裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

水曜日

幻覚商売

LSDの売人。

※吉澤純子送別会

朝9時起床。
大変に気分のいい熟睡。
正月の夢を今ごろ見る。家に女の子が遊びに来る。
普通の日本の女の子に見えるが、実はアフリカの原住民である。
お正月なので占いをしてやろうと、骨片を投げて占ってやる。
彼女の守り神となるトーテムはイエティ、今年は“恋の出会いあり”
と出るのでその子は喜び、二人で喜びの踊りを踊る。
その後、同じような夢をまた見るが、そっちは骨片占いの
骨片の作り方を子細に説明したバージョンだった。

朝食代わりの飲むヨーグルト(プレーン)一本。
日記つけ、連絡あちこち。
三宅くんから、イベント関係問合せメール。
それのやりとりで一時間ほど。
部屋が冷えきっていて、左肩の血行が悪くなりシンシン痛む。

芝居の台本のアイデアをちょっと思いつき、シノプシスだけでも
とちょっと書き留めてみる。テアトル・エコーがやるみたいな
芝居であるが、ちょっと面白くなりそう。しかしつくづく、
私は役者にアテないと台本も何も書けない男だな、と思う。
谷崎潤一郎は自分の書いた脚本に当てはまる俳優がもし
いなかったら、書いた本だけ(自分の幻想の中だけ)で満足
する、と言っているが、私にはそれが出来ない。かなり脇の
俳優まで、誰にやらせると設定して書くタイプである。

12時、昼食如例。リンゴとキャベツのサラダ、野菜とキノコの
カレーライス。家のカレーはタマネギたっぷりで甘くて旨し。
川口悠子とスケートでペアを組んでいるアレクサンダー・
スミルノフという名前が気になる。アレクサンダーの略称は
アレックス。アレックス・スミルノフと言えば、かつて
“流血怪人”として国際や全日のリングで暴れ回った
レスラーである。まさか本名で同名の人がいるとは。
ミクシィでこれを言ったらコメントで教示されたが、
プロレスラーの方のスミルノフは、もとアイスホッケー
選手だったそうな。スケートに縁のある名前なのか。

自室に戻ってずっと原稿、R社のもの。
資料調べる。ちょっと鬱になる。資料調べて鬱になることもないが
歳をとるとどうしてもココロヨワクなる。

大野由加里ちゃん(京都で山田監督作品で共演した)からお芝居の
お誘い。ちょうど取材の日だったので、それが終ってからいきます
と返事を。それにしても2月は芝居をよく見る、というか知り合いの
出る公演がかたまった。それでも、スケジュールがあわず行けないものが
いくつもあった。あれも、行きたくないのではなく、どうしても
都合が悪かったのです、お誘いいただいた方、ご了承を。

義理じゃなくて、私はそもそも小劇場演劇というものが好きで、
出来るだけ見に行きたいのが本音である。映画や落語の世界より
玉石混交の割合が大きく、渾沌としているところが私好みでもある。
もちろん、つまらない芝居を観ると腹も立つが、しかしつまらなくても
“観なけりゃよかった”と思うことはまず、ない。なんかかんか、
勉強になるし、世界が広がる。観たあとの飲み屋でのコキおろし大会が
盛り上がって楽しかった、というだけで、その芝居には価値があるのである。

6時、家を出て荻窪へ。今日は休団する吉澤純子の送別会。その前に
天沼会議室にてルナの会議。と、聞いていたが会議ではなくて、
音コントの収録であった。せっかく来たんだから、と何本かに
出演。

9時半、荻窪駅前『かっこ』で送別会。もやしくんの彼女も来てくれる。
初めて、彼女として挨拶。純子、何かハイテンションで面白い。
彼女と初めて会ったのは2007年だったか。飲み会で新人の吉澤です、
と挨拶してくれたのだが、残念ながら印象に残っていない。残るような
個性がなかったのだろう。その後ちょくちょく見る彼女はコントライブで
ブスキャラとして重宝されていた。山口A二郎さんが
「純子は全然ブスじゃないですよ。なんでルナは彼女をブス役で
ばかり使うんだ」
と憤慨していた。私はそれを聞きながら、“でも仕方ないよなあ、ブス
だしなあ”と思っていた(純子、ごめん)。
稽古のときも、ちょっと難しい演技をつけられると頭の中がパニック
するらしく、稽古場の真ん中で固まって、数分動けなくなってしまう
というようなことがよくあった。死んだNCなどに、実によく怒鳴り
つけられていた。この子、ちゃんとやっていけるんだろうか、と
心配になったほどだった。

ところが、入団一年目くらいから、彼女はがらりとイメージを変えた。
服装や髪形のセンス、メガネなどの選択のセンスが変わり、ゴスロリっぽい
ファッションなどを大胆に着てきたりした。そして、その衣装に、
中身の純子自身が負けてなかった。女の子としての魅力が磨かれてきたのだ。
去年の9月、マチネとソワレの合間に、劇場の椅子で寝ている彼女の寝顔を
ちらりと見たとき、へえ、こんなに可愛くなったんだと驚いたものである。
寝顔が可愛いというのは、これは女の魅力、ホンモノである証拠だ。

演技の面でも、彼女は化けた。最初に驚いたのは2008年の銀座小劇場
での『ターザン』。あの佐々木輝之が舞台上で彼女の演技に吹き、
「なんか面白ぇ、こいつ」
と言っていた。そのときはまだ天然ボケだったが、次第にそのボケを
意識して出せるようになっていった。
ブレイクしたのは昨年9月の『黄金夢幻城殺人事件』。少女漫画オタクの
いかれた娘を演じて、こっちの常識をくつがえすようなアドリブを見せ、
見違えるような成長をしめした。11月の私の芝居の、眼目のひとつが
彼女と松下あゆみの若手二人に悪役を演じさせるということで、これにも
楽しそうに見事に応えてくれた。そして、彼女の代表作となったのが
12月の『南極(人)』の貌井翔子役。緩急二通りのセリフにヒーヒー
いいながらも見事に貌井のキャラを作り上げ、原作者の京極夏彦氏に
「まるでH(貌井のモデルとなった女性編集者)がそこにいるようだ」
とまで言わしめた。

正直、ここまで育った役者を失うのは非常にイタい。
今回、家庭の事情で彼女は休団するが、ぜひとも帰ってきてほしい
人材だと切に願う。

『かっこ』、食い物がうまくていい店である。純子のチョイスで
頼んだ白コロモツ鍋のうまさにみんな驚いていた。
麺に雑炊まで平らげる。
早さん遅れて参加、いま舞台監督やっている芝居の稽古に立ち合った
とのこと。どういう芝居? と訊いたら、
「カラサワさんの知り合いの子が出ていますよ」
とのこと。ひょっとして大野由加里? と訊いたら、まさにそれ。
少し演劇の世界って狭過ぎという感じがする。

久しぶりにルナの面々と飲んだので話がはずんでいささか飲み過ぎ、
足をとられる。家飲みの方がやはりアルコールは抑えられるのだな。

*純子を囲んでハッシー、菊ちゃん、岡っち。右は『御利益』(08)
の頃の純子。垢抜けてきたのがハッキリわかるでしょ。

あと、タイトルがはしなくも藤田まこと追悼になってしまった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa