裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

水曜日

泣くなコンバットよ心の妻よ

 鬼軍曹の目に涙。朝7時起き。昨日ジァンジァン跡などに入ったせいか、一人舞台で講談のようなものを演じる夢を見る。この出来がサンザンで、終わってから“あれほど声が通らない人だとは思わなかった”“セリフもきわめて不正確ですね”などと酷評され、大いにメゲるという内容。まだあそこの場の黒い影響から逃れきってないのかねえ。朝食、ベーグルサンド。それからネットのぞいたら西手新九郎で、鶴岡のHPに、ベーグルファンのサイトが紹介されていた。

 朝、週刊アスキー一本アゲ。数度書き直しをして、かなりヘバる。『男の部屋』や書き下ろし原稿などもやらねばならぬのだが、気圧に縛られていることもあり、体力低下。奥平くんへの見舞い(前回のと学会例会で集めたが、彼が実家で療養中なので送れなかった)を郵送。六本木まで出て、こないだのコミケの売り上げをと学会口座に振り込み。ジャラ銭と千円札が多いので、振り込み機使えず、窓口でやりなおす。それからトツゲキラーメン食べに東日ビル地下に入るが、このビルは再開発まぬ がれたとはいえ、数店が歯の抜けるように閉店。よく打ち合わせでコーヒーを飲んだ喫茶『パラオ』も、誠志堂書店も店を閉じて、閑散たる状態。トツゲキの店長も、何か元気なし。

 渋谷に戻って、2時に東武ホテルでNHKのYくん。来週金曜の『ウィークエンドジョイ』打ち合わせ。原口智生監督との妖怪対談、それは問題なしだが、その週のゲストがパラパラダンサーズで、私も原口監督も番組のラストでパラパラを踊らされるらしい。唐沢俊一と原口智生がパラパラ踊る図というのはサブカル・オタクマニアにとっては珍宝になるかもしれないが、何を考えておるのか。いろいろあって、Yくんがこの番組担当するのも今回が最後。私の出演もたぶんこれが最後になるだろうな。

 打ち合わせ終わって、家に戻る。藤井淑禎『純愛の精神誌』(新潮選書)を読む。著者は立教大学教授だが、歌謡曲や青春小説から、昭和三○年代の愛と性のイメージを分析しようと試みており、それを文学作品でない、大衆レベルのもので行うことについて、“「愛」と「性」をめぐる風景の実態は、問題作群に代表される一目をひく高い峰々のつらなりを渉猟することによってではなく、むしろふところ深い広大な裾野のほうを尋ね歩くことによってこそ、その一端を明らかにすることができるのではないか。本書が、その時代の人々の生の声と真実の姿とを求めて、旧来の分類による「文学」テキストばかりではなく、これまでは非「文学」とみなされてきた、雑多な「表現」をも手がかりとしようとする根拠は、そこにある”と述べているのは、日頃私が主張していることと完全に重なり、非常に力強く思う。同時に、わざわざこう断らねば非「文学」を扱うことも自由にならないアカデミズムの世界というものの窮屈さもビンビンに伝わってきて、大いに気の毒に感じたことであった。

 5時半、新宿でサウナとマッサージ。マッサージの先生の言うには、疲れが頭と首に集中してしまって、ほぐせないほどになっているという。まあ、さ来週の札幌で少しはほぐれるだろう。汗はビシャビシャ出る。夏は汗を出すように体のシステムが作られているのに、エアコンのせいで汗をかけず、仕方ないのでこういうところでわざわざ人工的にかかねばならない。

 8時、京王プラザの中華料理『南園』でK子と食事。フカヒレと冬瓜の冷製コンソメ、アワビと金華ハムの蒸しもの、カエルと豚の乳味噌炒め、北京ダック。いずれも高いのでホンの味見程度ずつ頼む。あと、カニチャーハン。アワビは小さいの一個を二つにポンと切っただけで持ってきて、これに齧りつけという。柔らかく蒸してはあるが、ちと中華という感じではない。しかし、昨日不満に思ったアワビの味のつまらなさを、金華ハムの風味でちゃんと補完していて、味は結構。この店も9時半ラストオーダー、10時閉店である。少し早すぎないか。都心のホテルのレストランなら、せめて11時まではやっていてほしいものである。

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