裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

火曜日

キャ〜メロット、出前一丁

「へいアーサー王さん、ごまラー油入りラーメンお待ち!」(昨日の松竹梅もそうだが、若い人はもう置いていくからそのつもりで)。朝7時15分起床。朝食、オニオンスープ。投入したのは菜の花、セロリ。K子には同じものを炒めてマフィンと。果物、ブラッドオレンジ。テレビでアカデミー賞授賞式の模様を見る。マイケル・ムーアのブッシュ糾弾演説、まあ嫌われ芸の人であるし、いいんでないですか(たぶん産経新聞が悪口を言うだろう)。個人的には、あまりにストレートすぎてシャレが効いてないのが惜しいと思う。同じブッシュ嫌いの表明でも、ジョン・ウォーターズが、『I LOVE ペッカー』で、陰毛が映っている写真を警察に取り締まられたのに憤慨した市民に“ウィー・ウォント・ブッシュ! ウィー・ウォント・ブッシュ!”と連呼させていたような、ああいう馬鹿々々しくひねったセンスの方が私としては好み。『千と千尋〜』受賞はまあ、宮崎監督がアメリカ人を見事ダマしおおせた、という意味で拍手。
追記:26日に産経を読んだら本当に悪口言っていた。

 戦争が始まってからテレビをつけている時間が長くなって、CMなどもよく見る。しかし、キリンアミノサプリがゴレンジャーで、アダムスのホワイティーン・ガムがキューティーハニー。ゴレンジャーはまあ、サプリメントを必要とする世代に共通体験として通じるイメージがこれだから(これしかないから)だろうが、キューティーハニーの方は多分、純粋に渡辺岳夫のあの曲が今の十代にもお洒落に聞こえるからだろう。ともあれ日本はいま、70年代東映文化に席巻されている。中野貴雄をそろそろCMの監督に使おうというスポンサーが出るのではないか。出てほしいのだが。

 窓外の光景はずっと小雨。書庫に入り浸っている間に2時を過ぎてしまう。買い物に出かけ、東急本店地下。本屋で棚を見るのも楽しいが、食料品店でさて、夕食の献立は何にしようか、と考えて売場を歩くのはまた、替えがたい楽しさがある。男の料理は素材につい、金をかけすぎるという欠点があり、私もまだそれを脱してはいないのであるが。もっとも、紀ノ国屋スーパーでイワシを見たら一尾500円というお値段。同じフロアにある魚屋では二尾300円だったので、そっちで購入。ネギだの大根だのののぞいた紙袋を下げ、一階のシャネルだのブルガリだのカルチェだのの並んだ間を通って帰宅。昼は食いそびれ。

 J&J書き始める。資料の並べ合わせと、イマ話題のものへのフックと、あと、私らしさの三つを念頭において。枚数から言ってチャカチャカと書きながしてしまえるようなものなのだが、やはり原稿料に見合った“素材”を使っている、と、クライアントにわかるように書かないと。編集者のNくんから電話。預けてある原稿の出版の件など。梶原一騎の『プロレススーパースター列伝』を以前、復刻したのだが、これがサッパリ売れず、装丁などを変えて、コンビニに廉価本として置いてみることを思いついてやってみたら、これがバカ売れしたとのこと。今や書店ではマンガも売れないのだなあ、と感心する。感心しちゃいけないのだが。イラク戦争の話になり、この時期にブッシュ大リスペクト本を出すってのはどうかね、と話すと、今はさすがにダメかも知れないけど、も少したって、みんなの頭が冷えてきたら、イケるかも知れませんね、と言う。モノカキの基本はへそ曲がりだからね、てなことを暫く。

 原稿、8割方書いたところで、ちょっとごちゃごちゃしてきた感があるので、一旦筆を置いて、頭を冷やしてから再執筆しよう、と、パソコンを落として、雨の中、新宿へ。いつものサウナ&マッサージ。行くと貼り紙が店内にあり、この店は三月末日を以て閉店いたします、長い間のご利用ありがとうございました、と書いてある。ああ、とうとうここにも不景気の波が、と思ったが、聞いてみると、いままでこの店が入っていたテナントが店自体を買い取って経営することになったという話で、営業はまったく変わらずに、店名が変わる(このテナントの名になる)だけだとのこと。少し安心。サウナで汗をかき、体重一キロ絞って、その後一時間、無念無想で強く揉まれる。

 帰宅、夕食の準備。昆布出汁で炊いたご飯に、薄味で煮付けたウドを混ぜ込んだウドご飯。イワシとジャガイモのオーブン焼きに、イワシの酢漬け。こないだスペイン料理で食べた酢漬けがあまりにうまかったので、自宅でも再現してみようと思って、ネットで料理法を探して、やってみた。専門店ではカタクチイワシを使っていたが、一般の魚屋では手に入りにくいので、普通のマイワシである。ワインビネガーを水で薄め、適度な酸味にし、砂糖をホンの少し入れて、この中に三枚に卸したイワシをさらに二等分して細切れにし、一時間ほど漬け込む(サウナに行く前にやっておいたので二時間漬け込みになった。この場合は水を多めにして酸味があまり染みないように加減する)。次に酢を捨て、塩と、タマネギとニンニクのみじん切りをまぶして、上からオリーブオイルをかけ回し、さらに一時間置いたら出来上がり。初めて作ったにしてはなかなかの味になったと思う。あと、紀ノ国屋で買った油揚げの細切りを、フライパンでカリカリになるまで炒め、大根おろしを添えて、上からポン酢をかける。アブラゲになんともいえない甘味があり、酒のつまみにも、飯の菜にも。

 こんな風流な料理を食べながら、DVDで『死体解剖医ヤノーシュ』。もっとも、後半には死体解剖シーンはなし。弁当を届けにきた娘に、嬉しそうな顔で解剖用具の解説をするヤノーシュが、何とも微笑ましいというか奇妙と言うか。『オロスコ』に比べると何とも“フツー”のおじさんであった。その後、片岡千恵蔵主演の自来也もの『妖蛇の魔殿』。昭和31年、松田定次監督。ストーリィ展開は後年、同じ自来也を主人公につくられた『怪竜大決戦』とほぼ同じで、お家を家来に乗っ取られ親を殺された若様が修行して妖術使いになり、仇を討つ、という流れ。なんのヒネリもない(ヒネリなら一年前公開の新東宝『忍術児雷也』の方がある)もので、脚本の比佐芳武、も少し仕事しろよ、という感じだが、大蛇丸の月形龍之介、悪人の山形勲、その家来加賀邦男、自来也に妖術を授ける仙人の薄田研二と、いずれも芸達者が揃っているので、まず安心して見られる。少年時代の自来也こと尾形修馬に千恵蔵の実子の植木基晴だが、この子が12歳、やがて現れた自来也が“今より17年の昔、親を殺されたその恨みはらさんがため……”と言うのが凄い。つまり千恵蔵、あの顔、あの体型で29歳という設定! 特撮はあまりなく、自来也もガマに変身しないのは不満だが、最後の対決は幻想的な処理で、月形龍之介がグロテスクな蛇の隈取りで、口を大きくあけて“カアアアッ”と見栄を切る。今の映画、今の役者には絶対できない演出と演技。日本酒と焼酎炭酸割り。焼酎に入れる梅干しは今日、東急地下の梅干し専門店で買ったものだが、プラムみたいな甘味。

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