裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

月曜日

憲法大苦情

右からも、左からも。

※体調大不良

朝5時ころ、ゲホゲホ開始。
ただし、咳はそれほどでなし。
胸が息苦しく、痛む。
これで睡眠時間をだいぶ削られる。
やはり、疲れがたまっているのだろう。

朝食は抜き。
12時までずっと寝ている。
空腹を感じないわけではないのだが、ものを食べるという
行為、消化という作業がおっくうという感じ。
今日は1時から5時半までという変則的稽古だが、
横森さんに遅れるとメール。

12時に母の室でバナナリンゴジュースのみもらい、
弁当の肉ジャガを貰って戻る。
とはいえ、まだ食べられない。

ベッドでずっと横になっている。
読書のみは進む。
黒岩比佐子『明治のお嬢様』(角川選書)読了。
現在よりも明治のセレブ階級のお嬢様は美貌が何より求められた、
というのが意外な指摘である。そう言えばベルツの日記にも、
始終何某夫人は美貌で有名、というような記述がある。

長谷川町子全集2で『エプロンおばさん』第二巻も読んでみる。
こないだ日記に書いたA2型のギャグもあったが、
『私は貝になりたい』の著作権侵害事件の話題などが
取り上げられている。香港風邪の流行は1968年だから、
『私は貝になりたい』(1957年に大ブーム)とはちょっと
年代があわない(と、いうか『エプロンおばさん』は1965
年までの連載であった)。調べて直してみると、同じA2型
でアジア風邪がこの時期、大流行している。私たちはそれから
10年後に流行った香港風邪のときにこの単行本を読んで、
“ホンコンA2型”というキャラクターを作り出したわけか。

ちなみに同じ作品の中で、探偵が松下清張(もちろん松本清張)
の後を尾行して、彼が三百二十円の菓子折りを買うのを見て
「(所得三千八百四十二万六千円のうちから三百二十円を引いて)
残高三千八百四十二万五千六百八十円か……うらやましいなア〜」
とつぶやくところがある。1957年の松本清張は『点と線』を
雑誌『旅』に連載中で、一大ブレイクした年であった。

シャンソン歌手・俳優の高英男、死去、90歳。
『枯葉』などシャンソン歌手として日本を代表する一人で、
『雪の降る街を』などのヒット曲も持つ人だったが、
何故か佐藤肇の『吸血鬼ゴケミドロ』、石井輝男の『恐怖奇形人間』
と日本を代表するカルト映画の二本に出演し、怪優として名を
残している。

化粧して(メイクではなく、目バリを入れたりする正当な化粧)
ステージにあがることでも知られ、美輪明宏とここらはいい
コンビであった。そう言えば『ゴケミドロ』の併映は美輪の
『黒蜥蜴』であったとか……
すごいな、観客にトラウマを与えようという悪意があるとしか思えない。

美輪の恋人は三島由紀夫だったが、対して高のそれは挿絵画家の
中原淳一であり、その関係は三島と美輪よりずっと深く、生涯に
わたるパートナーだった。中原は高の舞台衣装をデザインし、
歌うシャンソンをいくつも訳詩してやっていた。

中原が倒れてからは、高はずっとその看病を続け、一緒に館山に
蟄居した。中原の息子の洲一は、父と中原の関係を
「それは、ぼく自身にとってはひどく残酷なところがあったが、美しい
ものだった。限りなく美しかった、とぼくは断言する」
と語っている。

日本人離れした容貌と、狂気を含んだ眼。
『ゴケミドロ』での、吸血生物に身体を乗っ取られる殺し屋、
『奇形人間』での、半裸の女精神病患者たちを嬉々として鞭打つ看守など
グロテスクな映画にばかり好んで出演した(実際、これらの役を演じる
のはとても嬉しかったらしい)のは、同性愛という、精神的には
どこまでも純粋で美しくあるが、しかし第三者の眼から見れば(高が
同性愛者として生きた当時は殊に)グロテスクに映ってしまう世界に生きる
ものの、半ば自虐的な自己表現だったのかもしれない、と思う。

コサキンがネタにしていた『男と女』の
「♪ダ〜バ〜ダ、シャバダバダ、シャバダバダ……」
は昭和期にはオトナの愛のメロディの定番だったのだよ。
また、昭和を彩ったユニークな才能が一人、逝った。
黙祷。

咳は治まるが胸に穴でも空いたような感覚であり、心臓が
バクバクする。急激に動くと気管が一気にせばまったような
感じで、非常な呼吸困難を呈する。……もっとも、熱も無ければ
だるさもない。むしろ何か気分は高揚感を覚えている。

遅れるといったが今日一日と明日(明日も変則的な時間なので)
は様子見で休ませてもらう、と横森さんにメール。
明日はどうせ上野に紙芝居大会の方にいかねばならない。
まあ、これも体調次第だが。

昼過ぎて夕方になっても飯は食わないまま。
何となくおっくうというだけのことだが。
8時過ぎ、冷蔵庫の中をあさって、夕食作り。
湯豆腐とエビフライ。

ビール、マッコリサワーでこれを食べつつ、
DVDで『猿の惑星の秘密』。ロディ・マクドウォール、
チャールトン・ヘストンらによる裏話。
しかしよくわからないのは、なぜ第一作があれほどヒットしたにも
拘わらず、シリーズの回を重ねるたびに低予算になっていったのか
ということ。もっとも低予算になった分アイデアでカバーしたために
このシリーズは5作も続いたのかもしれない。大映末期のガメラシリーズ
にそういうところ、似ているかもしれない。
ノヴァ役のリンダ・ハリソンが、堂々と“(プロデューサーの)
リチャード・ザナックの愛人だったからこの役が貰えた”と言って
いるのにちょっと驚く。親父のダリルも自分の愛人のイリナ・デミック
を『史上最大の作戦』にレジスタンス闘士役で使っている。
古きよき映画黄金時代の名残か。

10時ころ、急激に眠くなった(気圧のせいもある)ので2時
ころまで眠る。起き出して、日記つけなど。咳の予防にトイレへ
何度も立ち、水分を身体から抜く。やっとここで空腹を感じ、
肉ジャガで少し飯を食う。4時、再び就寝。

*写真は、『吸血鬼ゴケミドロ』と中原淳一描く若き高英男。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa