裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

木曜日

芸術は托鉢だ!

 太陽の塔建立寄進集めのため全国行脚。朝7時起床。まだテレビはハイジャックテロ一辺倒。少しネタ切れでは、とも思える。出演者も硬派の人ばかりで、オウム事件のとき、芸能担当レポーターがほぼ失職状態だったのを思い出した。それでもテレ朝は、8時からのモーニングワイドの、まずトップの意見をおすぎに聞いていたし、芸能ニュースで“現在ニューヨークに足留めされている芸能人”というネタをやっていた。考えるもんだ。朝食、果物と牛乳とパンを切らしていたのでスパゲッティ。それとブラックコーヒー。

 日記つけてすぐ引き続き原稿、SFマガジン。今回はほとんど話を横にフラず、ワンテーマで書く。K子に弁当、昨日ソバ屋で食べのこしを持って帰った魚の塩焼きをネギと一緒に煮付けにして。また原稿続き、英文資料を引用するのがめんどくさい。英文と言えば、昨日太田出版から『トンデモ本の世界R』(Rに意味はない)の見本が届いたが、中の私のコラムで、“dates”を“datas”と読み違えていたのをさりげなく訂正されていた。こういうのはまことに恥ずかしい。

 昼は炊いた飯に冷蔵庫の中にあった大根汁の残りをぶっかけて一杯半。すぐ、時間割に出かけたら、光文社のO氏とサンマークのT氏が二人揃って待っていた。ダブルブッキングである。あちゃあ。T氏にわけを話して、最初O氏と。文庫本のこと。グリンアロー社の雑誌で書いたものを連続して文庫化してくれるという話であるが、これは来春の話。ぐずぐずしている間に年内の刊行予定は埋まってしまったらしい。少し予定が狂うが、まあ、来年文庫が三〜四冊、連続して出るとなれば、経済的にはまず、安定するのでありがたい。

 それからサンマーク。マンガ原稿のチェックである。絵で時代考証がどう考えてもオカシイところに、こっちでツッコミを入れておく。さらに全章の小見出しをその場で考えて、書き込む。作業しながら、Tさんとテロ話。アメリカ株が下がっているのは今、買い占めどきですねえ、と金もないのに二人で話す。たぶん、一時的な株価や貿易の落ち込みのあと、かなり早い時期に、アメリカは再興してくるだろうということで意見が一致する。ベン・ラディンはもう少し、ハリウッド映画を勉強すべきだった。こういう、卑怯な手で最初ダメージを与えられて、その痛手から涙をこらえて立ち上がり反撃に転ずる、というのはアメ公のもっとも好むパターンではないか。『インデペンデンス・デイ』も『パール・ハーバー』も、外国人から見ればアホ映画でしかないが、アメリカ人たちはあれに熱狂する国民なのである。

 さるにても、今回の戦いは宗教戦争である。新聞などにイスラム原理主義の不可解さ、などと書かれているが、そもそも原理主義の元祖はキリスト教である。テレビで国会議員たちが国民への追悼とはげましを込めて“♪ゴッド・ブレス・アメリカ〜”と全員で合唱している場面が映っていた。われわれから見ると極めて珍妙な光景に見えるが、彼らはあれで大真面目なのだ。小室ナオキ風物言いで言えば、アメリカは聖書によって成り立っている国家、それも一種の“狂信国”なのである(ヨーロッパ人からみると、なんでアメリカ人はあんなに熱心に教会へ行くのかわからないそうである)。狂信はアラブのお家芸ではない。今回の戦いは狂信者対狂信者の戦いなのだ。小泉サンも、あまり今回の事件に深入りはしない方がいい。宗論に巻き込まれるくらいバカなことはない。

 だいたい、不思議なことに、アメリカがどこかで戦争をやっていると、日本は景気がよくなる。朝鮮戦争のときは奇跡の復興を遂げ、ベトナム戦争のときに高度経済成長が来て、イラン・イラク戦争のときにはバブル景気になった。今度も特需景気がこないかねえ、とTさんと凄まじく楽観的な話題で盛り上がる。これで不景気が一掃されれば、まさにあのテロはカミカゼになるだろう(そううまくはいかんだろうが)。

 帰宅して、遅れていた北海道新聞コラム4回目書き上げ、K子と編集部にメール。それからSFマガジン続き。5時に書き上げ、メール。青林工藝舎に資料届ける時間がなくなる。明日のこととして、そこから出かけ、渋谷から浅草まで。快楽亭と、池袋文芸座のオールナイトプロデュース打ち合わせ。15分ほど遅れてK子にニラまれる。東洋館近くの純喫茶『ブロンディ』で打ち合わせ。快楽亭はこの事件当日、同じ映画マニアの桂蝙丸や春風亭昇輔と飲んでいて、そこの店のテレビで知った。
「オレたち、もし今夜、飲んでなければどうせCSで深夜映画見てたろうから、明日までこの事件知らないでみんなに馬鹿にされたろうねえ。いやあ、世間に乗り遅れないで、よかったねえ」
 とお互い喜んだそうな。文芸座オールナイトは11月の10日土曜に、立川流オールナイト興業の第二週目(第一週がミッキー亭カーチス選、第三週が家元選)として快楽亭&唐沢亭の“トンデモ時代劇ナイト”。とにかく、今映画会社(特に×映)がフィルムを貸してくれなくて難渋するとか。お互いがいろいろ候補を出し合い、十本くらい決めて、この中からどれがあるか、ということで。それにしても、次から次にこういう面白いイベントの話が来るのは実にうれしい。

 そこから、秀次郎、快楽亭の奥さんも入れて、吉原の、そのチャンコマニア推薦のお店『三七三』。ビートたけしあたりも気に入りの店らしい。いかにも下町風の気風のおかみさんが、例によって秀次郎を大気に入り、かわいいわねえ、かわいいわあ、と、下にもおかないもてなしよう。K子が“子供作るやつの気がしれないわ”と言ったら、奥さん、“私も作る前はそう思ってたんだけど”。そう言えば彼女は妊娠中に『奇形児』の同人誌をあげたらを熟読していたんだった。チャンコは濃厚な出汁で、なかなか結構(ただし、ずっと食べていると飽きるかも)。おじやはノリの味が効いて美味々々。おつまみのトロ豚ポン酢が気がきいていてうまかった。朝早かったので眠くなってしまい、10時お開き。

 帰ってすぐ寝たが、夢にまいった。さっきのチャンコ屋での光景をそのまま夢に見ていたのだが、ずっと、夢の中で“眠い、眠い”とつらがっているのだ。寝ている最中の夢で眠がっていては助かりようがない。2時ころ、“猛烈に眠くなって”目が覚めた。もちろん、すぐ改めて寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa