裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

土曜日

悪魔の速読モンスター

 工場廃液に落っこちてから、本を読むのがやたら速くなりました。朝、4時前に目が覚めてしまい、いろいろ枕元の本を読み散らかすうちに再就寝しそこねて、寝不足のまま7時半起床。朝食、ハツカダイコンとタモギタケのスープ。朝刊にジョニー・キャッシュ死去の報。あのボブ・ディランをも小僧扱いしたという超大物歌手なのだが、日本での知名度はどれくらいなのか。産経は読売の倍の行数で業績を伝えていたが、読売はちゃんと“『刑事コロンボ』にも出演”と書いているのがエライ。彼の演じた犯人は、『別れのワイン』のドナルド・プレザンスと並ぶ、“被害者より可哀想な加害者”の代表格だった。……ところでネットで調べたら、この人、なんと日本映画に出ているのであった。『海嶺』という、日本聖書協会協力の文芸映画(西郷輝彦主演)である。1983年公開。バブル前期の景気のよかった日本映画界を象徴して いるなあ。

 訃報がらみで、一件訂正を。一昨日の日記で、エドワード・テラー博士の息子の名を“アストロ”と書いたが、あれは孫の間違い。で、アストロ・テラーのアメリカのバイオグラフィサイトを読んだら、そのアストロという名はアストロノーツなどとは関係なく、サッカー少年であった子供時代に、髪を短髪に刈り上げていたのが人工芝(アストロターフ)に似ていたのでチームメイトから呼ばれていたあだ名を、自分の名にしてしまった(両親がつけた名前はエリック)のだという。野球少年でアストロ ならアストロ球団か、とも茶々を入れられたのだが。

 朝、母と電話で帰省の日時について話す。3泊4日は長いと思ったが予定をいろいろ入れるとあっという間。12時半、家を出て、半蔵門線で神保町に出る。センター街で、松尾貴史氏らしい人に出会う。向こうが黙礼をしてくれたのでこちらも黙礼で返したが、本人だったのだろうか。神田、新生古書会館地下で、東京愛書会古書市。会館が新しくなってから足を運んだのは初めて。これまでは階段を上がって二階で行われてきた古書即売会だが、改築されてからは地下に場所を移した。なんだか狭苦し くなったような気がするのだが、気のせいか?

 雑本ばかりといった感じだったが、それでも1万円ぶんくらい買った。それから白山通りに行く。と学会のS井さんと出会った。今日はいろんな人と出会う。S井さんは普段でもと学会Tシャツを着ているのであった。律儀というかなんというか。いもやで天丼を食べようか、と思ったが長蛇の列なのであきらめ、古書センターでボンデイのカレーを食う。アサリカレー1350円。初めてここに入って(1978年)食べたエビカレーが800円だった。あれから四半世紀、まだ倍にはなっていない。も うちょっとだが。

 中野書店でも少し本を物色して、半蔵門線で表参道まで出て、紀ノ国屋で買い物して帰宅。買ってきた本をパラパラ寝転がって読んでいるうちに、意識を失うように眠りに落ち込んでいく。寝不足と暑い中歩き回った疲れだろう。夢の中で、ウグイスならぬ、“ウグイヌ”という生き物が出てきた。形は犬なのにホーホケキョと鳴く。この犬を現代思想系の連中が見つけて騒いでいるのをニヤニヤしながら見ているという ヘンテコレンな夢。

 ふと目が覚めたらもう6時近く。予定していた原稿全部明日回しにして(まあ、どれにも今日すぐにはとりかかれない理由があるのだが)、太田出版のトンデモ本新刊の選定補遺に入る。例のアレはやはり入れねばなるまいなあ。その一方で、長谷川光洋『心霊世界の不思議』(竜は恐竜の霊魂で、天狗はネアンデルタール人の霊魂だと説く)や、原海紀男『首都圏大震災と国家の陰謀』(日本政府が大地震対策をしないのは、大地震で国民がうちひしがれるのを待って国家中心主義社会を打ち立てようとしているのだ、と説く)など、古いトンデモを書庫から引っぱり出してくるのも楽しい作業。ちなみに、この二冊はどちらも1981年刊行。このあたりのトンデモ本は やはり味がある。

 7時、タクシーで新宿へ。電光ニュースで、ヒマラヤの雪男は実はクマ、という報道が流れ、思わず失笑。K子と鳥源で待ち合わせ。若い衆(若旦那か?)が、わざわざ“これに載りました”と、『プレジデント』を持ってくる。“わたしのごひいきの店”で、なんと綾小路きみまろのおなじみの店だったそうな。焼き物三種(精肉、モツ、つくね)と水炊きのみ。ただしメローコヅルを一本、新しくキープした。隣りにどこかの研究所(バケ学系)の面子が座る。化学製品名と、人事についての生臭い話がゴッチャになって飛び交っていた。理系の研究職の人事の話が、文系のそれよりもどこか、いやらしく感じるのはどういうわけのものだろう。やはりサイエンスというものはもっと純粋なものであってほしい、という一般人の夢みたいなものを壊すからか。耳をふさぐようにして水炊きに専念、最後の雑炊まで舐めるように食べる。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa