにはもう爽快。シャワー浴び、ヒゲを剃って、一階のレストランで朝食。納豆でご飯、軽く一膳。グレープフルーツとトマトのジュース、スイカ少し。部屋に戻り、またベッドに入って休む。資料などぱらぱら読むが、すぐそれもやめ、天井をずっと見たまま2時間ほど。よく、旅先でも(旅先だからこそ)新聞を読みテレビを見、モバイルで通信し、と受信アンテナを最大限に開いている人がいるが、最近の私は旅先ではとにかく、情報受信末端を全て閉じる。携帯へのメールすらチェックしない。まあ、旅先でしかこんな贅沢は許され ない職業だから、ではあるが。

 11時半、ホテルを出る。エレベーターで一階に下りたら、茶髪、色シャツ、柄ネクタイにピアスのイケメン軍団がずらりと並んでいて、驚く。仕出しのホストかしらんと思う。あるいは、結婚式などに出席か(今日は聞いたら大安吉日だとか)。今の若者がフォーマルにおしゃれしようとすると、ほぼ、ああいう形で統一されてしまうのかもしれない。多様性はすでに遠い過去の話か。イケメンと言えば、このホテルでは『仮面ライダー龍騎』の須賀貴匡のトークショーが何度も開かれているらしい。昔はヒーローショーと言えば後楽園遊園地みたいなアトラクショーと相場が決まっていたものだったが、おっかけお母さんたちが主体になった今ではトークが主なんだね。

 岩田屋Zサイド7階ホールにて、オタクアミーゴスin九州。楽屋入りすると、眠田さん到着済み。岡田さんもまもなく到着。しばらくダイエットばなしになる。昨今の岡田さんを見るとどうしても、な。岡田さんは西鉄ソラリアホテルにプールがあると知って、そこで泳ぐ、と言い張る。今日は前回より2時間開始を遅らせた2時開演で急速はさんで4時間、6時終演その後サイン会の予定なのだが、“イヤだ、5時半には終わってホテル帰って打ち上げまでプールで泳ぐ!”と言い張ったりしている。それでも、別に食に対する意欲が落ちたわけではなく、“さんなみに行きたい”とか“スパゲティ・アル・ブーロってのはよさそうですねえ!”などと、私の日記の食いモノはちゃんとチェックしているらしい。眠田さんに『茶目子の一日』のビデオなど 見せる。

 2時開演。福岡のオタアミ公演の特長は女性客が多い、というか目立つこと。最初に立ってトーク、それから席についてネタ、というのがいつもの流れだが、今回はなにかトークがやたら盛り上がり、なんと開演してから1時間、ずっとしゃべるだけで持たせた。また、ネタよりも笑いが取れたりするのである。その中で出た話だが、オタアミも結成からもう8年。あの頃は先端の珍しいネタ、埋もれた変なネタを発掘してくるという行為自体が目立つことだったが、すでにスカパーの韓国チャンネルなどでは、ファンティングマンですら簡単に見られる状況になっている。これからはそういう状況自体をひっくるめて語るという風に、われわれも変化していかねばならない のかもしれない。

 その後、例によりネタいろいろ、危ない話いろいろ。あっという間に休息時間。控室で“しかし、今日は前セツが長かったね”“まるまる一時間以上、本ネタに入らなかったものねえ”“なんか、やたら前戯だけ長い年寄りのセックスみたいだね”などと話す。楽屋には幕の内弁当が用意されていたが、半分くらいで残す。テンションがかなり高まっている証拠。第二部の開幕のとき袖にいたら、会場の係の人が器機のコントロールに使っているパソコンの壁紙が、峰不二子の、肩までの露出画像だった。“お、大塚康生の不二子ですね”と言うと、“いいでしょう、このままこの画面を下にスクロールすると、不二子ちゃんがどんな姿でいるかを想像するともう……”と、 ウレシソーに語り、さすがの岡田さんが少し引いていた。

 後半もまた、眠田さんおなじみの伊勢田監督新作ネタとか、いろいろネタは濃かったが、印象に残っているのはおしゃべり部分である。須賀貴匡の話からイケメンの話に移り、岡田さんと(彼は“ヒジョーに業腹であるが”との前提ではあっても)、今のオタク文化の中心にあるのはイケメン男子であろう、というか、どうこいつらを使いこなすかが問題で、カイジュウ映画がダメなのは、美少女は描くくせに美青年を描けないところだ、という話になる。もちろんギャグ沢山にしてはいるが、中身はマジである。二人の意見を統合すると
「美少女はアニメの世界のもの。現実の美少女を観に男が映画館へ行くと思っているところが映画人のカン違いで、昔から、男は自分が真似したい、カッコいい男の出る映画を観てきたのである」
 ということになる。イケメン男はナルシズムが強いから、なおのことであろう。そう言えば、二十数年前の学生時代、うちの一族の長格である東中野の大伯父が突如、
「俊一、『日本の首領』という映画を観に行きたいから上映しているところを調べて連れていけ」
 と言い出したことがあった。観終わった後、歌舞伎町のレストランでご馳走になりながら、“なんでまた、突如ヤクザ映画など観る気になったんですか”と訊くと、まんざらでもなさそうな表情で、
「ナニ、俺のことを“佐分利信に似ている”と言った女がいたんでナ、どんなものか ちと確かめておきたいと思ってナ」
 とアゴを撫でて、呆れ返ったことがあった。そのときもう大伯父は65くらいだったろう。こういう色気は男の特性なのかも知れない。ちなみに大伯父は、佐分利信と いうよりは内田朝雄に似ていたが。

 トークもネタも手がいちいち来る受け方。ひょっとして、九州公演では一番心地よい受け方であったかも知れない。終わった後、ロビーでサイン会。“今回初めて見にきましたが、来年も絶対来てください!”と言ってくれる人が多かったのは嬉しい。岡田さんはさっさとサイン終えると、“じゃ、泳いでくる!”と退去。眠田さんは、ずっとサインに“2002年”と書いて、指摘されて“うわ〜”と頭を抱えていた。“トークで頭を使いすぎて、もう今は全然脳が動いてない状態なんだよ〜”と。無事終了、物販の福家書店さんに挨拶。私もホテルに帰って、また灯りもつけないまま、 ベッドでアンテナを畳んで休息。

 7時45分、ロビーに降りる。今日の打ち上げは近くの居酒屋で。エロの冒険者さんが、本当に無事済んでホッとした、という顔をしていた。料理はアラの鍋。ここらへんでアラって幾らぐらいしますかと地元のスタッフに訊いたら、“いや、高級魚ですよ”と示した値段が、紀ノ国屋での三分の一だった。東京で食おう、というのが、『美味しんぼ』でもない限りそもそも理不尽な魚なのかもしれない。魚は基本的に嫌いな岡田さんがうまいうまいと食っていた。食いながら、三人、やたら女の話ばかりしていた気がする。開演前のリクエストでも“エロばなし”というのがあったし、九 州はソの方面を開放的にするところか?

 岡田さんはさすがに泳いだらバテた、と早々退散。私も、二次会は明日があるのでパス。眠田さんはつきあった模様。小雨の中、10時帰宿。今から寝ると夜中に目が覚めるだろうと、近くのコンビニで酒とつまみ買って帰る。案の定、12時過ぎに起きてしまい、資料など読みつつ、水割りの缶をあける。打ち上げより飲んだかも。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa