裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

木曜日

ア・プリオリ産むがやすし

 タイトルに意味はない。朝7時起き。FAX機入れ換えなので早起き。朝食、シーフードサンド。繊維が歯にはさまったので糸ようじ使っていたら、下の脇の門歯の、虫が食っていた小さな部分がポロリと取れた。

 9時半、鶴岡から電話。昨日の彼のトーク、何か元気がないようだったが、自分でも少しセンチメンタルだったと反省しているらしい。ただし評判は“いつもの彼っぽくなく真摯なところがよかった”となかなかよろしい。いろいろ話している最中にビジネスキング(うちの電子機器のほとんどを入れてくれている会社)の若社長が新型FAXを運んでくる。彼とはもう十年以上のつきあいで、まだ六本木に事務所があった頃の事務機器でもお世話になったし、その体格のよさをかわれて(?)K子の『不思議の国のゲイたち』にも出演させられている。設置のついでに本棚を移動させて、かなりひどいタコ足状態になっている仕事部屋のコード・コンセント類を整理する。新FAX、コピー機も兼ねるスグレモノ。セットしに来たミノルタの社員のひと、私のファンだということで、『裏モノの神様』を持参。サインする。

 その『裏モノの神様』のイーストプレスから設置中に電話。増刷決定はめでたし。ただし部数は雀の涙。・・・・・・などとぜいたくは言ってられない。部屋を整理していたら、六本木のオノプロ(伯父が経営していた芸能プロ)の頃の資料がいくつか出てきた。バブル末期、伯父がスペインから絵画を輸入する事業を展開しようとしていた頃のビジネス通信文で、読むだに冷や汗が流れる。当初はヤタケタに景気のいいことをブチあげていた伯父の事業が、所詮は芸人の素人ビジネスで一年もしないうちにぼろぼろと崩壊しはじめ、最後はショックでほとんど半廃人状態になり果てた彼に変わって、私がプロダクション経営と輸入事業の後始末の両方に掛かり合うハメになった。ノンバンクや債権者の間を頭を下げてかけずり回り、殊に出資者の女性が悪徳弁護士を雇って(まさに悪徳を絵に描いたような人物だった)こちらを糾弾してきたときには、相手のあまりの言い様に、聞いていて屈辱感で、膝の上で握った手がブルブル震えたものだ。それまで、あれはドラマの誇張した演技だとばかり思っていたのだが、感情が激するとホントにブルブル震えるものであることを初めて知った。あの八方塞がりの状況から、どうにかこうにか抜け出して、やれ先生のモノカキのと言われて本が出せ、重版になり、コンニチサマを無事、拝んでいられるのは、まったく奇跡としか言い様がない。雲の上のだれかが私を好きなんじゃないか、と、ときどき本気で思うのである。

 新FAX、井上デザインへの連絡で初使用する。ロフトプラスワンでのオタク・アミーゴスの公演前売情報に訂正あり(イベント告知欄を必ず参照のこと)。

 昼はカレー。レトルトカレーをいろいろ食べ比べているが、今日のは大塚のカリーバーのビーフ。それにしてもレトルトのカレーがこんなにうまくなって、大衆食堂のカレーというのは、今、どんな味でやっているんだろう。昔ながらのウドン粉たくさんのあの黄色いカレーで、今でも商売が成り立つんだろうか。昔、仙台の定食屋でカレーライスを注文したら、厨房でおかみさんが棚の奥からナベを取り出し、中のひっからびたカレーに水を差してグツグツ煮て、メシにかけて出した。紙のように薄い豚肉の切れ端が一片、入っていた。食った翌日、私は腹をくだして一日寝込んだものである。

『ベストマガジン』から電話取材。映画などのヒロインの危機一髪シーンについて何か評論せよとのこと。人間のサディズム本能とモラルにからめて一席ぶつ。なんかやたら感心していた。ササキバラゴウ氏からも電話。アイジャイのビデオ、まんがの森の印口さんの厚意で最後の一本をとっておいてくれたとのこと。

 外へ出て、駅前のシネフロントで『ターザン』字幕版。重厚な絵とストーリィの軽さ(展開のあまりの速さ)の不釣り合いが気になるところだが、動画はやはり最高。ジャングルの森の中を、まるでディズニーランドのジェットコースターに乗ったように(きっと作るよな)疾駆するターザンを追っていると、脳がダイレクトに快を感じる。キャラクターの白眉は厳格な父ゴリラ、カーチャク(ランス・ヘンリクセンの声がすばらしい)。子を亡くした妻が、拾った人間の子に愛着を抱く気持ちを理解しながらも、群のリーダーとしての責任感から厳しい態度を取る。父として、長としての理想像を見事に表している。漢、という文字がピッタリ。三人組のガングロの女子大生が涙をぬぐっていた。

 私がターザン映画史で気に入っているエピソード。1957年制作の『ターザンの決闘』で鉱山を狙う悪役を演じた若い英国人俳優の演技がなかなかよかったので、プロデューサーがシリーズ次作にも出演を依頼した。そのときの彼からの手紙。
「いま、あるスパイ映画への出演依頼を受けていて、すでにテスト撮影にも入っているので、今回は無理なのですが、次回作には是非とも・・・・・・」
 その映画の題名は『007は殺しの番号』、俳優の名はショーン・コネリー。

 西武デパートで食料品買い込み。帰って日記つけなど。8時、夕食。鴨飯、スズキ塩焼、ピータン豆腐。鴨飯は今朝、週刊誌で見たばかりのレシピを早速試みたものだが、なかなか結構な出来。米にセロリ微塵切りをまぜ、酒と塩、オイスターソース、胡麻油を加えて市販の鴨燻製と一緒に炊き込む。アニ、二話続けて。サン・ジュストの死のあれやこれやで新展開なし。前にも言ったが、エピソードを輻輳させられないのがこの脚本の弱点。

 K子の仕事場に、法の華の松涛進出阻止に署名を、というチラシが入っていた。誇りある我が街にオウムまがいの新興宗教の進出を許すな、という主旨であるが、松涛の住民というのはお高くとまって他の渋谷区民を見下し、法の華以上に近辺から徹底して嫌われているから、運動の成果はあがるまい。けけけ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa