裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

火曜日

饅頭腹背

肉まんが好きと言っておいて餡まんを食べているとは!

朝7時半起床。体調はいいらしい。シーツが新しいのになってさわやか、ということもある。入浴して母と朝食。ポテトのどろりとしたスープ、スイカ。青汁が切れたというのでシイタケ末入りトマトジュース。ワイドショーで自衛隊のイラク撤退がらみで現地の住民に自衛隊の評価を聞いていたが、絶賛というか大感謝というか、”もっといてほしいよ”の連続で、ちとキャスターたちも白け顔だった。批判(というより悪口)を聞きたかったのだろう。

原稿書き。まずヤフーサイト『健康と睡眠』のコーナー『眠りと雑学』。気がついたらこれ週刊連載であった。
http://yahoo.channelj.co.jp/healthcare/index.html
1時半に書き上げてメール。

弁当、イカの掻揚げの煮たの。原稿書き上げたあとで掻揚げを食う、というダジャレをメモしようとしてあまりにどうしようもないので落胆する。

それから講談社モウラ新連載『おれの手紙を読め!』第三回原稿。これも週刊連載。うわ、書き下ろしのために週刊誌連載を整理したつもりで、二つも始まってしまっている。まったく貧乏性というのは。
http://moura.jp/liter/toukouran/
二本連続執筆で案外時間かかり、『日本沈没』試写がこれで今日はいけなくなる。明日に延ばす旨、事務所のオノに通知。3時半、何とかアゲて事務所へ。メールやりとりいくつか。

5時15分、事務所を出て日比谷へ。と学会のS井さんの御好意で宝塚宙組の和央ようか、花總まり引退公演『NeverSayGoodbye』のチケットを(ロハで!)いただいたため。S井さんが仕事でいけなくなったためらしいが、それを他にのどから手が出るほど欲しい人もいるだろうに、私にくれたのは私がこの日記で和央ようかの『ファントム』のことを絶賛して書いたため。何でも書いておくものだ、としみじみ。席は最前列、しかもS井さんの奥さんが弁当まで買っておいてくれるという(観劇通のやることですな)厚意の重ねうち。

奥様のお母様に挨拶。母娘揃ってヅカマニア、プラチナチケットを取るためには徹夜で並んだり車の中で寝たりするという。聞くと、14年前に旦那様を亡くし、空虚感を感じていたところ友人に“何も考えないで楽しめるなら宝塚”と勧められて、それ以来大はまりしていて、娘も私が引き込んだんです、とのこと。うちの母にもこのような積極性があればいいのだが、とうらやましく思う。

で、今回の公演『NeverSayGoodbye』は、1936年のスペイン内戦を舞台にしたかなり重いもの。宝塚的な華やかさのきわめて少ない舞台で、しかも政治的なテーマである。こんなものをトップスターの引退公演にしていいのかな、と思うが、まあ和央ようかのように、完全ボーイッシュな女優には変にきらびやかなものよりこういう話の方が合っているかも、と考えたり。

腰の負傷で兵庫での公演はかなり苦しかったらしいがこの公演の初日にはスタンディング・オベーションがあったとか、引退後の予定は全く発表していないが千秋楽の後に発表するのではないかとか、いろいろS井妻さんからゴシップを仕入れる。

で、開始。最前列で観ると舞台全体を見渡すのにかなり疲れるというデメリットがあるが、そのかわり、歌に関しては、空気の振動がそのまま伝わってくるような感動がある。主題歌『ネバー・セイ・グッド・バイ』を熱唱したときには、その震えが肌で感じられ、ちょっと総毛立った。花總まりも、こんな演技ができるとは、と感心。これまで和央ようかしか見てなかったのは悪かった。

副主演格で闘牛士ヴィンセント・ロメロ役の大和悠河のことをお母様、“昔は歌の下手な子で、どうなるのかしらと思っていたんですけれど、上手くなりましたわ。やっぱり大きい役をもらうと成長しますわねえ”と。S井妻さんそれを聞いて
「でも、怒鳴りつけるみたいな歌い方は変わってないわ」
と一刀両断。闘牛士の衣装とメイクのせいもあるが
「マイケル・ジャクソンみたいでしたね」
と私が感想を述べたら大ウケ。

セットのさすがの豪華さ(サグラダ・ファミリアのセットなどすさまじい)や30人以上で歌い踊るダンスシーンの迫力なども十分に堪能した上で、ストーリィを宝塚の舞台でうんぬんしてもしょうがないのだが、『ベルばら』で市民蜂起を描いて当たったものだから、というわけでもないのだろうが、とにかく“市民が団結して権力者打倒のために立ち上がる”ということを無条件に称賛して、まるでお祭りみたいな高揚感で描いているあたりがやはり頭の片隅にはひっかかるところがある。悪の象徴みたいにフランコ将軍の名が繰り返されるが、もしここで人民軍が勝利して共和国政府が続いていたら、スペインは早晩、ソビエト支配下に置かれて、戦後何十年間も、東欧のような悲惨な状況になっていただろう。

さらに、フランコはこの内戦での国の疲弊を口実に、あれだけ共和国政府つぶしに世話になったヒトラーの誘いを断り、第二次大戦では中立を守りとおした。これらの点をふまえ、昨今のスペイン現代史研究ではフランコの政治手腕の再評価が主流になっていることとかを作・演出の小池修一郎氏はどう考えているのだろうか……なんて思いも、フィナーレの歌と踊りでもうかき消されるんだけどね(ラインダンスで地響きが席に伝わってきたのに驚いた。さすが最前列)。

S井夫妻にお礼を言って地下鉄で帰宅。サントクで買い物し、メール連絡いくつか。体がジトジトでカビが生えそう。シャワー浴びて、ギネスのドラフトで一息つく。お弁当でいただいたカツサンドを劇場で食べていたので原は減っておらず、生肉刺しと油揚炒めをつまみにギネスと黒ホッピー。油揚は細く切って焦げ目がつくくらいカリカリにフライパンで炒め、大根おろしを添える。いつもはポン酢をかけるのだがポン酢が切れていたので、ままよとイタリアン・ドレッシングを試みてみたら、これがうまい! 買ってきた油揚の半分を使って作ったのだが、もっと食べたくなり、残りも使ってしまった。

DVDでモンティ・パイソングループのエリック・アイドル、テリー・ジョーンズ、マイケル・ペイリンが出ている『ドゥ・ノット・アジャスト・ユア・セット(チャンネルはそのままで!)』を見る。モンティマニアには長年、噂のみ聞き知っていた幻の作品が見られるということで感涙ものだろう。子供番組なのにアイドルもジョーンズもすぐ脱ぐし、食料品店でわけのわからぬ応対をする店員役のペイリンはまったくあの“チーズ・ショップ”の店員そのものである。

共演も豪華で、ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンド(CDを持っているのだ)版の『モンスター・マッシュ』が聞けたのはもうけ物だったし、顔を見てやっと気がついたが、共演のデーヴィッド・ジェイソンはあの『フロスト警部』を演じている俳優ではないか!

Copyright 2006 Shunichi Karasawa