裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

木曜日

真夏の甲子園

 これだけ見ると別に変わったところのないタイトルのように見えますが、実はモーニング娘。の、『真夏の光線』のシャレなのです(新機軸?)。朝、ゆうべの酒のせいか寝坊して8時15分起床。朝食はピーナッツスプラウトと枝豆。この日記に書き忘れていたが16日に元ウガンダの人喰い大統領、アミンが死去。80才。大正14年生まれ、と書いてあったサイトがあったが、そう考えると、いい歳であった。猪木と異種格闘技戦(このときはアミン自身がレスリングで戦う、と言っていたので厳密に言えば“異種”ではない)の話があった(政変で流れた)が、あのときすでに53歳であったか。コミケで奥平くんが“アミン追悼企画をどこかでやらなくちゃ”とはしゃいでいたが、まさにわれわれの世代における一個の“異人”であった。われわれがいま現在、呼吸して生きているこの世界が、自分たちの矮小な常識で判断できるような、一筋縄でいくものものではないということを認識させてくれたという意味で、大きな存在だったと思う。

 アミンが人喰いと呼ばれるのは、政敵であるマイケル・オンダンガ外相の死体が発見された(1973年)とき、その肝臓が抜き取られていて、食べられたらしい痕跡があったためだが、アミン大統領の出身部族であるカクワ族の間では、殺した相手の肝臓を食べればその怨霊にとりつかれない、という言い伝えがあったらしい。案外迷信深い質だったのである。ちなみに、フルネームはイディ・アミン・ダダ・オウメ。ダダてのも凄いな。長いことウガンダ経済を支配していたインド人を追放して主権を ウガンダ人に戻すなど、功績も多々、あった政治家だった。

 昼は新宿に出て、雑用いくつか。『アラジン』でビデオ買う。ちょっと得な買い物をして、小さい幸せを感じる。『アカシア』でオイル焼きセットの昼食。タクシーで帰るが、運転手さんが、顔は林家彦一、しゃべり方が三遊亭白鳥という感じの人で、最近の新宿はあぶない客が多い、てな話を聞かせてくれる。シンナーの入ったビンを段ボール箱にぎっしり詰めては、“あっち行ってくれ、こっち行ってくれ”と警察の目を逃れてはあちこち移動し、売って歩くのだそうな。また、今年に入ってもう二回も、客を東京から名古屋まで乗せたそうだ。一回は親類の葬儀だったそうだが、もう一回は受験生で、受験票を忘れて取りに帰ったのだとか。“普通は親が届けに来ない かね?”“まあ、向こうもいろいろ事情があるんでしょうけどねえ”などと。

 帰ったら談之助さんから留守電、今夜打ち合わせの筈が緊急の仕事が入ってNG。書類のみ受け渡しをしないといけないので、夕方また新宿に出ることになる。メール数通、山田五郎氏の有線番組出演の録音の日取りの件、また光文社文庫O氏から12月に小フェアをやるので、『カラサワ堂怪書目録』をフェア参加書籍として文庫化さ せてほしいとの件。

 急場の原稿も書かねばならないのだが、企画書とかのことでしばらく頭を使う。そう言えば、前々からやりたいと思っていた小説の企画も思い出した。これはとりあえず、100枚くらいのものにして、どこかへ持ち込んでみよう。阿部能丸くんから電話、そう言えば『トリビアの泉』の高橋克実は彼と“劇団離風霊船”の『ゴジラ』で 一緒だったのであった。

 5時、また新宿。談之助さんに南口で落ち合い、書類受け渡し。今日の仕事はお寺での落語会だとか。筑摩の本のことを少し話す。それから西口で雑用。雑用の多い日である。JRで高田馬場へ行き、また雑用。これはWeb現代用であった。そこから地下鉄東西線で九段まで行き、半蔵門線に乗り換えて神保町。開田さんたちと待ち合わせなのだが、時間がまだあったので古書街をブラつき、明倫館書店で科学書数冊買う。岩波ホール前で読みながら待つ。ほどなく開田夫妻、K子も。珍しく全員、時間より早めに着いた。カスミ書房にコミケ報告に行き、そこから四人で炭火焼きの店・名舌亭へ。“めいたんてい”と読む。店主がミステリファンなのだろうか。

 カウンターに四人なので、角席に二・二で座ろうとしたが、お母さんらしき人に、その席は冷房がキツイですと言われる。一番冷房に強い私が風を受ける席に座ることにして、一・三で。なるほど最初はやや寒く感じたが、酒が入ると逆にポカポカしてきた。火照り体質であることよ。ネットでこの店を検索してみたとき、この界隈ではおいしい店、ということはみな認めていても、“接客態度が悪い”“品切れが多い”の二点で、だいぶ評価が落ちていた。しかし、冷房の件で接客態度はクリア。ただし品切れは評判通りというか、確かに“すいません、それ切れてます”が多かった。

 タン刺し、鰺のなめろう(なめろうというよりはタタキ)、名物のフォアグラ串などで酒。『八海山』がうまくて、K子に叱られるほどおかわり。開田さんと『トリビアの泉』ばなし。昨今のバラエティ番組の中ではコンセプトがきちんとしている、ということで意見一致。薄い中にも必ずひとつはこっちも“へぇ”と言うようなネタを入れているし。あと、東映の『デビルマン』、やっと制作中止決定とやら。Dちゃんの脚本も幻となったか。9時半店を出て、地下鉄で帰宅。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa