裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

水曜日

巨根亭志ん朝

 あの師匠のロセンときたら、そりゃあ大きく……(さいきんの、日記のタイトルはげひんだと思います。小学4年生読者より)。朝7時半起床。鼻の具合はよし。のどが乾いて乾いて、グレープフルーツジュース。朝食、黒パンにチーズ。マカロニサラダ、モンキーバナナ。何か気分が浮き足立って、躁状態である。窓外の輝きがいかにも春めいているせいかもしれないし、昨日就寝前にのんだ鼻炎薬のせいかもしれぬ。口内炎が出来ているのはこの鼻炎薬で粘膜が荒れているせいか、それとも原稿書きの続くストレスのせいか。

 SFマガジン原稿、読み返すとイマイチ面白くないので後半部分をそっくり書き換えて、11時半ころメール。平塚くんから、メールの警告を出さなくする方法につき指示が来るが、やってみてもやはり出る。本日、K子の仕事場に同人誌の装丁の件で来るというので、帰りに寄ってみてもらうことにする。

 昼は兆楽でギョウザとチャーハン。店員の中国人らしい女の子、お釣の計算が出来ない。780エンで1000エンもらったのデ、お釣200エンデス、などとやっておばさんに“計算の出来ない子だよ!”と説教されている。叱られてもケラケラ笑っているので、叱る方もつい笑ってしまっている。出て、HMVなど冷やかす。根本敬さんの『電気菩薩』を立ち読み(確か贈ってもらっているはずだが)。佐川一政氏に対し、慈母のごとく菩薩のごとく、すべてを許し包容する根本さんの優しさ、異形の人に対する存在の根元からの尊敬の念に感動するのはやぶさかでないのだが、その菩薩の手の中に包まれて佐川氏は果して目覚めるのか。“あと七年、僕は生きて、その間に全てをかけた文学作品を書く”と言っておいて、出した本が睦月さんや大塚英史などへの悪口集というのも、情けないと思う。根本さんはこれをも“佐川さんは生きることが下手だから”と許すのだろうが。

 帰宅、仕事にかかるが体調が急速に低下。ちょっと休もうとベッドに横になるが、そのままトロトロと1時間半も寝入ってしまう。階下(階上?)で内装工事が行われており、その電動ノコの音が子守唄のように耳に響いていた。鶴岡からの電話で起き出して、高橋敏弘の件など情報聞く。バイク便で井之頭こうすけ氏に図版用ブツを送る。メール何通か。と学会本のネタを書庫から選別。平塚くん来て、パソコンを見てもらう。アレもダメ、これもダメとやるうちに、ひょいと日付の設定を見てみたら、何故かわからないが設定が変わっていて1994年だか91年だかになっていたのを発見。日付けが古すぎてセキュリティが効かず、警告が出ていたのだということがわかる。なんで日付け設定がこんなにさかのぼっていたのかは不明。今朝、平塚くんにメールで“なんか、すごくバカバカしいことが原因ではないかと思う”とメールしたが、その通りだった。

 6時半、神保町へ出る。例の『乃むら』で、植木不等式氏とソバを食おう、という算段である。待ち合わせにはまだ間があるので、この時間でも開いているところを数軒回り、最後にカスミ書房に行く。在庫の整理かなにからしく、ドアは閉まっていたが、明かりがついているのでノックすると、開けてくれた。雑談しながら棚を見る。業界情報をいろいろ教えてもらう。ウルトラQの台本ではペギラの回の二巻がキキメ(それだけ手に入りにくく、コンプリートコレクションの際のミソになるもの)である、という話など。まあ、私はそういう価値の定まってしまったものは(主にふところ具合もあり)あまり集めない。一万一千円ほど買い、一万円にまけてもらった。

 出て、階段のあたりを“そろそろ植木さんも来ているころか”と考えながら下っていたら、なんとその本人が上がってきて、踊り場でハチ合わせした。双方でウワッ、と驚く。別に驚くことはない。古本好きが古本屋の店先でハチ合わせするのは、山道でキツネに会い、木の上でサルに会うようなもの。雑談しながら、K子と待ち合わせている岩波ホール前に行き、落合って乃むらへ。K子はこないだ鴨鍋の量が多すぎてソバまで行きつけなかったので、植木氏を誘って鴨を食べてもらおう、というハラであったらしいが、鴨鍋はこないだでシーズンが終わり、メニューから外されていた。変わりに鴨の陶盤焼きというのを頼む。その他、自家製豆腐、焼き味噌、そばがき、てんぷらなど。放射能でみるみる巨大化する、という映画は何が元祖か、とか、さっきのパソコンの日付設定の話とか、と学会の今後のこととか、いろいろと話題は尽きず。吉乃川の杜氏伝説という酒の名前を植木さん、やたら面白がっていた。なんと、“ちくま書房のお仕事を回してもらったから”という理由でおごられてしまう。申し訳なし。11時、帰宅して、と学会本のネタ本を読んで寝る。

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