裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

月曜日

サキソフォン忠臣蔵

 ジャズ浪士。朝7時半起き。大雨である。そんなに風はないが、こないだのカス台風のときよりは荒れ模様らしい荒れ模様。朝食、ソーセージに田舎パン、梨。新聞休刊日でワイドショーばかり。例の兵庫の手錠女子中学生殺害の34歳教師について、彼が中学生のときの卒業文集まで引っぱり出して紹介している。よくまあ、そんなものを見つけだしてくるものだと毎回、感心。また、彼がしょっちゅう行っていたビデオ屋が、取材に対しハイハイどうぞという感じでリストを見せて、女子高生レイプもの借り出しの常連だったなどと証言しているのにあきれる。AVのコーナーをもっている(画面で見た限りではかなり充実した品揃えであったようだ)店が、そこでどういうビデオ借りていた男が犯罪をおかした、などと、警察にならともかく、マスコミに教えてどうする。そのせいで人気商品が規制されたりする事態になったら、商売に差しつかえるではないか。ちょっとマイクを向けられただけで顧客のことをべらべらしゃべっちまうような、最低限の職業倫理もわきまえぬ店には通いたくないものだと思う(それとは別に、私が犯罪をおかして、ビデマなどが取り調べを受けたら、と想像すると極めてオモシロイ)。

 午前中、快楽亭から電話。かねてから懸案だった池袋文芸座のオールナイトのプロデュースを、11月に一緒にやることになったのだが、その打ち合わせをしヤショウという話。どうせなら浅草近辺のうまい店でやりヤショウと言うと、じゃアこないだ情報を仕入れたちゃんこ屋が吉原にあるから、ソコでとすぐに答が返ってるところがいかにも食いしん坊のこの人。なんでも、日本中の、“元相撲取りがやっているちゃんこ屋”を全制覇した、というツワモノとこないだ会って、“じゃ、その全ちゃんこ屋の中でアナタが推すベストの店ってなドコなんです?”と訊いたら、迷わずココ、と指定されたんだそうである。

 日本社会薬学会から電話で、金沢講演の交通費の件。予算ワクで3万6千円とってあるので、そのワク内でしたら一人でも二人でも、ということだが、K子にそう言ったら一人分片道しか出ないわよ、と一蹴。講演謝礼というのがまた公務員ワクであって、聞くだにアハハ、と笑ってしまう額。いや、この仕事に関しては、それこそ“公務”という気で行くので、額は問わないのだが、それにしてもただこれだけで金沢に行くのはシャクなので、メトロン星人のSさんに連絡取り、その晩会いましょう、と計画。

 雨午後になっていよいよ繁し。体は動かず、不調甚だし。ネコも同じらしく、じゅうたんの上に何度も吐く。同病相哀れみたい気持はやまやまだが、こう傍若無人に吐かれると腹が立つ。ケボ、と廊下でえずく音がするたびに洗剤スプレーを持って駆け出す。昼は昨日買ったトンカツでカツめし。メシはレトルトのおこわ。Web現代Iくんから電話、昨日の原稿で取り上げなかったサイトについて指摘。やはり昨日は頭が動いていなかったようだ。それを取り入れて前半書き直すことにする。OTCから電話、明日のスタジオ入りは朝9時半とのこと。ひえー、天王洲、氾濫してないか。

 原稿、就職雑誌連載一本、夕方アップ。夕刊を見たら、相米慎二肺ガンで死去との報。53歳という若さ。うーん、はっきり言ってこの人の映画が私は苦手だった。最後に観たのが銀座の松竹試写室での『東京上空いらっしゃいませ』で、ウェルメイドプレイを日本映画に取り込もうとしてこじんまりと挫折していたこの作品で、何故か私は無闇に腹がたち、ついでナサケなくなり、あ、もういいや、になってしまったのである。一方で、“今やあらゆる日本映画は相米慎二の映画との距離を比較され、その正しさを測られる”(某サイトの映画評より)とまで評されるカルト監督ではあったが。『台風クラブ』などをもう一度、見直してみようかと思う。訃報もうひとつ、落語家橘家文蔵氏死去、62歳。え、そんな若かったっけ。正蔵仕込みの怪談噺を受け継いだ人がまた、ひとりいなくなった。あ、JOCの八木会長も急死とか。オリンピック大阪招致失敗で心労がたまってたんだろう。サウナでいきなり、というのは心不全か脳溢血か、何にせよ他人事でない。

 7時過ぎ、時事通信社依頼の書評(ネスコ『文士の逸品』)原稿書き上げてメールする。どう考えても“役に立つ”本でないところがイイ。無用の用を忘れたときから文学は(いや、SFも、オタクも)衰退を始めたのだと思う。8時、『船山』。秋のコースだということで、松茸のお吸い物、カマスの若狭焼、栗ごはんなど。代はK子が雑誌類をせっせとブックオフに売って溜めた金で支払ってくれた。

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