裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

土曜日

DVDバビデブー

 ただ言ってみただけ。朝7時45分起床。昨日の好天とはうってかわったドンヨリした曇り空。朝食、ハムをトーストにはさんで、マヨネーズ塗って齧るという向上心のないものにオレンジ。毎朝の日課になっているサイトめぐり。最近の楽しみは神田森莉のところ。彼の日記の面白さは夙にあちこちで噂されているが、鈴木宗男関連などのネタのはずし方の見事さはちょっとない。

 自分の日記もつけるが、最近、ワープロのフリーズが頻々。落語家の名前などで、桂とか蔵とかを打つとフリーズする(これはそれぞれケイ、クラで出している)。日記前半が全部消えてしまい、しばし愕然。ちゃんと少しづつ保存しておかないからだとK子に叱られる。つけ終わってシャワー使い、仕事。昨日書きかけていた扶桑社の原稿を書き上げてパティオに上げる。

 その他なんだかんだ仕事で、昼飯を食わぬまま2時になってしまう。抜くかとも考えたが、やはり何か入れておこうと思い、何も頭に浮かばぬまま新宿へ。雑用すませて思い出横町の方へブラつき、まぐろ丼専門のてらだ屋に入る。一番安いヅケ丼とミソ汁を頼んだが、ヅケマグロが柔らかく、口に入れるととろけそうだった。少し醤油をかけすぎてしょっぱくしてしまったのは失敗。今度はヅケの味をじっくり味わってみようと思う。と、言っても、この近辺に来るのは二ヶ月に一回くらいなのだが。

 大ガードの方へ歩いて、新宿ビデオマーケット。今日はここに、ちょっと前に店長からわざわざ手紙で推薦されたリージョンフリーのDVDデッキを買いに来たのであるが、その前にまず3階のアジア系の売場へ。店長がいて挨拶。社会順応力ゼロのオタク男がレジとチラシのことでやりとりしている。“そのチラシ全部くれませんか”“すいません、お一人一枚にしてほしいんですが”“えー、ダメですか”“他のお客さまにさしあげられなくなりますから”“……じゃあ一枚でいいですからください”嗚呼、まだいたかこういうの、と何か懐かしさにとらわれる。さすがに駆逐されつくしたと思ったが。ムカデやゲジゲジなどの不快生物でもいま都心で見かけると、“おお、自然が残ってる”と思ってしまうような感覚。アジアカルトものをいくつか、それと古モノの日本映画のビデオ。支払いのときにやっぱり“デッキはもうどこかでお買いになりましたか”と訊かれる。イエ、それを買いに来たんですテと言ったら、わざわざ自ら2階の売場に案内してくれた。この店お勧めのものを購入。もちろん、カルトもののソフトも数枚、購入。両手にソフトとデッキを下げて帰る。いま家にあるやつもそうだが、DVDデッキの軽いことにはつくづく感慨を深くする。上京してすぐ、貯金をはたいてソニーのJ9を秋葉原で買い、かついで帰って、翌日筋肉痛で苦悶したことを思い出すのである。思えば思えば、クソ重いデッキであった。

 帰宅してしばらく原稿書き続ける。ふと思い立って、ビデオで『マルクスの二挺拳銃』を見る。さわりのところだけ、のつもりだったが、ついつい見入ってしまい、最後まで見てしまった。ギャグと歌とロマンスとスペクタクルの取り合わせの妙に陶酔してしまう。この映画、二十年前に大失恋した女性と観たもので、思い出すたびについ、感傷的な気分になってしまうのだが、やっと吹っ切れたか。時間のかかることである。

 7時、家をまた出て下北沢。『虎の子』の開店一周年記念である。早めについたので、例によって上階のレトロコレクション。今日は安い駄玩具を三つほどだけ。K子が虎の子のH夫妻にお祝と、春風亭昇輔に書かせた店名の携帯ストラップを上げていた。生二ハイとお酒二合。H夫妻と店の前で記念撮影。混雑しているので一時間ほどで引き上げるが、まだ腹が満足していないので、参宮橋までタクシー飛ばしてクリクリに飛び込みで入る。

 脇の席にいたのが、何だかアヤシげな五○代の男女で、女性が携帯で知り合いらしい相手に、“トテモスバラシイものですから、是非お勧めしたくって”と熱を込めて語っている。“目にいい”とか言っているところを見ると健康食品か。二人の会話を片耳で聞いていると、どうも男の方が、そういう商売に女の方を引き込んでいるという雰囲気。しかも、そのエサがどうも自分自身らしい。ただならぬ熱意が女の、男に対する態度に出ている。女は小和田さん(雅子さまの親父さんか?)とこのあいだお会いして、とか言っているから、それなりの金と地位のある家の人らしい。男は身なりこそいいし、そこそこの教養もありそうだが、どうもカタギという風でなく、“こないだ台湾のカジノでまた財産なくしてしまって……”などと言って女になぐさめられている。熟年の性オーラが二人の周囲にギンギンに輝いていて、いささかヘキエキである。しかも私らが絵里さんと会話している中に、どうも加わりたいと思っているようでいろいろ声をかけたりしてくるが、絵里さん、こういうのはダメで、徹底して無視。見ている分には非常にオモシロイ。オノプロの末期にこういう連中には山程会わされていたなあ、と往時を思い出す(今日はどうも、レトロな懐旧にひたることが多いな)。二人の帰ったあとで、ナニアレ? とK子と絵里さん、大盛り上がり。絵里さんが毒気にあてられたか、腰が痛むというのでアガったあとも、ケンといろいろ雑談。チーズとターキー、それにパスタの三皿で、ワインは余ったら家に持って帰ろうと思っていたが、話がはずんで、とうとう一本空けてしまった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa