裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

水曜日

オタクの末裔

 朝8時起き。朝食、シーフードサラダとリンゴ。K子にはトウモロコシ炒め。しかし、メシ作るの好きだな、オレ。今日は掃除のおばさんが来るので、早めにフロ入って、弁当を作る。昨日の鳥手羽の残り。

 それからずっと、D書房の前書き原稿。読者からのお便りを見ながら書いていくがこのネタだけで一章書けそうである。『男の隠れ家』から電話、北原さんとの対談、車で拾っていってくれるとのこと。有り難い。文化放送28日の朝も、車が迎えに来るとのことだが、これは朝7時であり、寝坊されないためであろう。文化放送もひとつ、2月10日の吉田照美は、テクで行く。

 朝日新聞『AERA』届く。昨日、面白かった、と知人から電話あったが、編集部内での評判もよく、B級ネタは今後も定期的にやれそうな感じとのこと。よしよし。編集部内での評判がいいというのは結構である。正月にやったモノマガの特集記事もギリギリのやっつけ仕事だったが社内評判は一番とのこと。もっとも、他の人の記事がカタすぎたから、私のところのヘンさが一番目立ったというわけだろう。昔から、一部マニア受けという評価しか自分自身に与えてこなかったせいで、こういう評判はなかなかピンと来ず。

 昼はレトルトの自然食豆カレー。なかなかうまい。CDで桂文楽の『よかちょろ』を聞く。“親父は人間のヌケガラです”“番頭ーっ!”のところの間(マ)、何度聞いても最高。志ん生がモダン・ジャズだとすると、文楽はスイング・ミュージックである。明快な歯切れのよさ、洗練されたリズムとテンポ。志ん生を持ち上げるのに対照として文楽を“ただうまいだけの落語家”と言うような半可通が多いが、何ョ言ッテヤンデェという感じである。

 いつ聞いても同じテープレコーダーみたいな芸、という人も多いが、現在のように録音、録画が一般的な時代の芸人ではないのだ、ということを忘れてはいけない。落語は寄席に出かけていって聞くライブ芸であり、文楽のような地位のものは、常にベストの状態の芸をお客に提供する義務があった。志ん生の場合、彼を聞きにいっても大ハズシする可能性がかなりあるのである。すでに伝説となった人だから、やれ高座で寝たの、演ってるうちに違う話になっちゃったの、というエピソードが“ちょっといい話”として語られたりするが、金を払って出かけた客にとってはたまるまい。志ん生のファンであることはバクチだったのだ(一時の談志がそうで、三回聞きに行ったうちの二回は投げて演っていた)。バクチだからのめりこむマニアがつくのであるが、そうしょっちゅう落語を聞きに行くわけではない一般の客のことを考えれば、文楽の持つ安心感はむちゃくちゃに大きいものだったに違いない。それより何より、文楽はたとえテープレコーダーであっても、何度聞いても面白い。ここが凄い。

 鶴岡から電話。なんかえらい怒っていて“俺の友人がこないだ結婚数カ月前に事故で死んだんですよ。生きなくちゃいけないヤツが死んで、なんでアイツが生きてるんですか!”という青春の怒り。ロフトで言え! とハッパかけておく。

 6時半、タクシーで新宿歌舞伎町。今日は内容も内容、タイトルもタイトルなのでガラ空きかと思ったら、案外入っている。楽屋でD書房のIくんに原稿渡す。平野氏に挨拶。客席にはいつものメンバーの他に眠田さんなどもいて、活気。楽屋で斎藤さんと話す。先日のインタビューでの、私の友人たちからの私の感想、談之助の初対面の私の印象というのが、結局カットしたが“人さらいかと思った”というのだったのに笑う。なんだ、人さらいに見えるヤツってのは(笑)。

 7時半、開始。話がカミ合わなかったとき(彼が途中退席しちゃうとか)のために場つなぎのビデオとか本とか用意してきたんだが、最初から妙にボケとツッコミという役柄分けがつき、実に話しやすい雰囲気だったのは意外。オタクと社会性、オタクと児童ポルノ禁止法、オタクと原発、などのネタを向こうがふり、こちらが平野世代のアナーキズムとオタク世代のペシミズムなどにからめて答える。前半9時半まではアッという間。後半、鶴岡を壇上にあげ、こういう新世代が出てきたことで、私も平野さんも立場が同じ、自らのアイデンティティを保つためには“がんこなおじさん”にならざるを得ない、ということで一致。お客もいつもより真剣に聞いていた風なのが意外であり、うれしかった。最後は平野氏のリクエストでリチャード・マシスンの『血の末裔』を朗読。みんなから気味悪がられ、凄まじい感受性を内に秘めながらもその鬱屈を吸血鬼へのあこがれ、というトンデモない夢想に託し、妄想と現実をゴッチャにしているうち、その夢想がなんと現実になってしまう少年の話。なんとなく、われわれ第一次世代オタクの象徴のような話で、大好きなのだ。ただし、ろくに練習せずにやったのでつッかかり数カ所、55点くらいの不出来。もっとも斎藤さんにはウケていたようだ。

 11時半、打ち上げ。睦月さん、鶴岡、眠田さんは帰ってしまったので安達OB、開田夫妻、啓乕宏之くん、談之助、奥平広康くんの9人。談論風発、このあいだの打ち上げがバテバテだったのに比べてハイテンション維持。1時半まで。帰って、寝る前にメールチェック。昨日、“時間返せ”と書いた朝日の記者さんからお詫びメールあり。そんなに怒ってない(ありがちなこと)なので気にしないように。それにしても、この日記の影響力や大にして速。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa