裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

金曜日

耳だれを集めて早し最上川

 すこしゲッとなるイメージですな。朝7時45分起床。目が覚めるのはこのところずっと6時30分。それからまた寝入ったり、本を読んだり。朝食、カニ缶の残りを使ってスパゲッティサラダ。果物はプルーン。ものを書くには午前中に果物を食べると脳の働きが活発化する、と以前、雑誌だったか何だったかで読んで実行しているうちに、朝飯に果物がつかないと妙にイラつくようになってしまった。ダイエットには悪い習慣である。

 12時半から打ち合わせなので、早めに日記つけ、メールなどチェックする。今日も蒸し暑そうである。ワイドショーはやはり安室中心。仕事場に入ってからも、小型テレビつけて、戸川京子関連の報道を聞く。事務所の美人マネージャー、以前どこかで会った顔。話も二言三言、交わしたことがあるような記憶があるが思い出せない。あるいは他人のソラ似か。女性の芸能事務所関係者という人たちには、非常に典型的なある種のパターンがあるのである。表情とかしゃべり方とか、服装・髪型のセンス等とか。

 12時10分、家を出て兆楽で餃子とチャーハン。タオル地のハンカチで汗を拭き拭き時間割。二見書房Yさん。これまで書いていた小説がちょっと量が膨大なものになってしまいそうなので、それは中断して、軽くまとめられそうなものに変更。今週アタマにまとめたアイデアを話す。なかなか面白がってくれるので、これで行くことに。テーマをそれに絞って短編連作にすることなどを決める。からめて、いろいろと文学ばなし、文壇ばなし。評論という仕事の“実用性”について。私は評論というものはまず第一に、読者に“役に立つ”ものでなくてはいけないと思っている、と言うとYさん、大賛成してくれる。同じことを橋本治が言っていたそうだ。橋本氏は豆腐屋の息子、私は薬屋の息子、商人のせがれにとっては、お客が何を求めているか、ということが何よりの感心事であり、また、日銭の入ることの大切さを誰よりも痛感しているところに共通点があるのではないか、とYさん言う。

 2時まで話し込んでしまい、あわてて一旦家に帰り、タクシーで新宿南口。そこから中央線でお茶の水、総武線乗り換えて新小岩。2時50分の待ち合わせちょうどに到着した。Web現代のYくん、カメラマン氏と同道で本一色のヴィ・ショップへ。品田冬樹さんの取材である。ちょうど『くもちゅう』のてんとう虫の顔や手足が彩色中。500体作って、金型や手間など考慮すると一体4〜5000円はとらないと割にあわないのだが、ソフビ人形がその値段ということになっては、オモチャというイメージが壊れてしまうので、3000円という線を崩したくないという。ここらへんに品田氏独自のポリシーがある。詳しくはWeb現代のインタビュー記事(月末に掲載)を読んでもらいたいが、品田さんのいま、作ってみたいと思ってる次のキャラの話を聞いて少しのけぞって笑う。いい趣味しているわ。品田さんにはと学会10周年記念扇子をお中元代わりに進呈。

 スタジオのゴジラやヒーローたちの造形などをYくんに解説。“これがGMKのキングギドラ”と言うと品田さんが“カラサワさんがこんなキングギドラがあるか、と怒ったヤツです”と笑っていう。“仕方ないんですよ〜、アンギラスの筈がいきなりキングギドラになって、ゴジラと戦わせなくちゃならなくなったんですから。吊りでやるともう、何にも動かなくなっちゃうんで”……わかっております。別に品田さんを叱ったわけではなくて、そういう基本的なことの読めない東宝上層部に怒っておるのである。“私らの世代は両手で首を動かすとなると、すぐネズバードンとか三ツ首龍の悪いイメージが浮かんじゃうんですよ”“そうですよねえ、もっとも、あそこまで行くとアレはアレでいいんだけど”などとオタクな会話。

 1時間半ほどお邪魔していて失礼する。帰りの車中で次の連載の話。デザイナーさんの都合もあって少し新連載会誌が遅れるので、その間を朗読でつなげることに。お茶の水で別れ、一旦家に帰ってメールなど確認。また家を出て、青山まで歩き、地下鉄日比谷線で赤坂。TBSのウルトラマン像(あの騒動のさなかでも撤去はしなかったという)の前で加藤礼次朗と待ち合わせ。TBSホールの前に人だかりがして、テレビカメラが数台、待機している。道行く人が“誰がくるんだ?”“SAMじゃないのか”などと話していた。

 そこから歩いて十分ほど、小道のどん詰まりみたいなところにある、赤坂とは思えない下町風居酒屋『しゅん』で、実相寺昭雄監督を囲む飲み会。K子先に来ていた。河崎実、加藤礼次朗、風塵舎の社長、ティガ関係の人、コミック天誅の下請け編集プロダクションの人など総勢9名ほどのこぢんまりとした集まりであるが、監督、私、礼ちゃん、河崎カントク、それに風塵舎の5人で、まず十人ぶんくらいはうるさく話す。実相寺監督にも扇子進呈。河崎カントク、他のメンツに“もう、今のうちにジャミラのことでもシーボーズのことでも、何でも聞いてといてちょうだい”と言うが、実相寺監督、酔うにつれてスケベばなしばかりになって、ウルトラシリーズの女優のおっぱいの大小のこととか、誰を誰がモノにしたとかいう下ネタ話になる。“オレのイチモツはね、なにしろロッパピイピイだから”“なんですか、そのロッパピイピイてのは”“カラサワさんともあろうものが知らないとは情けない、ヒヨコをこう、上に並べてとまらせて……”“ああ、六羽乗って、あと一羽は片足だけで”“そう、地面に落っこってピイピイ鳴いてるという、これがロッパピイピイ”。河崎さん“監督はホントにそんなに巨根なんですか”“……すまん、ちょっとサバ読んでる。サンバピイピイくらい”。……怪獣マニアの少年たちの夢を壊す会話だね、どうも。他にコスモス関連の裏情報など。いかにも芸能界、というものだったが、実相寺昭雄の口から聞くと妙にリアルである。

 監督、さらに酔って“最近オレの愛用しているコンドーム”と、指サック出してきてハメる。加齢性皮膚炎らしい。酒の飲み過ぎのような気もするが。それをハメた指を、礼ちゃんの耳の穴に突っ込んだりする。彼の二の腕の白くてタプタプ柔らかいのがお気に召したようで、何度も触って揉む。私、“これでホモっ気が出たらまさに蜷川幸雄だ”。この両人は本当に似ていて、トイフェスで販売するという、実相寺監督ペンシルキャップも、“売れ残ったら『蜷川幸雄ペンシルキャップ』と言って博品館の前でタンカバイしよう”などと。あまりの話のはずみように河崎カントクが、“ひとつ、河崎、唐沢、加藤のKKKに実相寺監督をプラスして、このトークライブを全国に売り込みましょう”と半ばマジで言い出した。監督、“いいねえ、全国回って温泉入ろう”などと盛り上がる。トイフェスの後の打ち上げの飲み会を約して11時解散。途中、礼ちゃんの奥さんと電話で話す。職場に私の著作を読んでハマってしまった困ったちゃんがいて、猟奇殺人の話などを仕事中にし出して嫌がられているので、少し説教してくれないかという話。オレのせいじゃない。今度焼き肉食いに行こうよと礼ちゃん言う。そう言えばゴチちゃん(奥さん)は去年の後楽園のイベントの打ち上げで初めて焼き肉屋に入ったとか豚足を食べたとか言っていたのだった。

 食べた料理の数はホンのちょっとだったが、やたらしゃべってノドが乾き、ハイサワーをむやみにおかわりして飲んだような記憶がある。日比谷線で表参道まで出て、タクシーで帰宅。昼間が品田冬樹、夜が実相寺昭雄と、怪獣オタク的には非常に濃い 一日であった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa