裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

土曜日

リボ核酸ゝ助サン

 シャレとしての出来はいいのだが元ネタのわかる人がどれだけいるか心配。朝、7時半起床。朝食、カリラヤン・ピーラッカに茹で卵をほぐしてバタを混ぜたものを乗せて。これがフィンランドでの食べ方の定法だそうな。読売朝刊に范文雀死去とあって驚く。まだ54歳。K子は『サインはV』ファンだったので、“ジュン・サンダースが死んだ”と教える。“えっ、骨肉腫?”と、すぐ出てくるのがいかにもK子である。半分弱、なんてふざけた名前なので、てっきりニセ中国人(李香蘭とか)だとばかり思っていたら、本当に両親が中国人。その後は推理ドラマなどの常連になっていたが、このヒトくらい“いわくありげ”という形容詞のぴったりくる女性を演じられる女優はいなかったな。ジュン・サンダースも、『プレイガール』のユーミン・ダロ ワ(何て名だ)も、しっかりいわくありげだったし。

 日記つけ、風呂入っていたら早川書房A氏から原稿催促電話、ハイハイ、1時くらいまでには全部、と答える。このときはホントにそれくらいで完成と思っていたのであるが結果として大ウソをついたことになり、結局、最後の原稿を出したのは23時間後れとなったが、これは後の話。いろいろと資料など引っぱり出したりナニしたりと、筆は進んではいるのだが手間はかかり、はかどらぬことおびただしい。雑学エッ セイというもの、コスト・パフォーマンスは極めて悪い。

 とはいえ、書いていてこれほど楽しいものもない。自分の頭の中に、トリビアな知識で構築された知識体系が出来ては崩れ、また出来て、という状況は中毒になる。資料しらべで、古い本をひっぱり出して読み、記憶を新たにするのも快感である。主人公が海賊に囚われて去勢され、女になってしまうというシーベリー・クインのゲテ海 賊小説『奇妙な中断』なんか、ホントにひさしぶりに読んだな。

 原稿をガリガリやっているうちに昼を食い損ねる。ほとんど動かず、椅子に座ってワープロを叩いているだけなので、そんなに腹も減らないので、そのまま書き続けている。今日送る予定の6本の原稿を、1時半に一本、3時1分に一本、3時52分に一本と三本連続でアゲ、一息入れて晩の買い物、と、青山紀ノ国屋へ行く。こないだの日記で、リンゴ祭で並んでいるリンゴが三十種類、と書いたが、今日改めて勘定し てみたら五十種類はあった。

 帰宅、米だけといで、また原稿。差し替え原稿に手を入れて、7時18分に二本、送る。あとは前書きの一章なのだが、もうここで体力の限界。原稿枚数に直すと、一日で20枚くらいしか書いてないのだが、疲労度は本を半冊、書いたみたい(送った原稿は60枚強)。気分を転換させて飯作りにかかる。9時、K子と夕食、甘鯛のハス蒸し、牛肉とインゲンとキノコの炒め物、それに冷凍のエスカルゴをオーブンで焼いたもの。ご飯は伊賀土鍋で炊いてみる。さすがにおいしく炊けるが、お焦げが出来過ぎた。

 ビデオで『超常体験ミステリーワールド(In Search Of)1』。アメリカで70年代に人気番組だったオカルトドキュメンタリー番組で、向こうの矢追スペシャルである(実際問題、矢追純一の番組の初期のものは、この番組を再編集していた)。ノストラダムスの予言は真実か、など、今見るとちょっと、であるが、ちゃんと懐疑論者の意見も並列させて紹介し、結論は視聴者におまかせします、という姿勢を取っているところが当時としては斬新で、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の監督ダニエル・マイリックとエデュアルド・サンチェスは子供時代、この番組が怖 くて怖くて、その影響であの映画をあの手法で作ったという。

 ホスト役がレナード・ニモイで、ビデオパッケージにも大きくそれが謳ってあるのだが、吹き替え版なので、ニモイが出るのは番組のラストの数分だけ。口髭を生やしていたが、実に実に似合わない。一巻は最初がノストラダムス、次が予知夢、最後が人民寺院のジム・ジョーンズ。ラストでナレーション(原語版ではニモイだろう)が“今なお、彼を信じている人々がいる。彼の言うことを神の言葉と信じ、彼の写真を抱いて寝る人々が……”と言って締めくくるが、カリスマという点“のみ”から言えば、ニモイの言葉をスポックの言葉と信じ、彼の写真を抱いて寝ている人々の数は、この番組放映当時でも、ジョーンズの信者よりずっと多かったろう。カリスマがカリスマを語る図というのはなかなか面白かった。見ながら缶ビール小一本、焼酎一杯。明日、早起きして原稿書くために11時には寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa