裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

火曜日

ポンビキの侍

 おえりゃせんのう。近親相姦が許可された未来社会で、住人がみんな小人だらけになっちゃうというグロな夢を見て、7時半起き。なにげなくカレンダーを見て、寝惚けていたのか、今日を水曜と思い込み、昨日ロフトをスッポかしていた! と、青くなる。いろんな人に対する陳謝と言い訳がダダダダ、と一瞬にして頭の中で創作、分類、整理されるのだからアドレナリンって大したもの。カン違いとわかって一気に気が抜ける。朝食、エビカツサンド。エビカツは昨日小田急のトロアグロで買ったものだが、やはり紀の国屋のエビカツの方がずっと上。値段はこっちの方が高いんだが。K子は日記UP後、仕事場にやたら早く出かけていく。

 こないだの休刊した業界誌のエッセイが地方出版社から出ることになり、その打ち合わせの電話をしばし。鶴岡から電話。全然チェックしてなかったが、永山薫氏が自分の日記で、哭きの竜さんの伊藤くん本における、自分の表現について大激怒しているという。“一匹狼”という呼称がいけなかったらしい。前に私に“一派”と言われて激怒して、今度は“一匹狼”で激怒するところを見ると、どうも“一”という数字がキライなんじゃないか、と思う。今度誰か、篠原一とか朝倉世界一とか一発貫太くんとかの話を氏の前でして試してみてはどうか。

 昼は自家製親子丼。ノドの具合が悪いのでダシをうんと薄めにする。『談志の選んだ艶噺』で川柳川柳の楽屋ばなしを聞いて大笑いする。仲間うちのプライバシーをこうやって堂々と高座にかけてしまう落語家の世界の凄味をヒシヒシと感じる。もっとも、フツーの人にはとてもここまでのレベルにはついてこられないのも事実。そう言えば笑志の書き込みが志加吾のHPで論議を呼んでいるようだが、立川流が世間に接触しようと思うと必ずこういう反応はあるもの。家元が家元だ。

 同じ書き込みでも、談志がやればシャレととられ、前座がやると糾弾される。シャレは本人のキャラクターに大きく関わっている。“シャレがわからない客でね”という芸人さんがよくいるが、実はシャレがわからないのではなく、本人の顔がよくわからない、という場合が多い。知名度(知キャラ度)の差なのだ。ネット書き込みなどでも、よく“本人は毒舌芸人のつもりだろうが、所詮無名の素人だからねえ”と哀れまれているのがあるもの。川柳師匠がいくら“オマンコ!”を連発しても、あの人はもはや回りが“川柳じゃしょうがねえ”と諦める域にまで達している。笑志には早くそこまでになってもらいたい(川柳さんみたいになりたいかどうかは別にして)。

 4時、歯医者。今日はたて込んでいると見え、左下奥歯のツメモノを入れ換えたのみ。ガリガリと削られながら、ついウトウトしてドリルを噛んで叱られる。体力がかなり落ちている。今夜が不安なので、帰りに通りの薬局に寄り、ユンケルDを一本飲んで気をイレる。5時、新宿へ。外はベットリとした暑さ。早めに来ていた久美先生ご夫妻と道で出会い、まだ会場作りをしているロフトプラスワンへ。いろいろと業界ばなし。考えてみれば、久美さんとはSF大会などでやたら顔を合わせてはいるが、じっくり話したのは今回が初めてではないか。

 今夜の客層は、私目当ての常連がいつもの半分(帰省中だな、たぶん)で、他はみんな久美さんのファン。初老の上品なご夫婦がいると思ったら、久美さんのご両親であった。ゲストも多々読んだが、その親が来ているのも初めてである。編集関係もいろいろ来ていて、楽屋は名刺交換の嵐。7時半、開演。顔合わせが初めてのトークのいいところも悪いところも両方出る。こちらが新鮮な気持ちでいろいろと久美さんに質問できる反面、果たしてそれが観客に受ける話になるかどうか、さぐりを入れながらの進行なので、いつもよりかなりスロースペース。マジな話、ギャグ中心の話が交互で、聞いている方はとまどったのではないか。

 前半が妙にマジな精神論になったので、後半は特別ゲストの花井愛子先生にご登壇いただき、経済的シビアな状況の中でいかに作家としての自分を成立させていくか、という問題(こう書くとまたマジに思うかも知れないが、実は突発的経済的危機下における、笑えない、しかし爆笑モノのお家事情)についての話。編集者だの××××××んの悪口などもバンバン飛びだし、ドガチャカとなる。あげくにK子までが壇上に登り、税金対策の話、担当編集の容貌体型の品評の話まで。司会進行役としての自己採点で45点以下。客は呆れていただろうが自分で楽しんでしまった。

 サイン本なども順調にハケ、12時に打ち上げ、炙り屋。ここでの雑談内容がまた公開できないものの凄まじく、久美先生の企業努力的驚嘆エピソードも出て、聞いているこちら(含花井先生、開田あやさん)をアゼンとさせる。いやあ、『新人賞の獲り方・・・・・・』読んで作家のトバ口には立てたところで、その立場を継続させるためにここまで出来る人がいるとはちょっと思えない。作家というのは大変ですぞ、志望者 諸君。

 2時、解散。なんと徳間書店編集部が打ち上げを奢ってくださる。他の出版社編集諸君、ここを七度ほど読み返したまえ。客席にタニグチリウイチ氏がいたが、帰ってネットのぞいたら、もう今夜のことが日記にアップされていて驚愕。早いはやい。著者近影の件は・・・・・・うん、私も聞けなかった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa