裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

日曜日

からバカ一代

“手抜き”タイトル。

※発掘大宝映画上映会 『カラーチャイルドコンパクト』公演

朝9時、起床。
朝食の用意を昨晩忘れたので、パスタを茹で、タラコスパにして
食べる。それとコーヒー。入浴。

このところ予定ギュウ詰まりでなかなか仕事進まず。
午前中にドタバタとすすめる。
K社、別のK社、L社、N社等に連絡もせねばならず。

結局何も進まぬまま出かける時間。
11時15分に家を出て、新橋に着いたのが30数分後。
予定の時間は12時半。1時間以上時間が余った。
地下鉄乗り継ぎがスムーズに行ったにしろ、こんなに近かったか、
新橋。

ちょっと駅構内のレトロな部分(構内に理髪店があったり)を
見学して、それからコリドー通り(コリドーとは回廊、の意味の
フランス語だそうな)を通ってTCC試写室。
幻の大宝映画上映会、本日は3回目にして最終回、中川順夫監督
牧真史主演『波止場で悪魔が笑う時』。1962年作品だが、
実はこの時点ですでに配給会社としての大宝は解散してしまって
おり、どういう形で公開されたのかは謎。

入り口でこの映画を発掘して今回の上映会にまで漕ぎ着けた
Sさんたちとちょっと雑談。次の上映のチラシもいただく。
登場人物が芹明香、東龍明の二人きりというドキュメントタッチ
映画(ナレーションは山城新伍!)の『札幌・横浜・名古屋・雄琴・
博多/トルコ渡り鳥』だそうである。

この映画が1975年公開。今度アンドナウの会が主催する
奇想天外シネマテークの上映作品『怪猫トルコ風呂』も1975年。
いや、『実録三億円事件/時効成立』も『資金源強奪』も
『東京ディープスロート夫人』も全部1975年。この年に何か
異変でもあったか、と思えるくらい。

で。『波止場で悪魔が笑う時 』上映。
主催者Sさんはこの作品の知名度、売りの弱さ(当初はキネ旬の
資料から中川信夫監督とされていたが、実際はテレビ『海底人8823』
などを撮った中川順夫。順夫はネットでは“のりお”と言う読みが
あるが、業界の人はみな“じゅんぷ”さんと呼んでいたとか。そう言えば
主役の牧真史も、日活ニューフェイス出身の牧真介と同一人物かどうか、
そうだ、イヤ違うの意見が錯綜してよくわからぬという。ホントに
謎の多い映画である)などで集客を気にしていたようだが、まずまずの
入り。

フィルムの保存状態が極めて悪く、一部分画面の片側にひどい
ノイズ状態の傷が入る。これではフィルムは上映可能でも、
テレビ放映、またはDVDなどにすることは不可能。
よって、もうほとんど、人の目に触れることはあるまいと判断して
ネタバレで書く。

ハードボイルドタッチの金属打楽器音の響くテーマ(音楽は伊福部昭の
弟子の奥村一)に乗って、横浜の港の夜を逃げる男。
彼は、まるで彼の逃げるルートを知っていたかのように待ち伏せして
いた男の、サイレンサーつきの拳銃で撃ち殺される。
それからしばらくして、外洋航路の船員である速水健次が帰国する。
殺されたのは彼の弟、信吉だった。しかも、その遺体から取り出された
ルガーの銃弾の線条痕が、以前麻薬組織の争いで殺された男の遺体
にあったものと同じだったため、信吉にも麻薬密売に関わっていた
という疑いがかけられていた。健次は弟の無実を晴らそうと、
弟の婚約者だった由紀と共に捜査を開始する……というのが
メインのストーリー。

フィルム・ノワール調の画面設定はなかなかムードがあるのだが、
主役の牧真史は特長があまりない顔で、しかも脚本(中沢信三、策明順)
が押さえ所を逃してばかりで、ルガーの線条痕も活かさないし、
最後の最後でに主役がなにも活躍しないというダメ展開で、
ダレることおびただしいが、脇のキャストが非常によろしい。
コロムビア・トップ、ライトが意味なく片目を眼帯にした眼鏡を
かけて(ご丁寧に左右が逆)チンピラ役で出てきたり(何故か二度目
のシーンでは眼帯がなくなる)、初期黒澤映画によく出ていた深見
泰三が怪しげな第三国人役だったり、ヴァンプ女優の泉京子が
案外いい演技していたり、男まさりのトップ屋の筑紫あけみが現代風
でコケティッシュだったり、弟の婚約者・由紀の丘野美子はどこかで
見たような顔だと思っていたらマイミクのnajaさんとソックリ
だったり、いろいろあるのだが、冒頭から出てくる、くわえタバコの
虚無的な殺し屋、サイレントのジミーを演じているのが、新東宝映画
でいつも気の弱い善人役を演じていた印象のある鮎川浩だったのに
驚く。

サイレントという通り名なのは、サイレンサー付きの拳銃をいつも
使うという他に、聾唖者という設定だからで、そのため親分の深見
泰三も、その情婦の泉京子も、彼の前では平気で秘密を話す。
……ところが、彼は実は聾唖でもなんでもなかった。
最後に深見泰三の陳峯徳を裏切った泉京子が殺されたのを見て、
ジミーは“金も欲しかったがこの女も欲しかった”とつぶやく。
親分の陳が驚いて
「ジミー、お前しゃべれるのか」
と言うと
「しゃべりたくねえから黙っていただけだ!」
とものすごいことを言い(椅子から転げ落ちそうになった)、親分を
殺して金を奪う。そこへ健次が警察と共に駆けつけ、ジミーは
波止場を逃げ回って荷揚げ用クレーンの突先まで逃げ、
「ジミーの最期を見せてやるぜ、一億円の葬式だ」
と叫んで、札びらを盛大にその上からばらまき、狂笑しながら
サイレンサーで頭を打ち抜く。なんと、タイトルの
『波止場で悪魔が笑うとき』の悪魔というのは鮎川浩だったのだ!

鮎川はたぶんまだ存命の筈で、その後帰ってきたウルトラマンなど
円谷作品、快傑ズバットのような東映ヒーローものにも出ているが、
たぶん最も役が大きく、最後まで目立って、しかもなかなかカッコ
いいというのは、この映画が唯一ではないか。
Sさんに鮎川浩がよかった、とだけ言って辞して、後でメールを
もらったが、Sさんも
「氏の代表作ではないか」
とおっしゃっていた。

時代を感じさせるツールは山ほどあったが、トップ屋の編集室に
貼ってある雑誌のポスターに“三原脩の決断”、さらに“義宮様の
意中の人”の文字。義宮様とは今の常陸宮様で、“火星ちゃん”の
あだ名で親しまれた今上天皇の弟君。当時、兄に次いでの結婚が
取りざたされていたが、この映画の制作の2年後に津軽家の娘、
華子と結婚。あと、コロムビア・トップが何かというと
「ノータンキュー」
というギャグをやっていた。流行らそうと思っていたのか。

出て、新宿まで地下鉄乗り継ぎで。その時点で2時半、
川崎競馬場で快楽亭が出店しているというフリマに足を運ぼうか
と思ったのだが4時まで、ということで時間が半チクなのでよし、
新宿アルタ裏のアカシアでオイル焼きとロールキャベツの昼食。
東京に受験で出てきたときに食った味、変わらず。

自宅に帰って一休み。ちょっと本を抱えてベッドに寝転がる。
すぐグー。昼寝としては二時間は長過ぎ。
起きだして出かける支度をし、また丸ノ内線に乗って赤坂見附。
赤坂GRAFFITIにてカラーチャイルド・コンパクト公演、
『ヒステリック・パンプキン・シアター』。ハロウィーン向け
公演であった。

おかおゆきさん、いつもルナ公演に来てくれている渡辺さん
などに挨拶。すぐに舞台に出る中村容子ちゃん、里中龍児くんも
店内で客案内をしていた。

芝居はハロウィーンの夜に人間をどれだけ驚かせるか、を
競うオバケたちのドラマと、死んだ両親から受けついだ本屋を
守っている女性の話。それに、その本屋さんの店員の老婆の
若い頃の恋物語がサブではさまる。いつものここの劇団の
特長通り、大道具もセットも全て自分たちの肉体で表現するという
荒技は変わらず、芝居が始まってから1時間半、ノンストップで
身体を動かし、しゃべり、走り回り、踊り回る舞台。
まるで生のアニメをみているよう。
一応、芝居者としてたいていの劇団の芝居の観劇では、
「うん、この芝居のこの役なら自分が演じられる」
「この役を自分がやるとするとどう演じるか」
などという目で見ることが多いのだが、ここの劇団に関しては
もう、一切どんな役も無理。ひたすら“すごいなー”と口を
アングリあけながら見るしかない。
座長の渡辺さんなど、はっきり言えば大デブなのだが、
よくまああれだけ動いて心臓マヒにならないものだ。
里中くんの変わらぬ若さにも感心。ふと、アイデアひとつ、
浮かんだ。

中村容子ちゃんの存在感にもちょっと感心。
何となくライザ・ミネリを思わせる。
実際、彼女のサリーで『キャバレー』を見てみたいと思う。
エムシー(映画ではジョエル・グレイが演じた)にはマメ山田なんか
どうだろう。

挨拶して写真撮ってもらって、丸ノ内線一本で帰り、
サントクで買い物。
原稿書きちょっとやって、11時夜食。
レタスと鴨肉のナベ風と、イワシの塩焼き(惣菜)。
イワシ、温め直して丸かじりすると美味。
黒ホッピーと日本酒。過ごさぬ程度。
1時就寝。

※里中くん、容子ちゃんと。視線が合わずチョイ失敗w

Copyright 2006 Shunichi Karasawa