裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

木曜日

ダイオキシン政策

 中国人民にとり、あれは猛毒であった。朝8時半起床。朝食、オニオンスープの中に温泉卵おとして。果物はブドウ。なんとかいう種類で皮ごと食える。私は朝食に果物がないと脳も体も動き出さない人間なのだが、K子は梨とかスイカ、リンゴ以外は食おうともしない。

 日記つけ、風呂、洗面如例。『クルー』原稿にかかる。資料をあさって、その情報をさらにネットで追う。資料あさりの楽しさについ、調べたことをそのまま原稿にしてしまうと、エッセイの面白さが半減する。こちらの視点をどこに盛り込むか、である。資料本にほんの二、三行載っていることがらが、テーマとしてふくらみ、一本のエッセイとして完成されていく喜びはモノカキならではの快感だが、とはいえ、たった2枚半の原稿に1時までかけるのは非能率。

 書き上げてメールの後、買い物に出かける。HMVで、ゆうべK子に“早く買っておくように”依頼された『サインはV』DVDボックス2巻目。それから西武地下で食料品。オリーブ油、薄口醤油、サラダスパゲッティ……と、切れたものを買い込むだけで、かなりの買い物になってしまった。帰宅して、昨日炊いた飯を温め、納豆とキャラブキの佃煮で食べる。最近、長崎飲料という会社の『発酵茶』なる飲み物にハマってよく飲んでいる。納豆もそうだが、発酵系飲食物の旨みに私は弱いらしい。

 食い終わってネット巡回ちょっと。バトルウォッチャーパティオの報告によれば、例の『絶望書店』に対し『もてない男』の(いや失礼、『江戸幻想批判』の)小谷野敦氏がカミついたとのこと。どちらも似たような性格なので、えんえんとメールのやりとりが続いている。立場も違えば発表媒体の性質も異なるものに文句つけてくる小谷野氏にも困ったものと思うが、“○○の駄本は初版2万部、その後増刷を重ね3万部売れている、私の『江戸幻想批判』は3000部程度だ”“××なんて妄説の書いてある△△はサントリー学芸賞と山崎賞を受賞している”とかいう十八番のルサンチマン文章はいつ読んでも笑える。車谷長吉氏とかもそうだが、現代人はこういう人々を困ったもんだと苦笑しつつ、どこか魅かれるものを感じてしまうのだろう。

 今日じゅうに世界文化社『世界征服50の計画』の序文を書き上げてしまうつもりだったが、クルー原稿に時間とられたのと、この序文がまた調べ始めるとキリがない感じの原稿になったので、完成できず。ところでこの書名、最初こちらの案で『トンデモ世界征服計画』と提出していたのが編集部の方からは“唐沢俊一の”とアタマにつけた上記のものとして返ってきた。自分でもそろそろトンデモとつけた本はやめに したかったので嬉しい。

 冬コミ同人誌『恐怖の巨顔女』の翻訳の方を先にと思ってすすめる。例によって文革用語を探るのに苦心。紅衛兵たちの地方での革命経験交流は“大串連”と称するがこんな語を使っても誰もわからない。あまり凝らない方が読者のためなのである。とはいえ、凝りたくなってしまうのがオタクの病ではあるが、ほどほどにしておく。とにかくこの作品(“RED GUARD ROMANCE”)、訳がK子の仕事場に届くたびにアシスタントたちに大ウケだそうな。

 7時半、東武ホテルロビーにてOTC打ち合わせ。月曜日の『オタク大賞』収録の件である。OTCスタッフの他、岡田さん、風邪でモーロー状態の柳瀬くんと、時間割に行く。くすぐリングス実況の児玉さとみ(猫戦車マリィ)さんに最初、司会進行役をお願いしたのだが他のお仕事とのからみでダメになり、ではと、またくすぐリングスつながりでカンザキカナリさんにお願いしてOKが出た。で、児玉さんも司会でなければOKらしく、この二人で女性オタク業界についてというコーナーを持ってもらうことにしたとか。呈示されたテーマを見て岡田さんと“なんだか全然ワカラナイ世界だねえ”と笑う。あと、平成オタク談義再開の件についても。ひょっとして正月あけ早々に大阪へ行くことになるかも。

 終わって8時45分、華暦でK子と食事。アジ塩焼き、肉じゃが美味し。K子がめずらしく“牡蠣鍋が食べたい!”と主張して牡蠣鍋もとる。『サインはV』の当時、いかに“食い物”が作品の中で重要な位置を占めていたか、の話。そう言えば立木大和に浅丘ユミが入社したとき、寮の管理人夫婦(木田三千雄、近松麗江)が“入寮祝いくらい、鯛のおかしらつきくらい並べてやりてえじゃねえか”“何言ってんだい、うちの予算じゃこのアジの塩焼きが精一杯だよ”というやりとりをしていたが、いまやアジも高級魚になってしまった。

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