裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

水曜日

お酢買ったのかい

 今は酢合わせかい。朝7時5分過ぎ目が覚める。体内時計もアテにならない。トイレ行き、もうしばらくウトウトして45分起床。朝食はライ麦パンにチーズ、高知のトマト。果物はバナナ。読売だけなのか他の新聞もそうか、相撲記事の小さいこと。琴光喜、栃東はじめ期待の若手が総くずれということもあるだろうが、この扱いの軽さはこれで国技か、という感じ。実際、この頃の相撲のつまらなさはひどいと思う。これは、力士が昔に比べて弱くなったわけではない。“みんな強くなり過ぎた”のが原因ではないか? あらゆるスポーツはその人気のモトとして、“アットウテキに強い”ヒーローを必要とするが、この頃の相撲取りは強さや体の大きさが大体みんな同じで、図抜けて強いのがいないのだ。トレーニングや肉体作りが科学的になり、取り口はビデオで分析されるようになり、みんな、おんなじくらいの体、おんなじくらいの技術、おんなじくらいの強さになってしまった。実力伯仲同士の対決は面白いものだが、それがいきすぎると、どの取組もおんなじに見えて、ツマラナクなってしまうんである。相撲ばかりでない、野球もそうだし、映画とかTVアニメとか小説とかにも最近、それが言えないか。

 辻元清美議員の政策秘書疑惑。まあ、どうでもいいのだが、辻元清美後援会に入ったという華倫変せんせいはどう反応するのか? 午前中ずっと海拓舎だが……いまイチ、いや、いまサンくらい乗らず。気分を変えようと、いろいろ雑誌類を読んだりする。昼は梅干し、練りウニ、シャケなどであっさり一杯。菜の花のミソ汁がうまい。書棚から引っぱり出してパラパラ読んだ戦前の薬局の業界誌『薬局月報』、掲載されているマンガがオットー・ソグローのものであることに気がついた。ソグローの『リトル・キング』以外の作品を見るのはこれが初めてだ。こないだ亡くなった根本進の作風は、このソグローからの影響であったが、それを指摘した記事はなかった。そもそも、『リトル・キング』自体、今のマンガ読者で知っている者が何人いるか。以前は『親父教育』や『ブロンディ』と並ぶ外国マンガの代表格だったのだが。

 ……などと言うと、“「だったのだが」ってオマエはその時代を知ってんのか”とツッコミが入りそうだが、三○年前、中学生だった私はツル・コミック社の海外マンガシリーズで、シュルツの『ピーナッツ』をむさぼり読みながら、それと一緒に出版されていた『リトル・キング』や『ブロンディ』も、共に読んでいた。ここはありがたい出版社で、英語の教材という名目だったのだろうか、和英対訳で、こんなの売れるのか、というようなマイナーなあちらのマンガをたくさん出版していた。モート・ウォーカーの『ビートル・ベイリー』を読んだときに初めてアメリカ文化の一端である軍隊モノのセンスを知って大興奮したし(全冊買って、読み通すのに学校を休もうとして親に大目玉をくった)、『わんぱくデニス』のお母さんの色っぽさが気になっていた身にとり、作者のハンク・ケッチャムがオトナの世界を描いた水兵モノ『ハーフ・ヒッチ』の、お色気満載の内容はうれしくて仕方なかった。ジョニー・ハートの『B.C.』『イドの魔法使い』などはモンティ・パイソンに先駆けて“無茶苦茶に高度な内容で徹底してバカをやる”という楽しさを教えてくれたような気がする。パイソンと言えば、イギリスの四コママンガという珍しい『アンディ・キャップ』は、何故か大橋巨泉訳、となっていたっけ。一時の私はそういう海外マンガフリークで、これらのマンガの模写を毎日せっせとやっていたし、『フリッツ・ザ・キャット』をメインにした海外マンガ雑誌『WOO!』が出たときには、ダイジェスト誌を作ったりして、クラス中にそれを宣伝したものだった。やがてツル・コミックが倒産し、コミックを角川書店が受け継いだとき、やはりというか何というか、引き取ったのはスヌーピーばかりで、他のマンガ群は見捨てられた。しばらく角川書店をこの一件のみで嫌いぬいていたものである。

 午後、ずっとパソコンの前にへばりつき。大相撲見てみるが、幕内の取組にもかかわらず、ほとんどの勝負が引き落としとか体をかわしての押し出しで決まる。これでは見るものは興奮しない。栃東の取組が終わったとき、勝ち名乗りを受ける栃東の後ろでお爺さんが大あくびをしていたのが象徴的だった。最後の武蔵丸と朝青龍の試合も肩透かしであっけない相撲だったが、これで館内が湧いたのは、この二人の体格や相撲の取り方が徹底して異なっていて、キャラクターの対比が効いていたからではないか。ハワイ対モンゴルというのもいい。絵になる試合を観客は好むのである。相撲協会は各部屋の親方に、強いというより個性的な力士を育てろと指示した方がいい。さもないと、相撲人気はこのまま落ちていくばかりではないかと思う。

 出版社その他から電話、メール数件。ちくま文庫『トンデモ一行知識の世界』の部数が決定。“わが社としては異例の大部数です”と言われる。素直にうれしいが、また一方ううむ、売っていかねばならぬなあ、とプレッシャーもあり。内蒙古飯店最後のツアーには談之助夫妻からさっそく参加申込み。数時間、仕事して台所へ上がっていくと、暖房も入れていないのに異様に暖かい。何だと思ったら、昼にシャケを焼いたガスレンジを消し忘れていて、5時間以上、つけっぱなしだった。別にレンジも変形とかはしていなかったし、どこにも被害はなかったが、ちょっとゾッとした。

 8時、下北沢虎の子でK子と食事。常夜鍋、と思ったらもう春でメニューから外されていた。店の天上を貫いている桜、すでに6分咲き。このシュールな光景の素晴らしさ。料理はカツオ叩き、タコの柚子胡椒あえ、豚しゃぶと焼きナスのごまダレがけなど。ジャガイモとタマネギのスライスにあっさり熱を加えたやつにソラマメのソースをかけたやつが絶品で、黒龍が進むこと。仕事は進まぬが。K子がメニューの“ぬるぬる三昧”というやつ(オクラ、メカブ、納豆の和え物)から納豆を抜いた二昧を頼んでいた。私はメカブというやつがどうも苦手なのだが、食べてみると案外おいし い。

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