裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

水曜日

クローン病大会

 真夏の風物詩ですな(あと、“十人のクローン病が旅に出た”とか、“クローン病のインク消し”だとか、“小さなクローン病〜ドビュッシー作曲〜”とか)。朝7時半起床。台風接近とかで、9時過ぎから雨本格化。『湘南爆走族』で主人公の江口洋助が台風が大好きで、台風が近づくと大はしゃぎするというキャラクターになっており、あれが奇妙なリアリティがあったのを記憶している。子供にとって(江口はオトナになりきれないキャラクターである)台風は非日常なイベントであり、学校が休みになったり、おにぎりなど非常食で食事をしたり、停電になってロウソクの回りに家族が集まったり、奇妙にワクワクする体験なのだ。そう言えば『ゴジラ』の第一作では、ゴジラの威力が台風と重ね合わされていた。怪獣映画のドキドキ感は、子供にとり台風的な非日常イベントの魅力、であろう。怪獣映画を作るときに大事な視線はそこにある、と思う。怪獣の出現は単なる“災害”ではない。と、言うか、怪獣の都市破壊を悲劇とだけ描くと、大事なものが抜け落ちる。

 朝食、私はいつもと変わらず。K子にはモヤシとピメントの炒め物。果物は、昨日スーパーで試供品としてもらったタネなしピオーネとマスカット。日記つけてすぐ、立川流同人誌のテープ起こし。なにしろビデオなので仕事場では再生できず、居間のビデオデッキの前にモバイルのワープロを持ち出して、それでやり出す。最初はやや単調な印象だが、出演者の矛先が次第にキウイに向かっていくあたり、そしてその雰囲気をキウイが次第に気付きながら、しかし天性の楽天主義で対応していく。出演者も会場の観客も、その様子に最初は笑いながら、段々と笑えなくなっていく……というあたりの段階が非情にスリリング。普通の予定調和性の座談会とは明らかに異なっている。面白くてたまらないが、面白いだけになかなか進まず。

 昼は近くのフォルクスで、オーストラリアビーフのランチステーキなるものを食べる。添えてあるのが、怪しげな冷凍野菜とかでなく、フライドポテトのみ、というのがいっそいい。肉自体は、サガリの部分を出汁につけこんで味を調えたものかな、という感じだが。帰宅して、豆乳飲みながらさらに続きをやる。小野伯父から電話。用というほどのものでもない、10月の5656の出演者が決まったよ、という程度の報告。内藤陳の店でアンタのことが話題になってたよ、若い世代の物書きたちにカリスマなんだってネ、などと世辞を使ってくるが、“イエ、そのようなことも”とかわす。とにかく話に乗らぬことである。少しでも興味を示すフリをすると、“俊一がゼヒ参加させてくれと言っていたんだよ”と、余所ではなりかねない。

 座談会原稿続き。困ったことに何処を切ったらいいかわからない。丸投げで談之助に渡す他あるまい。次第に佳境に入ってきて、前半黙ってストレートのバーボンをがぶがぶやっていた談生が座った目つきで参加しはじめたあたりから、笑いではなく、“コレ、どうなるんだ?”という興味が観客を包んでいく。あくまで今回の破門は前座一人一人の意識の問題、とする談生に、立川流、ひいては落語業界全体がもう、キシミが出来ていて、今回の騒動もその噴出の一環だと、全体的な問題ととらえる談之助・ブラックの対立点がかなり明確になり、その中間で、それを自覚はしているのだろうが、本能的に目をそらそうとするキウイと、この討論の時点ではまだ誠意を持って受け止めようとしている志加吾(この後、いろんなモノがからまってきてちと心境も変化せざるを得なくなった)のキャラ分けが輝き始める。今回、座席指定を最初に決めたのだが、これが成功した、という感じである。志加吾とキウイを真ん中に置こううと提案したのである。話がこれから煮詰まってこようというときに、キウイが談生や快楽亭の飲み物をあつらえようとし、私と談生が注意する。ここらがビジュアル的に全てを物語っていた。その図も、彼がまん真ん中の席から立ってチョコマカ用を足そうとする形になったから目立ったわけである。もっとも、ここはテープ起こしではわからない部分である。

 ときおり、階下の仕事場に降りてメールなど確認する。ロフトはベギラマナイトをこの先定期化したいという案があるそうだ。股間写生大会とかノーパンナイトとかを考えているらしい。唐沢さんもノーパンで出演いかがですか、と言われる。カリスマもへったくれもあったものに非ず。

 あと少しを残して時間となり、7時、東武ホテルで阿部能丸くんと待ち合わせて、時間割へ。出版企画のこと、映画企画のことなど話す。いろいろと、東宝のオフレコばなしなどを聞くことが出来て、収穫。能丸さんは多芸多才で、筆も立つし、企画スタッフとしても重宝がられているが、本業はやはり役者だよな、とつくづく思う。ナルシスト、とまではいかないが、自分で自分を賞賛することをためらわないというか恥ずかしがらないというか。“ボクの声はもう、凄いんですよ。発声していると、もう回りがビリビリ震えるんです”“ホラ、ボクって年齢より十歳は若く見えるじゃないですか。劇団で若い女の子とコンビ組んでも、違和感ないんですよ”“だってボクの肌って、ツルツルでしょう!”と、大いなる自信を持って言われる。ハハア、これが役者という人のメンタリティなるか、と感心する。一般社会では呆れられるかも知れないが、自分を商品とする世界ではコレでなくてはいかんのかも。

 K子を携帯で呼び出して雨の中三人、新楽飯店で食事、と思ったが休み。仕方なく三叉路のところの台湾料理『龍の髭』。ここもおいしいが、新楽に比べるとやや、通俗という感じ。シジミの炒め物、牛タン塩漬け、ピータン豆腐、肉団子甘酢かけ、それに上海風ヤキソバ。席がいずれも5人掛け8人掛けの丸テーブルで、二人連れ三人連れだと相席にさせられるのも落ち着かない。能丸さんは何か屈託している様子なので聞いてみると、生まれて初めて愛を告白した相手から(ずいぶんオクテであるのも自己愛の強い人間の特徴であろう)キッパリ断られたそうで、それで今日はいつもと感じが違っているのであった。“荒れていたと日記に書いといてください!”と言うからには、カノジョもこの日記を読んでいる一人か?

Copyright 2006 Shunichi Karasawa