裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

水曜日

高等ムーミン

 いいよな、妖精は働かないでのらくらして。朝4時に目が覚めてしまい、パソコンでメールなどチェックしたら、『社会派くんがゆく!』の今月の対談のテープ起こしが届いていたので、しばらくこれのチェック入れの作業に没頭。6時にもう一度ベッドに入り、7時に再度起きて入浴、30分に朝食。タマネギサラダに生ハム。酒のつまみみたいだが、丸谷才一が“朝飯に出るものはたいてい酒のつまみに向く”とか書いているところから言うと、逆も真か? K子が買ってきた二十世紀梨、“人に剥か せてなるものか”という感じで、自分で剥いて持ってくる。

 8時19分のバスに飛び乗り、出勤。今日も体調は芳しくない。どうにかせねばならんと真剣に悩む。しかし、5〜6年前に、本当にひと夏、固形物がほとんど口に出きないほどのひどい夏バテになったことがあり(あまり体重が減らなかったのが不思議だったが)、それでも平気だったという経験があるので、楽観視はしている。

 明日から夏公演本番のうわの空一座に花を贈る算段などする。ネットチェックしていたら、渡辺文雄死去の報が流れていた。ショックであった。が、意外ではない。最近の『遠くへ行きたい』(6月6日の放送が最後になった)での老け方を見て、何か病気なのではないか、と思っていたのだ。この番組に限らず、旅番組、グルメ番組のレポーターとして知られた人であったが、映画ファンとしては、知性派悪役の最高峰として数々の銀幕作品を彩った名キャラクター・アクターであった。東大から電通勤務を経て俳優へ、という(最初の映画出演は電通社員としてのスポンサーの松竹への出向扱い、であったそうな。ここらへん、同じく東大〜アサヒビールの宣伝部員からの転職組の三國一朗氏と同様である)経歴だからというわけではないが、やはり悪役を演じても、新しい時代の、頭で悪事を働くタイプが多いのである。もっとも、この人の名前と顔を初めて一致させて認識したのは(ウルトラQのカネゴンの回のヒゲオヤジはつけヒゲで素顔がわからなかった)悪役ではなく、テレビ『バンパイヤ』での手塚治虫担当の編集者役だったと思う。原作には手塚治虫本人が出てきて狂言回しとなり、テレビでも本人が本人役で登場するのだが、まさかに手塚治虫を役者にするわけにはいかず“先生は原稿を書いていてください!”と言って、渡辺文雄の編集者・森村が事件に顔をつっこむのである。渡辺文雄と言えば、大島渚と松竹を退社、『創造社』を作った同志だが、この『バンパイヤ』には他にも戸浦六宏、佐藤博など、創造社がらみの人たちが多く出演して怪演しており、比較的まともな役のこの人のことはあまり印象に残らないでいた。

 そんな彼を、いっぺんで個性派俳優として記憶したのがウルトラセブン『円盤が来た』(実相寺昭雄監督)の、板金屋の源さん役。最初は円盤を見た、と騒ぐ天文マニアのフクシン青年(冷泉公裕)をいじめ抜くが、自分も円盤を目撃してからは意気投合、真面目に扱ってくれないウルトラ警備隊へのグチを、フクシンくんと酔っぱらって肩を組みながらわめき散らし、寿司屋の親父(ミッキー安川!)に“どういう風の吹き回しだい?”と呆れられ、最後にフクシンくんの報告で地球攻撃計画が未然に防がれ、彼がウルトラ警備隊から表彰状を貰うほどのスターになると、周囲の群衆に混じって、“いやー、いい青年だよ、俺ア前から大好きなんだ”と、東京っ子独特の軽薄な善人ぶりを発揮。ここらへんの役作りはうまいなあ、と思っていたら、この人、本当に神田の生まれで、町の鉄工場のせがれだったとか。地でいけたわけですね。

 映画の方での役は気に入ったのが多すぎてひとつと特定できないが、敢えて選べばやはり大島渚『絞死刑』の教育部長だろう。絞死刑から生き返り、自らの犯罪を否定する在日朝鮮人・Rに対し、必死に“なあ、Rくん、そんな強情を言わずに罪を認めて死んでくれよ、私の立場も考えてくれないと。私たちはこれまで、とてもいい関係でいたじゃあないか”と説得する、気の弱い初老の公務員の滑稽さを徹底して戯画化して演じていた。その他の作品は『女囚さそり』での、梶芽衣子を犯そうとして片目にガラスのデカい破片を突き立てられ、それを突き立てたままの姿で、部下に“何をしている! 追えーッ”と命令するエキセントリックな刑務所長、『日本の首領』での、にしきのあきらに目をつけるホモの銀行頭取、『徳川セックス禁止令』の転びバテレンの悪徳商人というなんだかよくわからない役など、この時代の映画を見まくっていたものにとっては、完全なカルト男優であった。彼がこういう役を演じるのをやめて、旅番組、グルメ番組のキャスターになったのは、まあ映画そのものが斜陽産業になっていった、ということもあるが、悪役ばかり演じて娘たちが学校でいじめられたからだという話を以前にどこかで読んだ。娘のことを想う父の情愛はまことに美しいが、しかし、日本映画界は実に惜しい怪優をそれで失ったわけである。

 4時にNHK会議室にて『アニメ夜話』打ち合わせ……ということだったがメールが直前に来て、4時半に変更とのこと。着替えたまま寝転がってカストリ雑誌など読む。半、NHK西門。製作会社のYさん迎えてくれて、11階の会議室へ。岡田さんは別の番組(BS)の撮りが終わってエレベーターに飛び込んできたが、“あ、メイク落としてなかった!”と、またスタジオ控室へ戻る。予定作品と出演者のリストを渡される。まだ未定の出演者などあるが、私の回はほぼ決定。第一期は二回出演。池田憲章氏と交互出演で、その本放送(封切り時)の時代との結びつきを語る担当になるようだ。岡田さん“ゲストに○○○○は頼めないの?”“いやあ、本人はこの作品好きなんで出たがっているんですけど、その時期オリンピックに行ってるんですよ” などと豪勢な会話。

 帰宅、待っていたかのように電話、テレビ朝日から。例のエチオピア国歌のことでボーイスカウトソングとの関連を話し、“クイカイマニマニ”“サラスポンダ”等の歌を例として挙げたが、他にもまだ“変わった言語による”キャンプソングがあるかどうか、教えてほしいという。それくらい自分で調べろよと思ったが、しかしこっちも興味のあるテーマなので、ちょっと検索してやる。すると、ネットで歌詞を拾える ものだけでもかなりのものがあることがわかる。
・ユポイ
♪オーユポーイヤイヤイエーンヤ
 オーユポーイヤイヤイエーンヤ
 オーユポーイヤイヤイ
 ユポーイチュキチュキ ユポーイチュキチュキエーンヤ

・ヤヤ ヨーヨーユピ
♪ヤヤ ヨーヨーユピユピヤー
 ヤヤ ヨーヨーユピユピヤー
 ヤヤ ヨーヨーユピ
 ヨーヨーユピユピ ヨーヨーユピユピヤー

・アチャパチャノチャ(ラップランド語?)
♪アチャパチャノチャ アチャパチャノチャ
 エベスサデベスサドラマサデ
 アチャパチャノチャ アチャパチャノチャ
 エベスサデベスサドラマサデ
 セタベラケイセアバチャ セタベラケイセアバチャ
 アチャパチャノチャ アチャパチャノチャ
 エベスサデベスサドラマサデ

・チェッチェッコレ(ガーナ語?)
♪チェッ チェッ コ レ
 チェッ チェッ コ レ
 チェッ コ リ サ
 チェッ コ リ サ
 リ サン サ マン ガン
 リ サン サ マン ガン
 サン サ マン ガン
 サン サ マン ガン
 ホン マン チェ チェ
 ホン マン チェ チェ

・ホキトキウンパ(ノルウェー語?)
♪ホキトキ ウンパ ホキトキ ウンパ ヘイデル ハイデル ホウデル ヘイ
 ホキトキ ウンパ ホキトキ ウンパ ヘイデル ハイデル ホウデル ヘイ
 ヘ〜〜イ トケラララ シュワ〜〜キ〜〜
 ヘ〜〜イ トケラララ シュワ〜〜キ〜〜
 ヘ〜〜イ トケラララ シュワ〜〜キ〜〜
 ホキトキ ウンパ ホキトキ ウンパ ヘイデル ハイデル ホウデル ヘイ
 ホキトキ ウンパ ホキトキ ウンパ ヘイデル ハイデル ホウデル ヘイ

・アイアミジョロロ(アフリカ)
♪アイアミ ジョロロ ジョベミ ジョロロ
 アイアミ ジョロロ ジョベミ ジョロロ
 ジョベ ジョベ ジョベ ジョベ
 ジョベミ ジョロロ ウーン
 ジョベ ジョベ ジョベ ジョベ
 ジョベミ ジョロロ

・ヒラミル パニア(インド)
♪ヒラミルパニア ジョリナナディーア
 ヒラミルパニア ジョリナナディーア
 ジョリナナディーア ジョリナナディーア
 ヒラミルパニア ジョリナナディーア
 アングラナチェ バングラナチェ
 ナチェエブテルカーナ ウペルシトメンプカリ
 ラウババルチカーナ

 ……最後の『ヒラミル パニア』は森山加代子の『ジンジロゲ』の後半部分に使われてますね、と電話で言うが、当然の如く通ぜず。知ってたってどういうものでもないことではあるが、張り合いというものがない。それでも“二酸化マンガン(リサンサマンガン)”は知っていたみたいである。

 これで時間だいぶとられ、タクシーで帰宅。ラジオで韓国の廬大統領来日に関し、小泉首相がウリ党の千正培(チョン・チョンベ)幹部と会談したとのニュース。この人の名前を最近ニュースでよく聞くが、聞くたびにへらちょんぺを思い出す。何をしているかなあ。

 8時、家にて食事会。藤井ひまわりくん、春風亭昇輔、モモちゃんという変則的なメンバー。全員が初対面。しかし、いきなり藤井くんと昇輔が渡辺文雄の代表作は何か、というあたりの件で盛り上がり、また、こないだアニドウの上映会で買った『政岡憲三作品集 くもとちゅうりっぷ』のDVDをかけると、全員“おお”と声を上げて画面に見入る。『桜(春の幻想)』の完成度に仰天し、『茶釜音頭』のナンセンス にみな拍手。いやにマニアックな一夕となった。

 食事は鰻パン巻き、胡瓜とアブラゲのゴマ和え、ロールキャベツなど。オタ話をしながら酒をガブガブやっていたらベロベロになってしまい、途中でダウン。昇輔たちを置いて自分の寝室に下がり、ベッドに倒れ込む。体調悪いときにはしゃぐとダメ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa