裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

月曜日

江夏の顔の男だぜ

 せめて張本なら。早く寝たので3時ころ目が覚める。ちとミクシィなど書いて、また寝る。組織を裏切った男の手引きをした私が、なにげない顔でその組織に行くと、裏切った男がツラリとした顔でいて、あせりまくるというディープな夢。

 8時朝食。バナナとミカン、ポタ。家で某社の原稿ナオシやってメール。だいぶ前に原稿出したのだが、その後で仕様が変更になったと連絡あったもの。どう手を入れようかと迷ったあげく、エエイと前半部分2/3を全部書き直す。こっちの方が早い だろうと踏んだもの。前よりいい出来になったように思う。

 10時半、家を出、コンビニで買い物。アキちゃん、ではないJちゃんは今日で退職。文庫本にサインしてプレゼント。地下鉄で通勤。電話、メールいろいろ。腹具合 ややおかしい。風邪がぶり返したか?

 書きおろし原稿。昼を無理に食べるがこれがよくなかったか、体調が極端に不安定になる。部屋を無闇にウロウロと動物園のクマみたいに歩き回り、まとまらぬ考えをまとめようとする。TBSから電話、打ち合わせ日取り。スケジュールマネージメントやってくれる人がほしい、とミク日記に書いたら、知り合いでうわの空のパソコン回りの仕事をやってくれているTさんの相方の女性から、お手伝いしてもいいですとの有難いお申し出。一度会って細かいところ詰めましょうと返事を。北海道出身でミクシィネームが六花さんなので、
「六花亭(函館の有名なケーキ屋)の六花ですか」
 と訊いたら、
「雪、という意味の六花です」
 と。オレはロマンチックじゃないなあ、と落ち込む。

 仕事進まず、イライラつのる。書きかけた書評用原稿も途中放棄。こればかりは放棄できぬFRIDAYコラム、かっきり30分で書き上げる。某社Kさんより土曜日の『世界一受けたい授業』のマル秘データいただく。一瞬だが視聴率、20パ行った模様。しかも、やはり私の出演時に視聴率上がっているようでめでたし。もちろん、これは私が他の講師陣より人気がある、ということを意味するのではない。あの特番はいつもより1時間、時間を繰り上げての拡大版だった。それをウッカリ忘れて、いつもの時間、つまり8時ジャストくらいにチャンネルを合わせた視聴者が多かったであろう。ちょうどその時分に、3時間目の私の授業が始まったんである。要は運に過ぎない。しかしまあ、運がいい、ということはこれでなかなか嬉しいことではある。

 イライラなお続く。朝送った某社から、“書き直してスッキリしましたね”などというメールが来てちょっとムカつく。他にもいろいろムカつくことあり。それがそのムカつきを面とむかって言えない相手だけになお、ムカつく。こっちをお人好しにするのもいいかげんにしろ、と思ったり。

 8時新宿。紀伊國屋の落語コーナーをのぞくが、いや落語のCDの数の多さに呆れる。ブームなのか。母と待ち合わせ、紀伊國屋脇の『鳥源』。K子も来て、三人で食 事。隣の席の一巻きの会話、やたら声が大きく、聞いてみると
「玉英堂(神保町で有名な古典籍店)さんがさ……」
 てな話。思わず聞き耳。神田の和漢籍商の若旦那たちの会合らしい。
「古書センターの即売会だって、和書の会のときはガラガラだろ」
「どうやって若い人を和漢籍の世界に呼び込むか、だよ」
「それはもう無理な話だよ」
「そう言ってちゃそもそもこの集まり自体無意味だろ」
「じゃ、その具体的な方法を言ってみなさいよ」
「だから、何かキャッチーなものを呈示するんだよ」
「あるわけないだろ、今の若いのと和書なんか接点ないよ」
「そういう考え方自体がダメなんだよ」
「考えじゃないよ、現実でしょ。そもそもさ……」
「まてまて、オレにも言わせてよ」
 と、声高な論議。確かに和漢籍の世界にこれから若者を呼び込もうというのは無理きわまる話かもしれないが、そもそも、そんなアイデアがこんな酒の席で話し合って ひょいと出るものでもなかろう。要はこの人たちは議論が楽しいのだ。

 古書店の若旦那というのもこれでかなり特殊な存在で、若さというものが“負”の要素としかとらえられず、つきあう相手が爺さんばかり、いつの間にか一般の若者から見れば同じ世代の人とは思えぬぐらい老けたイメージになってしまい、そのくせ業 界内では無責任な団塊の世代あたりから
「若いんだからこの世界の慣習に縛られず新しい風を入れろ」
 と発破をかけられ、しかし、じゃあとハネ上がったことをやろうとすると
「業界をなんだと思っているのか」
 と年寄りどもに頭を押さえられ、かと言って子供の頃から古書籍に囲まれて育ってしまうと、その世界を飛び出していく覇気なども失われ、中途半端な中年にそのままダラダラ移行していくしかない、といういささか哀れな存在である。まして、和漢籍商となると、その古書業界の中でもさらに古く狭く特殊な世界。母が彼らの大声での言い争いを聞いて
「青臭いわねえ、みんな」
 と言っていたが、まあこういうところで発散するしかないのだろう。メローコヅルの水割り飲みつつ、鳥わさ、串焼き、ウズラ姿焼き。母にウズラはどうかと思ったがおいしいと骨まで囓って、ケヅメだけ残してぺろりと平らげた。歯が丈夫であることが若さの秘訣。潮健児も小野栄一も、入れ歯が合わなかったということが晩年(小野伯父はまだ生きてるが)、仕事を失った原因だったと思う。あと、水炊き。帰宅して メールチェック、読書して12時過ぎ就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa