裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

木曜日

だけどあの子は蛇娘イェイイェイェイ

 そうさあの子は僕には怖い 夜店の小屋の蛇娘イェイイェイェイ。朝5時ころトイレに行きたくなり目が覚め、7時半、起床。朝食、K子にトマト炒め。私は京芋とクレソンのスチーム。スープ、ブドウ数粒、ミルクコーヒー。テレビは青山健煕氏の民主党本部での会見の模様。目隠しの向こうでの会見という異様な状況だったが、声はそのまま。日本人妻大量粛正とかいう証言は大変ショッキングだったが、しかし、どうもこの青山氏、しゃべりが達者すぎる。悪い言葉を使わせていただくと、香具師的な響きがある。なにか、いまいち、証言の信憑性に疑問を抱かせてしまうような、そういう、大向こう受けを自覚している発言ではないか、と思わせてしまうのである。

 北朝鮮と言えば有田芳生氏のサイトで、週刊金曜日が例の記事を載せた号を増刷して売っていることに憤っていた。確かにひどいが、反権威反権力なんてのはこの日本では戦後このかた、マスコミ人のメシの種としての役割しか果たしてなかったんじゃないか、と思っている。私はそれほど驚かない。右も左も、この日本では思想なんてのは商売の看板に過ぎない。

『A Japanese Mirror』(IAN BURUMA)、先日ネットで手に入ったものだが、ざっと読み終えた。非常にわかりやすい英語で、私程度の語学力でもまあ、読みこなせる。日本人の持つメンタリティーを、サブカルチャーの分野から読み解こうというもので、言ってみれば下世話版『菊と刀』という感じだが、ヤクザ映画だのポルノだのといったものを外人としてここまで渉猟したのは大したものだと感心する。日本の研究者からはこの著者は、あまりに低級な文化から日本人像を偏って論じている、と批判されているようだが、逆に日本のアカデミズムが、これまでそういうものを日本文化からネグレクトしてきたのが問題なのである。

 この本、以前にTBSブリタニカから翻訳(『日本のサブカルチャー』)が出ているのだが、マンガ関係のところが何故かばっさり削除されていた、とと学会MLでの指摘があり、ならば、と原著で取り寄せて読んでみた。実は春秋社『男らしさの人類学』(ディビッド・ギルモア)の中でこの著書が取り上げられ、日本のマチスモ指向がマンガの中に表現されている例として、
「日本の少年や男たちのあいだで爆発的な人気がある」
 という、『僕は神風だ(I Am a Kamikaze)』という作品のことが述べられていた。神風特攻隊の生き残りの父親に完璧な男になるために厳しい特訓を受け、竹の棒で何度も頭を叩かれたり、走っているトラックの荷台からつき落とされたり(ひどい……)、吹雪の中で門柱に縛りつけられたりする。そして、その訓練の成果あって、主人公のシンコ(シンゴ?)は真の男になり、体の大きな土地の番長、 和田と対決し、これをうち負かす、というストーリィだという。

 この紹介文を読んで、急激にその『僕は神風だ』が読んでみたくなり、手がかりを探そうと思って原著を取り寄せてみたという次第である。見てみると、図版があって荘司としおの絵柄。スクリーントーンなどがまったく使われておらず、絵柄の古さから言って、たぶん1960年代初期のものではないか、と想像して、いろいろ検索をかけてみた。結果、荘司としお『おれはカミカゼ』(少年ジャンプコミックス)が見事ヒット。ジャンプの創刊4号(1968年)に連載されたものとのこと。……うーん、60年代末であったか。いかに創刊当時のジャンプが、時代から取り残されたような古くさい作品ばかりを掲載していたかということだなあ。ジャンプが隔週刊誌として創刊されたとき、私は足の手術(三回目)で入院しており、そのベッドの上で創刊号を読んで、読むに値する作品がほとんどないのに呆れた記憶がある。それでも親がそれからしばらく買ってきてくれ続けたから、この作品も当然読んでいたこととは思うが、きれいさっぱり忘れていた。決して“日本の少年や男たちのあいだで爆発的な人気がある”作品ではありえない。たぶん、著者は“『少年ジャンプ』は日本で一番人気のある漫画雑誌である”と教えられ、その雑誌に載った作品なのだから、このマンガも人気作品なのだろう、と考えたのだろうが、残念ながら、ちょっと情報が足りなかったようである。

 昼は昨日のご飯に、札幌からのイクラ、それと野沢菜漬けで。同人誌用の翻訳を試験的にやってみる。なかなか楽しい作業である。石原伸司さんから電話。アサヒ芸能に来年から連載持てるかも、ということである。『刑務所の中』公開で、安部譲二以来の刑務所ブームがまた来るとふんでいるらしく、あっちこっちから声がかかっているらしい。ゲイ雑誌にまでインタビューが載るとのこと。

 エロの冒険者さんから電話。明日、上京してくるというので、夕方、新宿で待ち合わせしようと決める。日曜のと学会にもちょっと顔を出すとのこと。そう言えばもう 例会時期であった、と、ネタ本をまとめて整理する。

 7時45分、タクシーで下北沢『虎の子』。ボジョレー・ヌーボー解禁で、樽出しの新酒が飲めるということで。K子、Jフォンを買って、マニュアルと首っ引きで使い勝手を試している。写メールを試してみるが、ここの店は照明が暗いので、その灯りで撮ると、なにやら『リング』のビデオ映像みたいになる。そうこうして新しい携帯を試しているうちに、最後のおつとめのように私の古い携帯が鳴る。モノマガジン の校正担当の人からの問い合わせ電話であった。

 日経新聞の営業担当の人と隣り合わせの席になり、いろいろ出版社情報等を交換。店員のタケシくんは、昨日、『ウッチャきナンチャき』見たという。なんでこの店に勤めていてあの時間の番組が見られるのかと訊いたら、昨日は床の排水工事で店が休みで、たまたまテレビつけていたら……ということだった。本当にテレビというのは何故かみんな、見ている。本なんてものはテンからかなわぬメディアである。あのつさんから送られた野菜(ここの店に届けてもらった)で、白菜と豚肉のスープ煮、ブロッコリの蟹玉炒め、青トマトの刺身など、いろいろ作ってもらう。ブロッコリは濃厚、青トマトは清新。これはワインにあう、これは日本酒、と、ボジョレーのデカンタの他に、日本酒もいつも通りの量を飲んだので、かなり酔ってしまった。野菜を萩原家と分けて、持って帰る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa