裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

水曜日

猫三味線録音の記

朝6時に目がさめる。外は雨。連絡事項いろいろと。9時、朝食。細川護貞氏が4日に死去したそうだ。93歳。

細川元首相の父だが、私にとっては『細川日記・情報天皇に達せず』の著者として知る名前。近衛文麿首相の秘書として、天皇に戦争状況の正確な情報を伝える役割を担った。日本有数の貴族の末裔としての線の細さを感じる人柄ではあったが、終戦間際、東条暗殺計画などが持ち上がると、このお坊ちゃんでもやはり国難に命を捨てる気分にまで高揚し、自分が東条を刺して死ぬから、後始末はお願いしますと近衛にせまり、近衛の優柔不断に不満の意を書きつけたりしている(ここらへん、同じ華族でも武家出身と公家出身の差か)。それでもやはり貴族は貴族で、近衛が自殺すると政界への進出をさっさと諦めてしまったり、やはり坊ちゃんはダメだね、という感じだった。

その血筋を細川首相も大変濃くひいていた。内容的に資料価値が大変高いにもかかわらず私がこの日記をあまり評価しないのは食べ物のことが詳しく書かれていないことで、
「食い物のことが書かれていない日記を私は日記と認めない」
と、TBSのIくん相手にこのあいだ、その食べ物が出てこない日記の例としてこの細川日記を挙げたばかり。うーむ、西手新九郎か?

『ブジオ!』コーナー内容をブログにアップ。
http://tbs954.cocolog-nifty.com/bujio/
さらに女池充監督、中野貴雄脚本の『花井さち子の華麗な生涯』のコメントを書いてアルゴH氏に送る。

中野脚本らしいナンセンスシュールを、本人が演出するとギャグ性強調路線で突っ走るところを画面は重厚におさえていることで一種文芸色すら感じられる展開になっている。役者陣の演技は中野調なので凄いアンバランスなのだが、そこがオモシロイと思うか、未消化と思うかで評価は別れよう。

11時、タクシーに飛び乗って麻布十番まで、録音・編集スタジオのTTCプラザで『猫三味線』紙芝居部分録音。16の編集スタジオ、6つの録音スタジオの入っているスタジオビルで、予定掲示板見ると『でぶや』はじめ有名番組の名前がズラリ。

佳声先生と佳江さん、スタッフすでに設置テスト中。遅れてきたバーバラ・アスカさんと一緒に佳声先生と向かいのうどん屋で昼食とりつつ、清流出版での自伝刊行の話。

アスカさんの情報では清流出版ではかなりぜいたくな本造りが出来そう。1時、録音開始。

ちょっと緊張気味でいらっしゃるので。放送禁止用語等、後で編集でカットしますので今回はご自由に、と言って佳声先生の負担を少なくしてやってもらう。

佳江さん(向田邦子似)が77歳の父親をぶっきらぼうのようでいながら気づかう会話がいい。せまい録音ブースに佳声先生入り、猫三味線朗読が始まる。前半一時間半、ほとんどミスもない名調子。さすがと感心。その間、携帯何度か。

山口A次郎氏と、名古屋トイパラでのトークとサイン会の打ち合わせ。せわしない。原稿催促もあったが、すいません、7日になります。阿部能丸くんから下町ダニー・ローズの情報。

今度は向田邦子の『あ・うん』をかけるのだが、なんと東映の奥中淳夫(『悪魔くん』『仮面ライダーV3』)氏が出演するそうである。

監督協会で芝居熱が高まった話が流れ流れてここにたどりついたそうだが、さて。録音、休息を二回はさんで順調。5時には終わり、そこから言いよどみ、言い間違い、噛みなどのチェック。最近のデジタル録音の修正技術の高さに感服するが、それでも修正しきれないところを再度、録音しなおしてもらう。

また、佳声先生、ご自分の声を聞いて、
「火のよーうじン、さッしゃりましょーゥ」
の声などをもう一回入れ直したいと言う。こういう作業の面白いこと!
「映画の醍醐味は編集である」
というが、編集以前のこんな細かな直しであっても、作品が傷を消してどんどん完璧なものになってくる、という魅力は実に大きいものがある。これからの本格編集が実に楽しみ。

とはいえ、何度も言っているように、あまりに傷のない完璧なものにしようとすると紙芝居の大衆芸術性が死ぬ。

聞き取りに支障ないようなレベルにしておく。拍子木、雨音を入れて今日はラスト。まだ雨ソボ振り。

片づけてスタジオを出たのが8時過ぎ。麻布十番を歩いて入れる店を探す。佳声先生はうなぎがお好きだというので宮川へ。お疲れさまで乾杯。

スタジオ内では緊張していたようだが佳声先生、今日の収録はかなりうれしかったようで、
「ああいう風にきちんと録音してくれるとありがたい」
「あたしも残せるものはいい形で残したい」
「(自伝の出版も)これまで加太こうじ先生のように作り手からの紙芝居の本はあったが、演じ手側からの本はこれが初めてだろうから、後進のためになるものを作りたい」
などと、張り切った言葉をいろいろいただき、嬉しい限り。

「紙芝居はね、新しくなくてはダメなんです。子供たちは古いものは喜ばないから。紙芝居って名前もネ、そろそろ考え時だと思うンですよ。アニメなんかも、あれァ昔は漫画映画ッて言ってて、それから動画になって、アニメとなってブームになった。そういう、新しいものというイメージのある名前が何か欲しいなア」
と言う。77歳にしてこの考えは凄い。

ビール、それからお酒を、と頼んだら四合ビンで来てしまったが、二人で二合づつ、ご機嫌で飲んで空けてしまった。

タクシーで帰宅、すべて面倒くさくなって寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa