裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

日曜日

アラ法(アラウンド法廷)

明日の酒井法子公判に裁判所周囲に群がるであろう連中。

※ルナティック演劇祭最終日

朝10時まで寝床の中。
ただしメモとったり電話したりメールしたり、
起きてやればいいのに、というくらいの大働き。

起きだして入浴。
腹が減ったが何も朝食の用意がないので、パスタを茹でて
明太スパにして、ブラックコーヒーと。

上野山功一さんからお電話、昨日会えなかったお詫びを。
今日昼ごろ中野に梨を届けに行きますというが、もう
その時間には出てしまっているので、母の室をお教えしてておく。

mixiニュースで『死体洗いのアルバイト』の話。
「昔、担任の(あるいは理科の)教師からやったと聞いたことがある」
という人の多いのに驚く。
そう言えば、高校時代、夏休みに悪友のK柳という男と、北大の
医学部に解剖用死体管理のアルバイトがあるそうだ、死体保存の
薬液プールの脇で一晩、ときどき浮いてくる死体を棒でつついて
沈めるのが仕事だそうだ、やってみないかやろうやろうと盛り上がり、
本当に北大に電話したことがある。
「そんなバイト、あるわけないでしょ」
と一刀両断だったが。

昼は母の作った鴨南蛮。
食べて1時、家を出て下北沢。『ルナティック演劇祭』千秋楽。
今日は昼の部でHAGELproの『罰と罪』をもう一回観て、それから
最後に残った『湘南アクターズ』の『はちみつ』を。

『罰と罪』、第二部第三部演出の秋葉さん、第一回からかなり
ダメ出しをしたということで、なるほどまとまりがぐんとよくなった。
ただし、セグメント同士のつながりにもう一工夫あれば、と思うし、
登場人物が一気に多くなる第五部がちと唐突に感じられるのが残念。
構成としては第一部と第四部でフレームを作り、第二部、第三部で
別々の話が語られ、第五部がエピローグ、という構成だったが、
これ、第五部を二つにわけてフレームにし、第三部、第四部と
続け、その二つの犯罪(?)を扱う陪審劇の第一部をやって、
そして第五部の後半につないで……としたら、また印象が違って
見えたのではないかと思う。あくまでも内容でなく、芝居全体の
バランスの問題だけど。

昼の部終り、T田くんなどとダベりつつ劇場内で時間つぶし。
ようやく来月の『オールドフランケン』のチラシが刷り上がった。
やがて郷田ほづみさん始め『湘南アクターズ』の方々来て、
チェック開始。
なるたけ前情報入れないよう、舞台を観ないように受付の方に出たり
するが、しかしこういう舞台開演前の雰囲気が好きなのでつい、
のぞいてしまう。

やがてお客入れ。どんどんどんどん、次から次へとお客が入ってくる。
さすがに集客力が今回の劇団はどこも凄い。
やはり、芝居は満席の状況の中でやるのとガラガラの中でやるのとでは
まったく役者のテンションが違う。
審査員席も取れない状況で、調光ブースの中に入って見る。

で、『はちみつ』、80年代アイドルの物語。
4人の女の子のアイドルグループ“はちみつ(はつみ、ちなみ、
みなみ、つぐみの4人のユニット名)”。大手芸能プロダクションで
オーディションに勝ち抜き、いよいよ今日、1時間後にデビュー
公演開始、のはずが、メンバーの一人、はつみが突如行方不明に
なってしまう。“普通の男の子に戻りたい”という謎の書き置きを
残して……というストーリィ。

残った三人はなぜ彼女が失踪したか、書き置きの意味は何かを
推理しあうが、映画『羅生門』のように、記憶が微妙に食い違い、
一向にその謎は解けないが……という話。
やがてその謎はあっけなく解け、いろいろ心の行き違いはあっても
アイドルグループ“はちみつ”は無事、デビューを果たす……と、
ここまでで50分。あれれ、これはまあ、これでさすがに
うまくまとまってはいるがただのコントだな、と思ったら、
なんと、その後にこれまた凄い仕掛が。
「この物語のフルバージョン予告編!」
として、登場人物がやたら増えたロングバージョンのシーンが
ショットでどかどかと入りだす。やたら業界用語を使うマネージャー、
トウのたった少年アイドルの先輩、ライバルのブリっ子アイドル
などがぞくぞく登場。ここのテンションがズバ抜けて高い。
ひッくり返って笑ってしまった。

さて、例により本多劇場の小倉庫で審査委員会。
今回はちょっと意見が割れる。
ただ、劇団員はかなり私と同じ劇団を推してくれていた。
ああだこうだと悩んだ末、唐沢俊一賞は『湘南アクターズ』の
あの“予告編”に、最優秀演技賞は該当者なし、ただし
印象に残った人を各劇団から一人ずつ挙げて賞金を1/4づつ。
名前がわからないのでそれぞれ、
「テイクオフって言った人」
「独房の殺人犯」
「韓国人の女の子」
「ピンクのメガネ」
と。テイクオフというのは、バカな会社員の役で、合コンで
残ったおつまみを、“これ、テイクオフしてよ!”と言うセリフが
あったのだった。

最優秀演出賞は『江古田のガールズ』の山崎洋平氏。
最優秀脚本賞は『集団asif〜』の藤丸亮氏。
そして、最優秀賞は……

『集団asif〜』の『幸せの刻』。
発表した瞬間の、代表・藤丸氏のガッツポーズが印象に残る。
朝青竜だって、するよな、うれしければな。
ネガティブ・コメディという、まあ言ってみれば後味の悪い
芝居を敢てコンクールに出したその意気、課題である時計(時間)の
使い方、そして練られた脚本とインプロ(即興)の組み合わせ。
初日の一発目の公演というのも印象的に味方したかもしれない。
他と比べてでない、オリジナルのインパクトがとにかく強烈だった。
話の展開に粗っぽい部分はあるのだが、とはいえそれを補って
あまりある舞台だった。

『江古田のガールズ』は伏兵という感じで、『asif〜』の独走を
許さなかった。劇団員票はダントツでここが取っていた。
私も、ここの『乙女の祈り』に最も好印象を持った。
『幸せの刻』がネガティブ・コメディなら、『乙女の祈り』は
ポジティブ・トラジディである。好き嫌いが別れる構成であって、
そこで優勝に一歩及ばなかった感じがするが、劇場やテーマの使い方は
他を圧倒していた。考えている、ということである。
大胆に芝居のワクをこわしていく演出は素晴らしい。

『湘南アクターズ』はさすがプロの率いる劇団で安定している。
それだけにちょっと古いのでは、という印象を与えてしまったのが
残念だが、ラストでそれを吹き飛ばした。
このはっちゃけは貴重である。
大ざっぱに見えて実はかなり細かい演出の工夫があって、
楽しんで芝居を作っているという感じ。一番ルナに近い劇風のところ
ではないだろうか。

『HAGELpro』は前回優勝したチームと最優秀演出賞とった
チームと特別賞をとったチームの混成劇団で、それでいながら
バラバラにならずにひとつのユニットとしての芝居をまとめた
石動三六さんと秋葉由美子さんの演出力はさすがのものがある。
要ゆうじさんの脚本も、二人のコンビを中心に場を作っていく
というアイデアはこういう小さな舞台では基本となる作劇。
とはいえ、やはり、最初予定されていた演出家の降板などの
トラブルが最後まで後をひき、後任の演出は“まとめる”
ことでエネルギーを使い果たしてしまった、という印象。

終って恒例の集合写真。
そして『庄や』で打ち上げ。
例によってはっちゃける根岸ハルちゃんに、『asif〜』の若手の
木村圭吾くんが見事にからんで、周囲爆笑。
これで入場料がとれるんじゃないか? というくらい。
「打ち上げ賞をやる!」
と言って、感動のあまり二人に財布を出して120円、進呈。
二人、ハハーッ、と伏し頂く。
さらに圭吾くんはハッシーにもいいようにギャグのネタに
使われていた。

郷田さんにも挨拶、劇団の吉澤は声優・郷田ほづみの大ファンで
カチカチに上がっていた。
『asif〜』の藤丸さん、『江古田の』の山崎さんの年齢を聞いて
郷田さん“われわれ40代、50代もも少し頑張らないとねえ”と
ハッシーに言っていた。
藤丸さんとミヤッキ、何故かわさび食い対決。
菊ちゃんがまた、それをあおる。

珍しく、荒れることもなくさまで乱れることもなく(ちょいと乱れは、
したw)和気藹藹、実にいい打ち上げ。
この演劇祭は長く続けたいと思った。

しかし、来月は自分が観客である彼らに審査されるのである。
少し気分を引き締めねば。
5時半、店を出て、ハッシーとタクシー相乗りで帰宅。
郵便受けに届いていた雑誌を見たら、来月から女優対決になる模様。
負けられない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa