裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

月曜日

飼い犬に手を・あんげろぷろす

そりゃあれだけ可愛がっていたのにあんげろぷろされちゃ、怒るのも当然だよな。

朝9時起き。外はいい天気。だが何もする気が起きないのは鬱がこんがらかっちゃったからか? シャーロック・ホームズをもう一回読み返す必要が仕事の上であり、全然覚えていない『四つの署名』を読んでいる。大英帝国とその繁栄のバックにあったインド統治と搾取がこの話のバックボーンにあって、これでは初読の中学生のときにきちんと理解できるわけもない。

メールチェック、jyamaさんが名古屋出張だというのでゆめすけさんのお店を推薦しておく。久しぶりに母の室で朝食、ただし入浴が遅れたので9時45分にしてもらい、スイカ二切れとゴールデンキウイ一個を食べる。あと、牛乳が切れたので粉ミルクを入れた紅茶を飲むが、これが実になんともイギリスの味のイメージ。昔、ヒースロー空港のティーラウンジで飲んだ紅茶にクリープがついていて、それがまた日本で飲む紅茶とはまったく味が違ってうまく、印象的だったのである。

10時半に家を出て、代官山エド・エド。二ヶ月ぶりにすがわら先生に髪をやってもらう。サービスということで女の子が爪を磨いてくれる。まるでセレブになったみたいで、ちょっといい気分。この店、こないだまではスターウォーズ一色だったのに今はペットの小太郎(チワワ)までサムライブルーの衣装を着てWカップ一色。まあ、一般人はそういうものだろう。気がついたが撮影用の服に着替えたのでポケットに入れておいた携帯電話を忘れてきてしまった。

そのまま渋谷の仕事場に入り、弁当使ってゲラチェックなど。熊倉一雄さんに先日の舞台のお礼状を書く。2時、NHK迎えに来て、NHKのFさん(女性)と共に車で砧の円谷プロまで。途中、祖師ケ谷大蔵でカメラマンさんと落ち合って。今日は『こだわり人物伝』テキスト用の写真撮影。身一つ持っていけばいいだけなので気が楽。ただし発売が9月なので、それに合わせて長袖の秋っぽい格好をしてきたのだが、そんなもの着ていると汗びっしょりになるくらい暑い。夏が一飛びに来たようである。

円谷プロダクションの新社屋を見せてもらう。かの有名な(『ウルトラファイト』などにも出てきた)怪獣倉庫は取り壊されてしまったが、その後に作った新倉庫は、前の怪獣倉庫の柱や壁を使って、できるだけ旧倉庫の状況を再現させているという。柱にそれぞれ撮影用衣装の分類が書いてあり、『将官用』『特攻隊飛行服』などという他に『軍用支那服』などと、NHKでは絶対写真に撮れないものもあり、カメラマンさんうれしそうに笑っていた。

とはいえ、怪獣のぬいぐるみがないとやはり写真には使えない。ぬいぐるみは稲城の方の作業場にあるという。最初Fさんも私も“稲毛”聞き違え、そりゃ遠いなと思っていたのだが、稲城とわかって、じゃ行ける、ということになり、円谷プロの製作部のチーフのK氏が、自分の車で先導してくれるという。実は車中でもSさんと円谷プロの版権料などのシビアさ(『特撮夜話』の企画を立てたくてもできないのは、アニメ会社とは段違いのその映像版権料にあるという)について話していたのだが、プロダクション内での社員の皆さんの親切さは、出版社やテレビ局などの比ではなし。営業部長とかいう肩書きの人が、写真撮影で近くに置いてある防火用具などの雑物を片づける手伝いをひょいひょいしてくれてかえって恐縮する。その、防火用具の製品名が『ファイアマンA(エース)』だった。いかにも円谷プロらしい防火用具。

門前のウルトラマンとミラーマンの像の前で写真撮影。新社屋の円谷プロの社章(科特隊のマーク)の下での撮影のとき、思わずスペシウム光線のポーズをとったらみんな大喜び。これはしかし、やらずにはおけない。

そこから稲城市へ移動。案外地上路が込み合う。本番の収録では満田監督、梶田興治監督などとの対談を予定しているという。梶田監督にインタビュー申し込みをしたのだが、軽々しくは話せない、円谷さんの話をするとどうしても本多監督の話もせざるを得ず、そうなるときみ夫人の承諾を得なければ、とおっしゃっているという。ここらへん、軍人として尉官にまで上った人の思考らしくていい。

「とはいえ、なんで9月放映(7月末収録)の番組のテキストを先に作ってしまうんですか」
と訊くとSさん
「NHKの人事異動が7月なもので、番組から最初に録ると、途中でディレクターがいなくなっちゃう可能性があるんですよ」
と。人事の事情とは思わなかった。

稲城の倉庫に到着。ずらりと吊る下がったぬいぐるみ群、アトラク用とはいえ感動。バルタン星人、ゴドラ星人、ゴモラ、ガラモン、グドン、ジャミラ、ベムラー、ザラブ星人などの人気怪獣はいいが、ヤメタランスとかキュラソ星人などという、ややマイナーなものまでアトラク用があるのに驚いた。カメラマンのK氏も私と同い年で、ウルトラQを初めて見たときの驚愕についてなどで話がはずむ。

バルタン星人のはさみを両手に装着して写真撮影。メトロン星人の頭(重い!)と、初代ウルトラマンのスーツを持って、それぞれ写真撮影。NHKのテキスト用の写真とは思えないような写真が撮れる。使用するのは二点くらいだろうから、残りをプライベート用に送ってもらうよう依頼。

帰りは高速に乗ってあっと言う間に渋谷に到着。仕事場に戻る。佳声本原稿テープ起こしチェックと、同人誌用原稿を平行して作業。講談社モウラのゲラチェック、校正さんが厳しいこと厳しいこと。

電話あり、幻冬舎ヌカダくん。先日の『和の○寅』で営業スタッフに会った件で、私が日記に書いたので当人たちがビビって相談に来たという。笑って、別に気にしないでいいと伝えておく。単行本の(もう三年越しくらいの)企画の話になったので、晩飯を誘って、食べながら打ち合わせをしようと提案。

仕事続けて9時、仕事場を出て公会堂前でヌカダくんとMさん待ち合わせ『宇の里』で酒とメシ。冬に出す評論本につき、こういう内容で、と話す。話すことでまとまってくるのはいつも通り。同じ幻冬舎のトテカワYのときもそうだが、毎回の説明ばなしをレコーダーで録っておきたい。それを元に次の原稿をまとめる、というのはどうだろう。

仕事の話から人付き合いの話などいろいろと。はげまされ、今後のモノカキとしてのあり方につき前向きなサジェスチョンもいろいろもらい、力が沸いてきた。10時半ラストオーダーで、店とタクシーおごってもらい(たまたま家の方角が三人とも同じなのである)帰宅。ネット見ていたら12時を回る。半身浴、届いた『幽』を読みながら(猫三味線DVDの記事はあるがデータが載ってないのは大きなミス)、1時間ほど湯につかり、足のむくみをとる。K子帰ってきたので旅行のことなど話しながらまたベッドでシャーロック・ホームズ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa