裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

土曜日

大阪日帰り

 朝、8時起き。朝食、黒パン、チーズ、ソーセージ。K子から、四国のタウン誌用の原稿のフロッピーをメールしてくれと手渡されるがうちのマックでは読み取れず。

 昨日届いた角川文庫『愛は勝つ、もんか』、読む。私の解説に一カ所、誤植あるのが残念。10時過ぎ、家を出て東京駅へ。大阪で行われるアンティークマーケット。一緒に行こうよと某編集者を誘っていたのだが、彼はオモチャを買い過ぎていま、マジに夫婦の危機に直面しているとやらで、パス。一人じゃあなあ、と行こうかどうか迷っていたが、3月のトイマーケットは沖縄行きがダブるし、4月の名古屋のモダン文化マーケットはいくつもりだが足の手術の事後ではひょっとして行けないかも知れず、今日もダラけ気味で仕事は出来なさっぽいし、ええい、と出発。10時56分発のぞみに飛び乗る。

 車内で昼飯、あなご天丼と茶そばのセット。案外うまいが、天丼に入っていた天ぷら二切れのうちあなごは一切れのみ。あとのひとつはカボチャだった。その旨をちゃんと品名に表示せんか。高橋晄正の『自然食は安全か』を読む。自然食信仰の基本にある反近代への欲求の問題はUFOや超能力のムーブメントにもつながっている。文明を敵視する自然回帰派の人々の多くが、なぜかその自然派生活スタイルを食にのみ導入しようとしている身勝手さへの指摘あり。要するに彼らは“限りなく科学の浸透している現代社会の便利さ、快適さから離脱することのできない、いわば科学文明に飼い馴らされてしまった自然人”なのだ、と著者は説く。『買ってはいけない』の著者の家の食生活が巨大な冷凍冷蔵庫によって支えられていたのが思い浮かぶ。オタク文化の極限的な環境での情報生活を享受しながらオタクを罵倒する一部若手文化人もどきたちにも通じるな(笑)。いずれも、自分の言動のこっけいさにまったく気がついていないのである。

 高橋氏の著書にもどると、酸性食品・アルカリ性食品論が、栄養学の面ではとうに(昭和32年)理論的に打破されているのに、日本ではいまだこの説の信奉者が多いのは、東洋思想の陰陽論との対比において受け入れやすいからである、という指摘などがおもしろい。いずれにしても、以前の日記にも書いたが、イイコトは言っているのにもかかわらず極めて読み通しにくいこの本をやっと通読できたのだから、車中読書というのも馬鹿にできない。

 雪害で十分ほど遅れ、1時30分に新大阪着。新梅田のスカイビル3階の会場。特別入場券1000円で買って(こうすると一般入場より早く入れる)入り、会場を回る。ブリキのオモチャが主体だが、これらはみな十万円代の世界であり、縁がない。また、ウルトラマンや仮面ライダーなどのキャラクターものも基本的に買わない(火花を吐いて走るクモ男のゼンマイオモチャ12000円があって迷ったが、結局これも買わず)。岡田斗司夫などと行くと向こうがガバガバ買うのに刺激されてこっちも買い込むが、今回は一人なのでじっくりと選ぶ。

 どれだけキッチュなものか、が私の選択基準。昭和40年代初期のヌードトランプなど買い込む。古いチクオンキ類を売っている店で、朝日ソノラマ発行の催眠術教材のソノシートがあった。ターンテーブルにウズマキ模様の台紙を置き、これをじっと見つめていると自己暗示がかけられる、というバカバカしいもの。これを見つけてヨロコんでいたら、その下にカルピスソノシート『声のアルバム』というのがあって、ワッと小さく声をあげた。これはカルピスの景品で、5枚組のソノシート。世界の歌とか日本の歌などの他に、森繁久彌のナレーションでおくる、エジソン、乃木大将、毛沢東などの声の記録、さらに藤村有弘のナレーションで、珍イビキコレクション、パキスタン人のガマの油売り、酔っ払い収容所(トラバコ)の録音、さらには山野一郎の活弁『ジゴマ』など、ユニークな声の記録を集めたもの。これ、高校時代に友人の千葉という男の家で聞いてから欲しくなって、24年間ずっと探していたソノシートであった(しかも、当時のものより保存状態がいい)。これが500エン。来阪のモトをとった気になる。

 結局、3時までいて買った総額は3万ほど。安いものしか買わなかったということである。そのまままた新大阪まで戻り、東京へ帰る。在阪時間正味2時間半。せっかく大阪へ行ったんだから他に寄るところもあったろう、などと思うかも知れないが、純粋にガラクタを買いに行っただけ、という方がイサギよい。夕食用の松坂牛だけオミヤゲ屋で買って、のぞみで帰京する。

 東京駅から青山に寄り、買い物。交通、やたら混雑。帰って風呂へ入り(朝方入れておいた風呂であるが、入る暇もなく飛び出たのであった)、夕食作り。松坂牛をステーキにして、おろしポン酢と自家製ニンニク醤油で。それから鯛の笹漬けを塩昆布とカイワレで和えたもの。ご飯代わりに大阪駅で買った鯖の笹寿司。これが実にうまい。以前新幹線車内で食べて感心して、その後、大阪へ行くと必ず買うことにしている。探せば東京駅にも売っていそうだが。

 9時、K子と『おにいさまへ・・・・・・』見ながら食事。例のポルノ小説家の娘、父を軽蔑していたのが、その父が昔、純文学を書いていたことを知って尊敬するようになる。これがパブリック・イメージなんだろうから腹も立たない(このアニメそのものが大誇張されたパブリック・イメージの集大成である)が、笑ってしまう。純文学を書いていたときはアパートの家賃すら払うこともままならなかったというから、今のお屋敷も、一流私学への入学金も寄付金も、ホテルのレストラン借り切る金も、みんなポルノが稼ぎ出したわけじゃないか。

 ひえださんから貰った2000年記念の日本酒(イタリアングラスボトル入り)を飲み、酔ったような酔わないような。『シンドバッド7回目の航海』LDで再見。昔望月三起也が『新藤抜刀7回目の紅海』というマンガを描いていたが、覚えている人はいるかな? 12時就寝。

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