裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

29日

土曜日

顔で笑ってファラデー泣く

 タイトルに意味はない。力道山とグレート東郷の二人に雪の翌朝の浅草興業街を車で案内される夢を見る。夢の中ではグレート東郷というのは力道山に頭のあがらぬ、礼儀正しい男で、彼が運転するバンは、圧搾空気であたりの雪をハネ飛ばす新工夫がしてある。こういう、自分にとって何らの関連性もない夢のストーリィというのはどこから湧いてくるのか。もっと夢に見てもよかりそうな関心事や心配事よりも、こう いう話を夢に見る必然性は何処にあるのか?

 K子の頭痛薬効いて、朝7時半まで今日は寝られた。ただし、起き上がるとまだ痛いというので、トースト一枚と麦茶で朝食をとらせる(変なメニューだが本人のリクエストによる)。私はトーストとシポラタソーセージ。新聞は長嶋引退で持ちきり。特にウチは読売なので、一面の半分以上を使って報道している。以前、『噂の真相』の芸能界スポーツ界ホモ疑惑特集で、“加山雄三と長嶋がヨットの上で胸毛をからませあっていた”という世にもおぞましい噂を取り上げていたが、確かに女性的感性を十二分に持っていた人で、それが彼の野球を単なるスポーツからパフォーマンス芸術に高めた原因なのかもしれない。コンタロウの“流目(ながしめ)監督”というパロディキャは思うに秀逸だったのだなあ。

 隣室で女房が寝ている傍で原稿シコシコ。就職情報誌『クルー』用コラム2枚半、それから北海道新聞コラム2枚。枚数は少ないがどちらも内容的に気に入ったものが書けた。昼飯代わりの弁当を、今日が新装開店の西武デパートの地下食料品売り場に行って買ってきて、と言われるので、外出。以前食料品売り場のあったA館に行ったら単なるレストラン街になっていた。食料品売り場はB館地下に移ったというので、そっちに行く。凄い人出。全国各地の名物弁当売り場があったので、ジャコ飯と笹寿司を買って帰る。ついでに銀行に寄り、残高確認。

 帰宅して二人で昼食。ジャコ飯が意外においしい。また少し仕事、ネットも周回。“裏モノ会議室”順調な書き込み数。一時は閑古鳥とまではいかなくとも、ニフティ脱会者が常連にも続出して、さすがに書き込み数が減っていたが、最近、旧に復した感じである。これもテロ事件の影響と思うと、実に思わぬところにまた影響があるもの。テレビをつけたら、白髪頭にこれも白い口ひげを生やした、初老の紳士風の人物が出てきたので、誰かと思ったら、中田カウスだった。変貌ぶりに仰天する。脇のボタンは変わらず若いままだが、これはこれでやはりヘン。そのうち肩が異様に張ってきたので、新宿に出て、マッサージ受ける。今日は新しく入った若いマッサージ師さんで、若いだけあって力が強く、腕などをグッと揉まれると、しびれるほど痛い。しかし、その痛さが気持よくもある。一時間ほどあちこち揉まれて、最後に“奥の方に疲れがたまってますねえ”と言われる。まあ、どのマッサージ師さんも言う定番のセリフなのだが、四十男というのは馬鹿な生き物で、疲れていると言われると“うん、オレはやはり仕事ざかりなのだな”とヨロコぶのである。

 終わって、その足で後楽園ジオポリス。搬入口から入ったとたん、“わっ”と驚いたほど人でにぎわっている。どの展示ケースの前にも人がたかり、アベックでのぞきこんで笑っている男女、中年男ばかり数人でいろいろウンチク垂れながらあちこち見回っているグループ、親子連れ、老若さまざまににぎわっている。昨日とは雲泥の差で、やはり土日は違ったもんだ、と思わせる。本日ゲストの中野貴雄監督は、クイーンビー・ハニーのコスプレのお姉ちゃんを連れて、ビデオ撮影をしている。ゲスト出演を利用して、後楽園の絵を撮るというのは賢い。張り切り過ぎて、ロブスター女の子が内股に怪我をしてしまうという一幕もあった。それはいいのだが、後で地獄女史の扮装をする中野監督、まだTシャツ姿だが、顔だけは白塗りでバカでかいつけまつげをつけており、まさにトラッシュポップというイメージ。

 加藤礼次朗と撮影の様子を観察。なにしろハイレグのお姉ちゃんたちが格闘しているのである。周囲の後楽園の客たちの反応が面白い。笑ってみている男女、呆然としている子供、その手を引いて目を合わせないようにする母親とか。本日はドラァグ・クイーンのマーガレットこと小倉東、それにピンクアント、アンブレラ(コウモリおんな)、ロブスター女の三人、そしてクイーンビー・ハニーという超豪華出演者。それ目当てに来たわけでもあるまいが、客席は満杯、立ち見までズラリで、100人近いギャラリー。キャットファイトは主役のクイーンビーのお姉ちゃんが、いろいろ楽屋で打ち合わせしていた段取り全部忘れてしまい、かなり危なっかしかったが、それでもまあ、何とか無事終わった。見ていてハラハラして、終わったときに、もう時間が三十分くらい経ったかと思ったら、なんと十分しか経っていないのにオドロいた。

 キャットファイトショーが終わったあと、中野監督とトーク、それにビデオ上映。ビデオはさすがに中野貴雄で、これぞキッチュという作品。よくまあ、こういうものを探し出してこられるものだ、という感じ。トークも例によっての空白恐怖症的な、持ちネタ満艦飾の前後左右もわからぬもの、もう最後はまとめる気もなくなって、
「ハイ、今日は終わりです、終わり々々!」
 と〆メた。こういうのも面白い。終わったあと、写真撮らせてください、握手してください、サインしてくださいの攻勢。これも驚いた。女子中学生みたいな女の子たちが寄ってきたが、これが雑誌の取材だとかで、コメントを求められる。

 楽屋で、中野監督に本日の女の子たちのギャラ(これは私持ち)を支払う。安くて恐縮だが、中野さんの方でも大恐縮していた。ホントに腰の低い天才である。ロビーで開田夫妻、加藤礼次朗と雑談。その間もまだサイン下さいという好きモノのファンが来てくれる。尻上がりにこのままイベントを乗り切れるか? マーガレットを始めロブスターギャルたちはなんと扮装のまま、後楽園タダ券をもらってジェットコースターに乗りにいった。

 K子に電話したが、痛みはとまっているものの、痛み止めが明日の分しかないので今日は寝ているとのこと。開田夫妻、礼次朗と新宿に出て、二丁目のへぎそばへ。囲炉裏席に座ったが、向かいに熟年のゲイカップルが座って、なかなか見せつけてくれていた。いろいろ話題出て、早く帰るつもりが12時に。K子に悪いことをした。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa