裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

月曜日

これモアイ、あれモアイ

 たぶんモアイ、きっとモアイ(イースター島巨石群中にて)。朝7時半起床。てきぱきと朝食の用意をし、てきぱきと食べる(オートミールとタモギタケのスープ)。今日は午前中に家を出なくてはいけないからだが、てきぱきと風呂に入っててきぱきと歯をみがいたあたりでてきぱきが切れた。本来は午前中にバイク便を手配し、原稿を書き……という筈だったが何もできず。日記つけたくらい。

 11時半、家を出て銀座へ向かう。OTC『平成極楽オタク談義』収録のため。送られたFAXには“昼は各自すませてきてください”とある。弁当代がないのであろう。これだからBSは。しかし、12時入りで到着したのがすでに12時10分。外で食べて行く時間がないので、近くのスカしたサンドイッチ屋でイタリアンサンドとカフェラテを買い込み、収録現場の居酒屋『える・じゃぽん』へ。本日の収録、第一回のお題が『84ゴジラ』、ゲストは樋口慎司、二回目が『ファミコン』、ゲストが立川志加吾、太田出版『CONTINUE』デスク多根清史。樋口さん岡田さんと最近のことをいろいろ。岡田さんから“ホントにそんなに今回の『クレしん』って感動するんですか?”と訊かれるので、“いや、あまりにシンプルすぎて感動するしかもう、他に出来ないんですよ”と答える。樋口さんの次の作品のこと、羽仁未央のお蔵入り映画の話、それから『ほしのこえ』の話など。あれだけのアニメを一人で作り上げるということが、いかに従来の集団芸術としてのアニメの概念を変えるかということを話すと岡田さん、でもそこまでを理解できるのは多少なりとも制作サイドに身を置いての考え方が出来る人に限られるだろう、『エヴァ』でそこらに知識のある人ない人ではっきり評価がわかれたように、と言う。樋口さんはむしろあれでああいう作品を作ろうとするタイプの人の限界も見えたんじゃないか、という。やはり個人の感覚がナマでそのまま出ることには抵抗がある(ように見えた)。ここらは、実写特撮映画という集団作業システムのただ中でものを作っている人の見方だな、と面白く思う。イタリアンサンドを一口齧るがあまりのまずさにそれでやめる。

 今回のゴジラについて樋口さん“いや、昔『ぴあ』にゴジラ論が載って、凄く新しくてカッコいい文章だなあって思って切り抜いてスクラップしてたんですよ。それで今回、このテーマなんでその切り抜き引っぱり出してきて、改めて読み返したら投稿者の名前がカラサワシュンイチってなっていて、ひっくりかえりました”と。で、その論争のあといよいよ制作された84ゴジラに樋口さんは現場スタッフの最末端として入り込み、岡田さんはその公開のあと、田中友幸に呼びつけられて次の『ビオランテ』でのメカデザインをゼネプロがやることになり……と、誰もが口をつぐみたくなる84ゴジラだが、この三人のそれぞれオタク街道の、分岐点みたいな位地づけになるわけだ。収録より雑談の方が盛り上がったような気もするが無事進行し、まとめもうまい具合に落ち着くところに落ち着いて結構。樋口さんはやはりシステムとしての撮影現場、にこだわっていた。彼が84ゴジラのときに胸につけていたというスタッフ証明票も見せてもらう。すらりとした好青年。岡田さん“いや、真ちゃんも奥さんに結婚後にサギだと言われたクチなんですよ”。樋口さんはアレン・カーの『読むだけで絶対痩せるダイエット・セラピー』を実践したそうだ。カーの前著『読むだけで絶対にやめられる禁煙セラピー』でホントにタバコをやめられたので、今度も、と期待したのだが
「タバコは吸わなくても死なないが、メシは食わないと死ぬ、という違いがあるってことを認識しただけでしたねえ」

 そこで樋口さんアガリ、入れ替わりに志加吾がやってくる。ABCさんこと阿部広樹さんも多根さんのつきそいでやってきた。これまでさんざあちこちで関わり合っていたのだが、実は阿部さんとは初対面。志加吾に“最近鶴岡がお世話になってるようで、よろしく”と挨拶したら、“いやあ、ようやく同年代で話の合う友達が出来ましたよー!”とうれしそうに言う。まあ、落語界などにいてはオタクばなしはまず、出来まいからな。

 ファミコンゲームの話になるととっちらかるので、基本的にはファミコンというもの自体の出現について語ってくれとディレクターには言われるが、しかしそれぞれの思い入れはソフトの方にあるだろう。それは岡田さんと志加吾にまかせ、多根さんともっぱらファミコンというものの受け入れられる素地や段階について意見を交わす。志加吾の、スーパーマリオの裏技紹介が凄かった。これもかなり散漫ながら話は盛り上がる。編集が困るだろう。まとめも我ながらきれいにストンと落とせた。終わってしばらく雑談。押井守ばなしなど。岡田さんはOTCの井戸さんにオタアミのCDを作らないかと持ちかけているが、どんどん話が膨れ上がっていって、オタアミで映画を撮ろう、という話になる。岡田“プロデューサーは町山智浩でどうか、「借金は映画で返します」って”私“大神源太じゃあるまいし”。あとやはり盛り上がるのは伊藤くんばなし、オオツカユキヨさんばなしなど。そう言えば凄まじく久しぶりにのぞいたオオツカさんの掲示板での“オタク系の方は、自分でなんとかする前に、学校とか警察とか裁判とか、権力に頼る速度がはやいかも”発言。やはりあれで実感したのかね。

 少しABCさんと話ながら歩き、別れて、サンドイッチ半欠けしか腹に入れてないのでどこかでソバでもたぐろうかとぶらついたが適当な店がなく、帰宅。ソウメンを一束茹でて啜って虫やしないにする。急いでバイク便でモノマガ編集部に図版用ブツを送り、秘宝館パンフ同人誌用原稿を書く。もとは以前別冊宝島に書いた原稿の採録だが、冒頭と末尾に7枚ほど書き足す。完成が6時半。7時に新大久保駅前集合なので、あわててタクシー飛ばし、新宿南口。そこから山手線。空いていて間に合った。今日は例のチュニジア料理『ハンニバル』で、北海道から出てきた志摩さんの歓迎もかねて、ウサギ料理を食べる会。メンツは睦月さん、安達Oさん、われわれに開田夫 妻、それに志摩さん。

 おなじみのハンサムシェフ、モンデールさんに挨拶、今日はもう一人厨房に、橿原ロイヤルホテル(Wカップチュニジアチームの宿泊先だ)のシェフさんが(たぶん勉強のため)入っている。彼は毎年、ロイヤルホテルに宿泊される皇族の方々の料理を作っているのだそうで、ケンペーくんの睦月さんに、アダヤオロソカに食べてはいかん、と説教する。

 さて、料理だがまずフェタチーズのサラダ、トマトスープに卵を浮かしたチュニジア風スープ。ヒヨコマメと鶏肉の細片が入っていて、卵を崩しながら食べる。こりゃ家でも作ってみたい。それからスナギモの煮込み。二時間煮込んだそうで、これがあの焼鳥屋のコリコリした砂肝か? と不思議に思うような柔らかさ。そしていよいよウサギの丸焼き。皮をはがれた因幡の白ウサギか、お釈迦様に自分を食べてくれと火の中に飛び込んだウサギみたいな姿のものが大皿に盛られてでーんと出てくる。何と頭もちゃんとついていて、やや、これはまさしくウサギ、という歯や目も確認できる野趣である。その肉は鶏肉のように白く軟らかく淡泊で、しかしウサギならではの風味が噛みしめると感じられる。特性のソースと相まってうまいうまい。みな歓声をあげる。頭は私がいただいて、頬肉、眼肉もこそげ落としたあと、頭骨を半分に立ち割り、中の脳味噌をいただく。これがまるで、フグのキモのようなねっとりと舌にからみつくうまさ。ひときれを開田夫妻に進呈。“日本酒が欲しくなる味だ”と。それで下げてもらおうとしたら女性オーナーが“まだ舌が残ってますよ”と。オオ、それは盲点、と上顎と下顎をコジあけて、中の舌をつまむ。珍味。それまで猫の虐殺ネット画像に非難囂々だった面々も、ウサギを解体してきれいに腹におさめ、満足々々と腹をさする。あの猫も食べていればあんなにトヤコウ言われなかったかもしれん。ワインはチュニジアワインのマゴン、それから途中でシャトーなんとかの赤を頼んだが、これがちょっと鉄の味が強く、みんなで血の味だ、いや出たての母乳だ、などと言い合う。

 その後クスクス。しかしもうここでお腹はまず、満腹状態。何も入らぬ、というような状態で安達Oさんと、フィレンツェのビフテックだのポーランドのキジの丸焼きだのの話をする。デザートに果物の生クリーム和え、あとミントティー。私はそこらへんでもうダウン状態。支払って出て、ちょっと隣のインドネシア系食料品店を冷やかし、タクシーで帰宅。ふうとウサギくさい息を吐きながら寝る。みんなは“次は羊の丸焼きだ!”と盛り上がっていた。

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