裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

土曜日

クラッシュの手帳

 各社のパソコンの故障を比較する。朝7時起き。朝食、トマトスパゲッティ。いささか油こくて腹にもたれる。果物はソバ屋のミカン。種の多い種類で、ポンカンに近い味。百草胃腸薬と小青龍湯。志水一夫氏から指摘のあった日記のバグを訂正。

 午前中は週刊アスキー。図版のブツに、先日取り替えたフィギュア王用のものを使うことにして、テーマをそれに合わせたものにして書く。いい資料がすぐ見つかり、二時間で五枚弱、書き上げ。これくらいのペースでいつもいければいいのだが。テレビでは『ぶらり途中下車の旅』。滝口順平のナレーション、年を追うごとに派手なイントネーションになっている。日常であんな抑揚でしゃべるヤツがいたら異様極まりない。商品になるしゃべりというのは、あそこまで個性を強調しないとダメということか。文章はどうなのか。いろいろ考える。

 海拓舎、エンターブレイン、どちらもあとホンの少しというとこなのだが、気力がスウスウ、抜けていってるような感じでダメ。思いきって神保町の古書会館に行く。『趣味の古書展』。SM雑誌のバックナンバーが出ているが、高くてダメ。今日はひと山もの買いに徹しようと、一冊200円、500円などというものばかりあさって買い込む。文庫本、新書、雑学本など。一番高かったのが福田和彦の西独エロ映画本で、これが1500円。“土曜日なのに人が多いねえ”と会話しているカップルがいて、いい傾向だとホクソ笑む。“ひょっとして、唐沢俊一さんですか”とファンに声をかけられる。古本マニア雑学ノート読みました、と挨拶されるので、二、三会話するが、どうもコミュニケーション能力を先天的に欠く類いの人らしく、ちと往生。いや、彼に悪意は全くないのだが、必死で何とか会話をつなげようとして、唐突に“この会場にジャガーバックスはないですかねえ?”などと話を持ちかけてくる。あそこの妖怪図鑑などの事なら、話をする材料が自分の中にあるのだろうが、そうそう都合よく、自分のなわばりうちのネタが目の前にあるものではない。知識量と会話能力は全くの別もので、会話能力というのは、目の前にあるものなら分度器でもコンニャクでも、なんであろうがそれを接穂にして話をつむぐことが出来る能力のことを言うのである。

 神保町通りの脇に入って、目についた餃子屋に飛び込む。なぜかこのあたりには餃子屋が多く、中には残留孤児の人が開いた店もあり、神保町は餃子の街と言ってもいいくらいなのだが、これまたどういうわけか、ここら近辺でうまい餃子屋に当たったためしがない。今日も大ハズレ。キャベツの絞りカスのような繊維だらけの餃子だった。それでも、途切れなく客は入ってくる。三省堂で新刊書籍買い物。やはり専門書は新宿などよりはるかに充実している。一万七千円ばかり使う。レジは大行列。私の前に並んでいたミュージシャンぽいカッコいい若者の手に、大川隆法の本が三冊、抱 えこまれていた。

 他の店(カスミ、キントト等)には寄らず、まっすぐ帰宅。体力極端に落ち、電話にも出ずにベッドにもぐりこむ。深い、しかし不健康な眠り数刻。目が覚めてもテンションがあがらず、しばらくぼんやりしている。這いずるように出て、夕食の用意をしに出る。何か体を動かさないと気絶してしまいそうである。マンションの廊下を歩きながら、頭がモウロウとする。いつもは歩くのだが、タクシーで青山まで往復。贅沢な買い出しだ。行きの運転手、“紀ノ国屋のトイメンにつけてください”と指示したら、“よく、お客さんでそのトイメンという言葉を使う方がいらっしゃるんですけれど、それは何語なんです? 辞書にも載ってなくて”と訊いてくる。マージャン用語から来た日本式中国語(正しくはトェイミェン)で、日本語で、何かを隔てた正面という意味にピッタリの単語がないもので、これが転用されてよく使われるんでしょう、と説明すると、“長年の疑問が氷解しました。わたくし、マージャンはやらないもので”と感謝(?)される。広辞苑には載っていたはずだが。

 肩肉ハム、ブラッドオレンジジュースなど買い込む。帰りのタクシー、原宿近辺で梅宮辰夫のコロッケの話になり、あれはマズい、と言ったら、運転手さん、“冷凍のコロッケで一番うまいのはかと吉のですね。次がニチレイ、三番が味の素”と立て板に水でコロッケの講釈を始める。“くわしいですねえ!”と感心したら、こないだまで弁当の仕出し屋をやっていたのだそうだ。商売は道によって賢し。

 帰宅、また少し休んで、8時からメシ作り。カブのサラダに、カブとズワイガニの炊きもの、ニミッツステーキ。ビデオで古沢憲吾監督『てなもんや大騒動』。立ち回り以外、映画ならではの大仕掛けがないのが物足りないし、舞台の楽屋オチギャグを映画でそのままやるのに少し違和感があるが、その分、舞台を髣髴とさせてよし。主役二人の他、財津一郎、野川由美子、南利明などのレギュラーに加え、谷啓、伴淳三郎、ドリフターズなど。いかりや長介の土方歳三というのは珍キャストであろう。その他あれやこれやビデオを見散らかしながら、12時過ぎまで酒をチビチビ飲む。

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