裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

水曜日

二つ目が通る

 バンソウコウをはがすと、真打になって人情話を語り出す。朝、ガロ系マンガの絵柄で、日本海の小島で牛の飼育をしていた親父がいきなり“これからはネズミだ”と巨大ネズミの繁殖飼育を始め、島中の人々から嫌がられ、家族とも離れて山の中で一人でネズミを育てている、という夢を見る。娘だけが父親を哀れに思って食事や生活費の差し入れにときどき行くのだが、貧窮にやつれながらも親父はネズミ飼育の夢を語って聞かせるという内容。そんな夢を見ていたせいか寝過ごして、8時半起床。

 朝食は変わらず豆サラダ。果物はキウイ。酸っぱくて参った。メール、いろいろ。ネットで“板坂剛氏死去”と出ていたので、『飯島愛の真実』の著者か、と思って読んだら、元日研化学取締役の人だった。フラメンコダンサー兼スキャンダルライター板坂剛については去年の暮れにカスミ書房で先鋭疾風叢書I『板坂剛の世界』を購入したが、刊行の1981年当時には嫌悪感(というより軽蔑感)しかなかった乗り遅れ革命家独特の臭みが、今見ると時代遺産としてなかなかいい感じに熟成していた。時間によるイメージの変化は大したものだなあ、と思ったものだ。死ねばもっと好意 的に見られるのではないか、と思うのだが。

 正月に本を送ってくれた中学時代の同級生Mさんがアメリカからの便り。サイト読者で名古屋出身の方から、“名古屋では米をとぐことを「かす」と言っていた”と報告メールをいただいた。辞書を引いてみると、“淅す”と書くようである。大阪言葉の“かしぐ(とぐ)”がすでに辞書にも記載されていないのに比べ、こちらはまだ辞書にも載って通用している語らしい。とすると、大阪から名古屋に移って“かしぐ”が“かす”になり、一方、関東の方へは形はそのまま“かしぐ”で入って、意味が変化した、ということか。しかし、古語辞典によればすでに“かしぐ”は室町時代以前から米・麦などを煮たり蒸したりして飯にするという意味であったとあるから、この二つは全く別系統の言葉なのか。何にしても面白い。続行して調べてみよう。

 アスペクトのコメント原稿書き進む。たった一年前なのに、鈴木宗男という名前も辻元清美という名前もすっかり過去の人になっているのに今更ながら驚く。昼は買い物がてらと思って外出して、いつしかその買い物がどうでもよくなってしまい、駅近くまで足が行ってしまったので江戸一で回転寿司。大トロ(一皿500円)彼女におごって鼻高々の学生が微笑ましい。

 帰宅、ちょっとダルくなって横になる。また起き出して、原稿続き。昨日の前書き原稿はKくんも“ひさびさに震えた”と褒めてくれる。前書きというよりはマニフェスト(宣言)といった感じですね、と。4時、時間割で村崎さんと対談。こないだの後書き対談とちょっとネタかぶりあり。事件の劣化、政治の劣化、国民の劣化を叫んでいたが、われわれもちと忙しすぎて劣化しているか。多すぎて削ることになったゲラに関しては、おとなしい第一回を全面削除でいいのではないかと話す。村崎さん、地下鉄の“交換本コーナー”に金日成の著作がズラリと並んでいるのを持ってきて、電車の中で大きく広げて読んでいたら、みんな顔をそむけて通り過ぎていくそうな。

 6時半、帰宅。ネットニュースで中島らも、大麻とマジックマッシュルーム所持で逮捕、の報。驚くというよりは“いまごろ逮捕か、やってないわけなかったじゃないかこの人物が”という感じであり、ついでに言うと、普通の作家とかミュージシャンだと、誰かがそう言うとファンたちが反発するものだが、この人の場合は熱烈なファンであるほど“そうだよなあ”と納得しそうな、そういう感じがするところが妙である。“マジックマッシュルームに関しては覚えがない”、と供述しているとのことだが、また、これほど“覚えがない”という言い訳に説得力がない人物もいないであろうと思われる。もう少し早ければ対談のネタになったのだが、これはチェックで書き 加えないといけないか。

 などと考えていたら永瀬さんから電話。と学会1・5次会場確保しました、との連絡。ご母堂の看病で大変だろうに大幹部にこういう仕事を押しつけて申し訳ない。と学会は多士済々、論客はいくらもいるが、雑務仕事をするテカ(“手下”の意。兵隊とも言う)がいないところが欠点である。若い会員もたまに入ってくるのだが、伊藤くんもそうだったし鶴岡もしかりで、最初から大物顔をして少しも新人らしい雑用をしようとせぬ。まあ、気働きが出来る人材ではどちらもなかったと思うが。あと、河出本の原稿の方針について、かなり具体的な話をしばらく。方向付けの大体のところが決まる。納得がいって永瀬氏も喜んでいた。編・監修らしい仕事をやったわけ。

 8時半、買い物少しして、『船山』へ。入ったら店員がひそひそと耳もとで、“両隣りはNHKのお客様です”と言う。なんでそんなことを、と思ったが、私とK子がいつものように毒舌で会話し、NHKの悪口を言うのではないか、と心配したのかもしれない。今日は一番安いコースを頼む。安いといっても、先付け、刺身三種、蒸しもの、焼き物、天ぷらに稲庭うどんという豪華コースで、なまじ高いやつより満足感は大きいのではないか。焼き物はメヒカリ、天ぷらはクワイにキノコにタラバガニ。蒸しものが絶品で、鴨肉のたたきを蓮根をすり下ろしたものでくるんで団子にしたもの。皮も餡もともに濃厚。最後にアヤメ米のご飯が食べられないのだけが残念。

 K子は来年、フィン語の締めくくりに一ヶ月ほどフィンランドに滞在してくるという。母もニューヨークだし、私もロンドンか上海あたりで一年ばかり暮らしてみたいと思う。滞在記書く契約でどこかで金を出してくれる出版社とかがあればいいが、この不景気では無理だろう。帰宅、10時半。打ち合わせなどの変更数件、確認。どうも2月というのは後ろから急かされているような感じである。まあ、今年の2月は特に予定がつまっているのだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa