裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

月曜日

アニカラ何まで真っ暗闇よ

 アニソンばかり歌っているから人生暗いんだよ!(世間の声)。朝3時起き、メールなど数件して5時に再度寝る。7時再起床、入浴、半に朝食。エダマメとトマト。昨日と打って変わる快晴。しかも暑そう。並んだ人には気の毒だったが(啓乕くんなど“危ないので傘をささないでください”と言われて全身ずぶ濡れになってやってき た)、私たち出店者にとっては昨日の雨は恵みであったな。

 15分のバス、停留所に行ったときにはすでに出た後だったが、走っていったら止めて乗せてくれた。盆で乗客があまりいないので、途中で時間調整のためかなり長く 止まる。仕事場に到着、原稿書き。

 破裂の人形さんからメール。昨日うわの空の芝居に行ったのだが、お気に入りの島さんが神田淡路役で出番が少なく、不満だった模様。“金はいくらでも払うからもっと島さんを見せてくれ〜”と、一昔前のドラマの汚い大人みたいな台詞を吐く。返信で“私は今日行きますが、じゃあまたご一緒しますか?”と言うと、“招待券いただけるなら”との返事。金はいくらでも払うんじゃないのか、と笑いながら、島さんか らいただいた招待券が余っているので差し上げますと返信。

 昼は今日は母の握ってくれたオムスビ一ヶのみ。途中で母から電話で、間違って塩ジャケじゃなく、生ジャケの焼いたのを入れてしまったから醤油をつけて食べるように、との指示。そのようにして食べる。なかなか雰囲気が変わっておいしい。原稿が煮詰まっているときというのは食欲が減じるので、ダイエットにはもってこいかもし れない。もっとも、だからと言って煮詰まりたくないが。

 2時55分、恵比寿ガーデンプレイス内ガーデンシネマで、村崎百郎さん、アスペクトK田さんK瀬さんとマイケル・ムーア『華氏911』観る。すでにこの時点で、席が空いているのは夜の8時以降の回のみという人気。内容についての感想は『社会派くんがゆく!』サイトにアップしたのでそこを参照のこと。場所がらカップル客が多かったが、驚いたのは終わってロビーに出たら、そこで抱き合ってベタベタとキスしている男女がいたこと。こういう二人にとっては観る映画が『華氏911』だろう と『世界の中心で愛を叫ぶ』だろうとカンケイないのであろう。
http://www.shakaihakun.com/data/

 タクシーで帰宅、原稿読み返して、どう考えても煮詰まった内容なので今日はダメと放擲。東急ハンズに飛んでいって、花を買い芝居を観にいく……と書くとずいぶんシャレている。うわの空に送った花籠が、さすがに一ヶ月の長期公演でかなりみじめな様子になってきているので、取り替えようと思ったのである。地下鉄新宿御苑からサンモールスタジオ、以前の花に添えた札を新しい方に差し替え。もっとも、今度のはかなりの安物なので、札の大きさとアンバランスではあるが。破裂の人形氏と受付 で待ち合わせ。

 今日、破裂氏も誘って来たのは原稿からの逃避ももちろんあるが、お盆で予約状況がかなり悲惨、と聞いていたので、ちょっとでも客席のにぎやかしになれば、と思ってのことだったが、これが案外入ってくれる。30人を越したときには心の中でバンザイを叫んだ。破裂氏によれば昨日は満席の状況で、ビッグ・ウェーブくるか、という気になったそうだ。楽屋にちょっとお邪魔して、年末に企画している某件のことで座長とツチダマさんと少し話す。村木座長が張り切ってくれているのがいい。

 一ヶ月の長期公演、今日はその中日、つまり折り返し点。破裂氏は島さんが雑誌記者役でほぼ出ずっぱりなので満足した模様だが、やはりちょっと役者さんたちに疲れが見えてきたかな、という感じで、セリフの噛みや言いよどみがやや、目立つ。……だが、そういう中で圧倒される演技と存在感を見せたのが高橋奈緒美。今回奈緒美さんは下座の小春と席亭の二役だが、小春ねえさんがいつもながらのまとめ役なのに対し、今日の席亭役は、落語にも寄席にも思い入れのない跡継ぎで、そのくせ目立ちた がりというひっかき回しのキャラクターである。
「今日はお客さんいっぱい来てるわねえ! ……どうする? 返す?」
 という態度のデカいボケが素晴らしい。朗々と楽屋で歌い上げるシーンの、第三者の存在を全く無視するあたりの貫禄が、うわの空一座の最古参女優としての存在感とハジケっぷり(それも計算された演技のハジケっぷり)を見せつけられて、オソレイリマシタと頭を下げたい気分になった。ここしばらく、尾針恵や小栗由加といった若手に自由に暴れさせておいて自分はまとめ役に回ることが多かった奈緒美さんで、前回の紀伊國屋公演のときの感想にもその(ちょっとした)不満をこの日記に書きつけ ておいたが、その渇が癒された爽快感である。

 あと、宮垣雄樹の馬鹿演技がだんだん癖になってくる。空耳ファンファーレ(これがどういうものかは劇場でごらんください)に悶える様子や、小春ねえさんのドスの利いたセリフに失神するところなど、“馬鹿の色気”みたいなものを感じる。変な表現だが、これしか言いようがない。座長、今日も三役で大張り切り、なんと昨日メダルを獲得した北島康介ネタを、小道具まで用意してかける。もちろん、場内わきかえ らんばかりのウケ。

 終わって、島さんに“これからまた和民です”と誘われた。楽屋にアリとキリギリスの石井さんも見えていて、毎度のことながらファンが濃いなあ、ここと感心。和民では島さんと、朗読ライブのことをちょっと具体的に話す。今はこの企画を練るのが何より楽しい。……で、今日は小栗由加が、中日過ぎて少し疲れがたまっている(座長・談)とのことで参加しなかったので、これを幸いと(変な幸いだが、本人前にし てはなかなか照れて言えない)、島さんに
「おぐりちゃんをもっと売り出しましょうよ、いや、あれだけの子、売らないでただ劇団で抱えているのは罪ですよ。ウン、犯罪である」
 と、そう酔ってもいない筈なのに熱をこめて語ってしまう。座長に語るならまだ意味もあるが、島さんに語ったって困るだけだろうけれど、言わずにおられなかったと いうのがホンネである。前に牧沙織に同じことを言って叱られたことがある。
「おぐりは今のままでおぐりなのです。余人の手によってどうにかなるものではありません」
 と。そのときには凄まじく納得してしまったのだが、イヤシカシ、となおも元プロダクション社長というのは引き下がらない。ああいう素材を見ると血がうずかないではいられないのである。一方で破裂さんは隣の席で、奈緒美さん相手に“もっとうわの空は売り出すべきで……”というようなことを熱を込めて語っている。トイメンの席にはみずしなさんの関係の出版社の人たちとかが来ていたが、何やら看板女優二人つかまえてやたら熱く語っているおじさん二人を見て、なんだこいつらは、と呆れて いたかもしれない。

 うわの空、まだまだ発展途上の劇団である。いろいろ欠点もあるし、あまりにベクトルがいろんな方向にむいているが故の混乱も、その舞台には確かにある。しかし、私の持論でもある“欠点があるからこそ、いったん思い入れをかけると、その穴の部分に自分の意識が入り込み、一体化してしまう”という法則で、癖になり、後をひくのである。“うわの空症候群”と呼べるかもしれない。ぜひ、アナタもこの劇団の芝居を見て、同じ病にかかりたまえ。そして同病相憐れみながら、熱く語ろうではないか。語りたくないと言ってもムリに語らせてみせる。すでにおわかりとは思うが、諸君の愛する妻と娘と猫とミドリガメとダルマインコとエンゼルフィッシュは私の手の中にある。エサ代だけでも大変なのだ。すでに公演は半分、終わってしまった。オリンピックなどどうでもいいから、早く観に来るがよろしい。さもないと……。
http://www.uwanosora.com/

 終わって帰宅、途中まで破裂氏と、まだタクシーの中でえんえん話し続ける。破裂 氏陶然として曰く
「贔屓を持つことの魔力ってわかりますねえ」
 と。うわの空に限らず、モノを褒めるというのは対象のためではない。贔屓を褒めたてるという、自分の独善的快感のためなのである。喜ばせてもらっているのはこっ ちなのだ。こういうハマれる劇団を見つけた幸運に謙虚に感謝せずば。

 

Copyright 2006 Shunichi Karasawa