裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

火曜日

易占トリック

 あなたのッ、運勢はアッ、波瀾万丈ォォォッ! 朝5時半起き。暴風はないが雨、やはりかなり降っている。朝食はイチジクとヨーグルト。日記つけ、原稿書くもやはり間に合わず、9時に雨の中をタクシーで浜松町まで、そこからモノレールで天王洲アイル。場所が場所だけに、台風で土手が決壊してないか、とか心配になる。『地球防衛放送パンドレッタ』(パンドラの後番組)出演。四本撮りで、一回はガメラ(もちろん昭和ガメラ)博士としていろいろウンチクを垂れ、それから眠田さんがスタートレック博士として『ディープスペース9』『エンタープライズ』についてそれぞれ語る回の進行役、さらに眠田さんと二人でスカイビューティーズ(名前が変わったのかどうかしらない)の女の子の質問(「オタクの人たちって、普段なにをしているんですか?」など)に答えるというもの。

 二十分遅れで入ったのだが、機器類の調子悪く、ちょっと遅れている。後で聞いたら、台風のせいで湿気が極端に高まり、録音機材が結露してしまったらしい。控室でOTCのIさんと雑談。コンテンツ・ファンドの××××が×××ので、×××××××……というような話。どこもきびしい。“逆木圭一郎さんからよろしくとのことでした”と言われる。大学の先輩なんだそうだ。しかし世間は狭い。一時間遅れで録り開始、ガメラの方は最初に決めたダンドリをスッ飛ばしてしまったが、あとでちゃんと生かしてまとめられた。四十分くらい録って二十分程度にまとめる、という予定 が三十分の録りですんで、まあ楽。それにしても、女の子たちが“何言ってるのか、全然わかんなーい”と呆れるのを前にいろいろオタクが自慢げに濃い話をして自己満足するというこの番組のコンセプトって、かなり自虐的じゃないか? いいかげんにこういうイメージからオタクを脱却させてはどうだろう。

 続いてそのまま眠田さんとのスタトレ話に突入。スタトレマニアの女の子を連れてきていたが、そのまあ濃いこと濃いこと。さすがの眠田さんも“なんでキミ、そんなこと知っとるんや”と呆れていた。彼女を出せばよかったのに。それにしても、秋からアメリカで放映の始まる新シリーズ『エンタープライズ』は面白そうである。

 弁当を次のコーナーに出る中野貴雄監督と一緒に食べる。中野監督、このあいだビデオ撮影で韓国まで行ってきたが、“出演する女の子の名前が「ウンチ」って言うんです。どういう意味なんですかね”“あの歌舞伎町のビルに行けば、ルーズソックスはいた幽霊が見られるんですかね、「ちょーうらめしー」とか言って”などと、例により話題がトメドなく噴出する空白恐怖症的トーク。面白いったらない。こっちも悪ノリして、漫才のようになる。

 つつがなく撮影終わり、3時には開放。タクシー呼んでくれるが、その時間にはもう雨はやみ、羽田方面には陽がさしはじめていた。帰宅、仕事にかかる。が、やはり気圧で普通どうりには動かない。イベント欄に出るトラッシュ・ポップ・フェスの文面チェック。しばらく固まっていたりなんだり。ロフト斎藤さんから、11月アタマのロフトでのオタアミの件、電話。資料で映画『地底王国』のビデオを前半だけ。すさまじくチャチな地底世界の特撮が笑えるが、ピーター・カッシングのアブナー・ペリー教授の演技は素晴らしいの一語。一人だけやたらバカ丁寧なクイーンズ・イングリッシュを使い、19世紀の英国上流知識人を見事に表現していた。地底人に連行されていく最中につぶやく文句が“怒りっぽい連中だ、まるで外国人のようだ”というのが何ともイイ。

 夜、北海道新聞の連載コラムの著者校二回分すませ、すし処すがわら。食事終わってタクシーに乗ると、ラジオで“貿易センタービル倒壊”などと凄いことを言っている。帰宅して、あわててテレビのニュースをつけてみると、まるで『インデペンデンス・デイ』か『ハルマゲドン』か、というシーンが映っていた。テロリストが旅客機を乗っ取りビルに特攻した、ということだが、まるきりカーペンターの『ニューヨーク1997』の冒頭シーンではないか。目撃者のコメントにも、“映画のワンシーンかと思った”というのがあったが、すでにわれわれは現実では映像を追体験することしか出来ないらしい。飛行機が突っ込んでの爆破シーンも倒壊のシーンも、見事にカメラ位置を変えての“押え”のシーンが撮影されており、まさに映像時代、という感じであるのが何とも。ただし、超高層ビルたるものがあんなに簡単に倒壊するものとは、さすがのSFXマンたちも思っていなかったろう。各テレビ局報道陣の
「アメリカの、富と繁栄の象徴である国際貿易ビルが、崩れ落ちていきます」
 という声のウレシソウなこと。世界各国にとり、アメリカは頼りになる兄貴分で、いろいろ世話になってはいるおじさんなのだが、また、それをハナにかけるうっとうしいヤツでもあるんである。ひどい目にあうのはある種“いい気味”なのだ。

 小松左京が三十年以上前に“建国以来、一度も敵に本土攻撃をされていないアメリカという国は、攻撃には長けていても防御体制が極めて拙劣である”とエッセイで書いていたが、それが的中した、という感じ。ペンタゴンを攻撃されてどうする。副大統領が、そう簡単にホワイトハウスを避難してどうする。危機管理がなっていない。……とはいえ、これが北朝鮮とかの国家的攻撃でないということで、見ている方としてはこれは直接戦争につながるモノではない、大きなスケールの“パニックドラマ”でしかないのではないか、と思える。近親でニューヨーク在住の人がいる家族以外には、むしろこれを娯楽とすら受け取っている人が多いのではないか?(私にも知人や従姉妹でニューヨーク在住者がいるが、まずあんなところには立ち寄るはずのない人種どもなので安心)。歌舞伎町火災の方がわれわれには文字通りの近火なのである。とまれ、ワクワクしてテレビから目を離せず、結局1時過ぎまで。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa