裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

木曜日

西郷の晩餐

 大したもんはいっちょんありもはんが、たもいやったもんせ。夜半、しぶり腹が続き、トイレに起きる。新薬の止瀉剤を寝る前に飲んだが効かない。正露丸をのんで寝ると、朝までぐっすりと寝られた。『買ってはいけない』の筆頭品に挙げられていたりするが、これでなくてはいかん、という場合がちゃんとあるのである。

 朝食はトウモロコシ(ピュアホワイトという白い色の品種)と枝豆のスチーム。それに千疋屋の梨。この梨も今日で最後、明日からの安い梨がさて、どういう味になるか? イベント続きで日記が一日後れになってしまっているので、取り戻すべく頑張る。が、2日の日の昼食がどうしても思い出せない。記憶力がかくも減退したか、と嘆いたが、どうも細かく時系列で思い出してみると、その日は昼をうっかり食いそびれていたのではないかという結論に達する。私のような食いしん坊がメシをコロリと忘れるとは。昔、『素晴らしき仲間』で林家彦六に談志が“師匠、最近どうです?”と訊いたとき、彦六が“ダメだねェ、この節ァ、メシを忘れちまうんでねェ”と答えたことがあった。“いいじゃありませンか、メシを忘れるなンざ、風流で”“いやァねェ、食ったことォ忘れて、またァ食っちまうンでねェ”“アア、そりゃダメだ”という会話があった。私もメシを忘れるような年寄りになりたいものである。

『創』S田さんから電話、トリビア座談会の件。岡田斗司夫さんとやっていただくのはどう? というので、それは問題ないことを伝える。中森明夫さんとは? というので、こっちは誰ともでもかまわないけれど、おつきあいがないから果たして盛り上がるかどうかわからない、というと、あれ、つきあいがないの? と不思議そう。サ ブカル業界というのがよっぽど狭い世界だと思っているらしい。

 昼はパックのご飯に粒うにの瓶詰めと、豆腐汁、昨日の芋の煮たのの残り。『フィギュア王』からゲスラ届く。流石の出来、というか、あまりにカッコよく、ボクの見たゲスラはこんなにカッコよくなかったゾ、と心の中の8歳の自分が言う。世の中には心が純粋で、子供の頃に見た怪獣をどんどん脳内美化してカッコよくしていく人もいるらしいが、私などには、それは自分をゴマカシているのではないか、と思えてならぬ。クラス会などで、昔あこがれていたクラス一の美少女に再会したときの、あのホロ苦い自嘲の笑いを味わえてこそ、大人になった価値があるってもんであろうが、という気がするんである。最近の食玩の怪獣の、あまりにソフィスティケートされたデザイン、ポーズなどには、そういう意味でちょっと違和感を感じてしまうのだ。

 腹の不快は正露丸のおかげかおさまったが、便のみはずっと水様便。ひっきりなしにトイレへ行く。いつぞやタイに行って水あたりしたときの症状と同じである。風邪かもしれない。まあ、これで少し体重でも落ちれば、と考えて、別に薬ものまず。ただ体力はやはり低下。寝転がって19世紀の殺人事件記事などを読んでいるうちに、 寝るというより意識を失うような感じでグースカ。

 起きあがってメールチェック。スパムメールが15通も来ていて驚く。何かあったのか。志水一夫さんから教えてもらったMLで、『珍イベント変イベント』というのがある。これが結構役に立つので毎回楽しみにしているのだが、今回は、なんと私のロフトプラスワンでの紙芝居ライブが取り上げられていた。“人間観察他で活躍する唐沢氏の独自の視点でのショー”という紹介文も嬉しい。何かいい気分になる。

 6時45分、家を出て新宿まで。総武線に乗り換えて浅草橋、立川流同人誌打ち上げ。K子はポーランド語の後、開田さんたちとチャイナハウスへ行くというので別行動。浅草橋で談之助さん、快楽亭親子と待ち合わせ。秀次郎は髪を伸ばして、もう本当にジャニ系美幼年。ところが、情緒不安定なのか、タオル地のハンカチをずっと口にくわえっぱなし。ライナスじゃあるまいし。快楽亭のおかみさんも来て、そこから歩いて6分ほどの、中華料理店『中華楼』(なにか、そのまんまな店名だが)に。ここは談之助さんの落研の後輩だか同期だかの人がやっている店だとか。浅草橋というのは一概に地味な街なのだが、この店のみは赤だの金だのをふんだんに使い、照明もやたらに照らして、外も中も満艦飾。入ると最近はやりの、水晶玉が噴水の中でクルクル回転しているギミックがあり、天井に目をやると、金色の龍が口の中に玉を含んで、その玉が時折ピカッと光る。中華趣味というより関西趣味じゃないか? 待っていた談之助さんの奥さんに挨拶。秀次郎はゆうべクレしんのビデオを夜中まで見てい たとかで、すぐハンカチ加えながら眠ってしまった。

 料理はオーソドックスな中華だが、どれにも一工夫してあるのがいい。ピータンは黄金色で白身部分が透明というゴールドピータン。エビチリ、海鮮炒めなどの定番の他に、烏骨鶏の丸ごとローストというのが出た。余計なソースなどをかけずに、つけあわせの野菜の塩味のみで肉の旨味を味わう感じで、まず一番。他に湯(タン)もよし、最後の杏仁豆腐に添えられたサンザシの酸味もよし。快楽亭のおかみさんがこの サンザシを絶賛。

 話題はこないだの千恵蔵映画、それから獅篭・キウイのウワサなどからはじまり、東村山で上海ガニの養殖をやっているそうな、それは東村山ガニで上海ガニではないのでは、というような雑談に流れ、あっち行きこっち行きとなり、でもこの面子なので、結局は落語に関する、かなりマニアックなものに落ち着く。世代的にほぼ一緒なので、語れる落語家が同じというのが盛り上がる理由であろう。圓生・正蔵の月旦から、柳昇がいかに魅力的にヘタだったかという話、楽屋の病気ばなし、寄席のシステムの今後、そして終いには落語の存在意義までに及ぶ。女房がいないせい、というとK子に怒られるが、気をつかう人がいないおかげで、話をどこまでもオタク的に出来て、ひさしぶりに脳が煮詰まるような楽しさを味わった(こういうことを書くとすぐに“ホモソーシャル”とか言う馬鹿が出てくるだろうが)。

 途中、談笑さんから電話があったが、“いま、羽田についたところ”というので参加は残念ながら出来ず。安達Oさんも今日“だけ”用事があるということで不参加。残念。結局10時過ぎまで話し込み、最後の客となって辞去。秀次郎は眠ったまんまであった。“通す(童貞を捨てる)相手はもう決まっているの?”と快楽亭に訊いたら、“立候補者は何人かいるンだけどねエ”と。

 総武線で新宿まで、談之助夫妻と一緒。女性漫才のいいのをプロデュースしたい、というような話。ユキさん、職場で『トリビアの泉』みんな見ているので、あの番組のスタッフと友達だと自慢が出来て嬉しいです、とのこと。実は今日、あの番組に関する基本的重大事で、笑ってしまうようなことを発見。その話で談之助さんと二人、イヒヒ、と人の悪い笑みを浮かべる。帰宅、まだK子帰ってきていなかった。三十分くらいして帰ってくる。みんな蟻酒飲んでへべれけになっていたとか。

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