裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

金曜日

中国に古いゴッドファーザーあるね

「遠い親より名付けの親」言うね。朝、某知人に紹介された、昔ヒーローものの主役をやっていた某俳優のメーリングリストに入るが、だんだん深入りをしすぎて、その俳優の勧める詐欺事件に一役かってしまい、共謀容疑で逮捕されてしまう夢を見る。刑務所で、トラックの運転手をさせられながら、俺もひどいことになったもんだが、しかしまあファンだったあの俳優にここまで入れ込んだわけだから満足だな、とか、妙に悟っていたのが可笑しかった。フィクションの中で主人公が見る夢というのは、シチュエーションのみ奇想天外でも、意識は普段と変わりないが、実際の夢の中で人 間は、通常の状態なら思いもしないことを思うものである。

 朝食、トウモロコシに枝豆のスチーム、スイカ。午前中は日記つけ、メール連絡など雑用。内田惣次郎氏にゆうべメールを差し上げておいたのだが、ご丁寧な返信をいただいた。他は仕事関係。S社から文庫のお誘い、やはり『トリビアの泉』がらみである。さてブームの間に何冊、私はオビに“『トリビアの泉』のスーパーバイザー” と記した本を出すであろうか?

 台風接近で気圧の乱れ相当なもの。『Tarzan』ゲラにチェック入れて返信。北海道新聞『こだわり選書』用の本を昨日から読んでいるのだが、残念ながら思ったほどトンデモではなかった。別のものを探さねばならない。Web現代、メモを詳細にとっておいた取材なので、楽に出来るかと思ったら全然進まず。気圧のせいか、メモをとりすぎて“取材”に縛られてしまっているからか? 昼は昨日、Yくんからいただいた讃岐うどんの冷凍を釜揚げにして啜る。太くてコシが強くて、実にうまい。

 快楽亭から電話。“センセイに喜んでもらえるようなバカなイベントを企画しました”とのこと。聞いたら、今年は片岡千恵蔵生誕100周年なのに、どこもそれにちなんだイベントをやらないので、中野武蔵野ホールを語らって、『アマゾン無宿・世紀の大魔王』の特別上映をやらせ、8月31日の日曜に、みんなでそれを観に行くツアーを開催するという。時間を聞いたら、なんと朝の10時。“夜じゃないの?”と聞くと、“アタシもそう言ったんですが、ホールの支配人が、「千恵蔵ファンは年寄が多いから、夜遅いとみんな寝てしまって観に来ない」ッて言うもんで……”とのこと。映画を観た後、ブロードウェイの居酒屋で昼間から酒を飲みつつ、千恵蔵について語り合うのだそうである。映画のチョイスといい、酔狂というのを絵に描くとこう いうことになりそうな会ではある。31日9時半、中野駅北口集合。

 結局、気圧の乱れ(そう思うことにする)のため、普段なら二時間半もあれば書きあげられるWeb現代の原稿に、四時間くらいかかってしまう。まあ、途中で資料として調べようとしたスター・ウォーズシリーズや007シリーズの、脇役俳優の名前調べとかにハマって、約1時間半はそっちを調べることにかかってしまったせいなの であるが。

 5時半、家を出て中野へ。空模様このうえなく怪しいが、まだ雨は降り出していない。コンビニで図版用ブツの宅急便を出し、資料本買いにブロードウェイ内の明屋書店へ。いまだトンデモ本のコーナーがあるのは感心(何故か“宗教”の棚だが)。ここは非常に店内全体の様子が一望しにくい作りになっている書店で、万引きしてくださいといわんばかりの死角もやたらある。とはいえ、これで成り立っているのは、人の出入りが非常に多いからであろう。魔窟・中野ブロードウェイの中にあるから、比較でマトモな店に見えるが、普通の町中にあったとしたら、かなりユニークな部類に属するのではあるまいか。後で調べたら、愛媛県が拠点のチェーン店なのであった。しかも、これまでここをずっと“あけや書店”と読んでいたが、今日はじめて“はる や書店”であることが判明。

 本の他に、商店街でパンなどを買って、芸能小劇場でアニドウ上映会。植木不等式氏既に来ていた。今回の上映会は、なみき氏がアヌシーに出かけていたことなどもあり、間際まで上映作品が決まらず、おまけに台風で、客が入らないのではないか、と心配していたが、三々五々詰めかけてきて、最終的には8割以上席が埋まる。“アニメ鑑賞の決死隊だね”と受付で言ったらウケていた。加藤礼次朗もちゃんと来る。

 上映作品はいちいち書かないが、さすがに急場でげすからという感じで、手近のものを寄せ集めた風。それでも、こないだのオモチャフィルム上映の中に入っていた作品のオリジナルを上映してみたり、アニメ界の二大ギャグ作家、チャック・ジョーンズとテックス・アヴェリーを並べて比較上映してみたりと、毎回工夫をこらすのは感心である。寄席の席亭は三日やったらとか言うが、自分のコレクションの中から趣味でプログラムをいろいろ決めることのできる、こういう上映会の主催というのもさぞ や楽しいことであろう。

 今日は上映本数も少なかったため、9時過ぎには終映。植木氏、礼ちゃんと、毎度トラジでも芸がないので、中華食いましょうと、台湾料理『王味』に。K子も遅れてやって来て、植木氏に同人誌渡す。味付け豆腐のスライス、鹹水鴨、葱油餅、空芯菜の炒めものなど頼むが、中華料理のオーソリティの植木氏が“なかなかいいですね、ここ”と気に入った、日本に順化していない、台湾ぽい味の料理。うまいというよりは、懐かしい感じの味。怪味鶏など、かかってきたソースがゴマのものとも何ともつかない、まさに怪味で、植木さん“市販のドレッシングを各種カクテルしているんで はないでしょうか”とか言っていた。

 加藤礼次朗はこないだ、私や実相寺監督が帰ったあとも、残った面子で結局10時まで飲んでいたそうな。次のと学会例会々場が三朝庵の近くなので、会の前にそこに寄って、江戸川乱歩の色紙など眺めつつ、元祖と噂のあるカツ丼とかを食べてから会に臨む、というのはどうかとか提案したら、植木さんが乗り気になっていた。東京の真ん中に、乱歩だの押川春浪だのが通っていたという実家があった場合、私ならどうするであろうか。ものを書くということと、家を継いで蕎麦を茹でるということの、どちらを選ぶであろうか。古いもの好きの身としては悩むところだったのではあるまいか。それとも、それは地方出身者の勝手なあこがれで、ハナからそこに生まれ育てば、さまでありがたがらないものなのか。K子、“ウエキさん継げば?”などと無責任なことを。紹興酒四人で一本(少し残す)、仙草ゼリーまで食べて、11時ころ解散。山手線で新宿まで出て、タクシー。雨はパラ、パラ、という程度。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa