裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

日曜日

春の巨弾チンゲンサイ第一弾

 大河野菜小説『西のコマツナ東のオクラ』第一回! 朝7時45分起床。かなり複雑な構成の夢を見た。ある人物を暗殺するために、切手セットが贈りつけられる。その切手の裏にはノリの代わりに超強力ニトログリセリンが塗りつけられており、これをハガキに貼ったその人物が、切手をよくくっつけようと上から拳でドン、と叩いたとたんに爆発するというもの。幸い、それは未然に防げたが、犯人はなおも執拗にその人物をつけねらう。警察への通報で、某会場で行われている谷干城コスプレ大会にまぎれこんでいるということがわかり、警官たちもコスプレで向かうが、間違ってヒトラーのコスプレで会場入りをしてしまい、大混乱になるというストーリィ。どこで谷干城コスプレ大会などという発想が出てきたものかわからず。もちろん、谷干城の服装なんて、高校のとき日本史の教科書で見たきりだから、なんだかビートルズが昔着ていた青いミリタリールックみたいな、そんな変てこな格好であった。切手のノリが爆弾、というのは、昔テレビの白黒のスーパーマンに、そんな話があったので出て来たんだろうと思う。

 朝飯、昨日と同じ。ゆうべの夕刊を読んだら、額田やえ子死去の報があった。刑事コロンボシリーズがやはり代表作か。それまで、外国テレビ番組の、声優は話題になることがあっても翻訳家が話題になることなどまずなかっただけに、コロンボと言えば額田やえ子、となったのはその大胆な話し言葉のくだき方がよほど印象的であったのだろう。外国モノで刑事が死体を“仏さん”というのも考えてみれば度胸の要る訳し方である。“ウチのカミサン”がなにより有名だったが、この人の好んで使う言い回しに、“よござんすか”があった。原文は“You see”だと思うのだが、コロンボも使うし、高慢な女性(たいてい被害者)が特によく使う。このシリーズに限らず、吹き替えで“よござんすか”が出てきたら、ああ、額田さんか、と思ったものだった。

 体調悪し。とはいえ、食欲もありどこも悪くない。体調を保つところの心調とでも云うべきものが悪いのだろう。と学会誌原稿だけは今日じゅうに、と意気込むも、資料を調べたらまだ買わねばならぬものがあることを発見、イヤんなって投げ出す。母から小包が届く。頼んだクスリ類、シャケ、タラコなどの他に、ヘアパックというものが入っていた。リンス代わりにこれをつかうと毛穴がキレイになり、抜け毛を防ぐという。使ってみたが、その後、頭が汗をかくことかくこと。頭皮の汗腺が活性化するのだろうか。

 昼飯は送られたタラコで食べる。冷蔵庫の中の大根の切れっ端で味噌汁をつくる。食べ終わると極端に眠くなる。書庫で資料調べ。頭がクラクラして死ぬんじゃないかと怖くなる。横になって本を読む。近来の異色作と評判の某日本作家のSF小説を読む。異色であることはまぎれもないと思う。ただし、『三人冗語』の幸田露伴の文章 中に、
「近頃は世の好みにてか、評者の好みにてか、作者の好みにてか、不思議なる小説のみ多くなりて、一篇を読むごとに我等は眉をひそめて、これ意を新にして功を得んとせる人々の体を失して恠をなせるにはあらずやと打つぶやくことを免れざりし」
 とあるが、この作品など、まさに体を失して恠(怪)をなしたものであろう。SFとはそもそも怪をなすことを目的とした小説であるが、その一方で体を失することの是非を問う声も絶対にあがるだろうし、あがらなくてはなるまい。その声を大森望のように“世代ギャップ”に帰してしまうだけでいいのか。

 気がつくともう4時。どうしたんだ。SFマガジンの図版資料に海外雑誌が必要なので調べるがテーマにあったものがない(あってもやたら古い)ので、タワレコに出かけてこれを買う。ついでにビザール誌の新しいのも買う。それからDVD売場に行く。クリストファー・リーがホストのホラー映画大全、3万なにがしのものをつい、衝動買いしてしまった。

 金がなくなったので六本木へ行き、銀行で下ろしてまた買い物。何かしなければというあせりが買い物をさせるのだろう。帰宅、せめてもとと学会誌の書き出しだけでもやる。引用すべき部分がなかなか見つからず、ページを繰りながらイラつく。頭痛あり。ひょっとして風邪か? 胃がほてってやたらノドが乾く。

 8時半、夕食。非常に簡単に、札幌のシャケでわっぱメシ、豚とクレソンのみぞれ鍋。みぞれ鍋は具が何にもなかったが、案外うまく出来た。スープに冷凍のうどんを入れて煮て食う。DVDで『映像の世紀』などを見る。それとホラー映画大全の第一巻。ジミー・サングスターが“(ホラー映画を)撮ってるときは楽しかったが、あとで後悔した。こういう特殊なジャンルの映画を撮ると、色がついてしまって他の仕事がこなくなるんだ”と正直なところを語っていた。もっとも、文芸映画を撮ったところで、ホラーの仕事はこなくなるだろう。9時に井の頭さんのところにバイク便出す(24時間営業とは知らなかった。ただし深夜料金か大変に高い)。明日は早起きして仕事しよう、と決意するが、また焼酎などをガブ飲みしてしまう。いかんな。大変 にいかん。

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